第13話 仮死魔霊子、再び
ネット動画を使って、呪いを拡散させている奴がいる。
事務所に報告したところ、この話は祓い屋達の間で瞬く間に広がっていった。
自分達の術を悪用している奴がいるんだもの。絶対に許さない、犯人を取っ捕まえるなら俺が、私がって名乗りを挙げる祓い屋が、何人もいた。
だけどちょっと待ったー! この件はあたしが掴んだのだから、担当はあたしだ!
御堂君だって協力してくれるって言ってくれたし、今さら他のやつに任せられるかー! 絶対にあたしが、お縄にしてくれるー!
と言うわけで、何とかあたしが担当することで落ち着いたのだけど、その後の進展はというと。
「前園ちゃ~ん、仮死魔霊子の足取りは掴めた~?」
「まだでーす。今調査班が頑張って調べてくれてますから、もうしばらく待ってくださーい」
「それ昨日も聞いたよ~」
事務所の机にぐでーっとうつ伏せながら、覇気の無い声での会話。
息巻いていた割に、全然やる気が感じられないって? だってしょうがないじゃない。
事件の発覚から半月が経ったというのに、未だに手がかりゼロなんだもの。
これと言うのも、うちの調査班が悪いんだ。だってあいつらときたら何と動画の配信者に、『あなたの動画には呪詛が込められています。即刻削除してください』ってな感じのメールを送ったのだと言う。
そしたらやっぱりと言うか、なんと言うか。配信者の仮死魔霊子は、動画を削除してトンズラ。
過去に投稿した動画も全て消されちゃってて、彼女に繋がる手がかりがなくなっちゃったもんだから、一気に手詰まりになってしまったのだ。
どうしてそんな相手を警戒させるようなメールを送ってしまったかと言うと、答えは簡単。
通常祓い屋に来る相談は、幽霊や呪いを祓ってほしいってものばかりだから、今回のような呪いの動画配信者を捕まえろって仕事は稀。つーか、初めてのケースなんじゃないの?
だからどう動いていいか分からずに、とりあえず削除要請をしちゃったんだよね。
けど問題はその後だ。ネット犯罪に長けた優秀なエージェントなんてうちにはいないもんだから、捜査は絶賛難航中ってわけ。
では祓い屋とは別に事件を追っている御堂君はどうかと言うと、彼も独自に調べてくれてはいるけど、あまり進んでないみたい。
ああっ、もう! 呪いの動画はなくなったからこれ以上被害者が出ないのは良いんだけど、これじゃあモヤモヤが晴れないわ!
机にうつ伏せたまま、ため息をついた。
「もう、少しはシャキッとしてくださいよ。仕事は他にもたくさんあるんですから、今は気持ちを切り替えてそっちを……」
「あたし今日既に、お祓いを三件済ませてきたんだけど」
「そ、それじゃあ、本でも読んで気分転換をするとか。あ、そうだ。そういえばお昼のついでに本屋によったら、月刊スリラーがあったから買ってみたんです。火村さんも読みます?」
月刊スリラー?
頭にハテナが浮かんだけど、前園ちゃんの「おい、こいつマジで分かっていないのか?」と言わんばかりの呆れた顔を見て、必死に頭を回転させる。
月刊スリラー、月刊スリラー。……あっ!
「御堂君の雑誌ね。丁度読みたいって思ってたんだよねー」
「その割には思い出すのに時間が掛かってたみたいですけど。ああ、御堂さんが可哀想」
べ、別に良いじゃない。ちょっとド忘れしてただけなんだから。
「まあいいです、それより今月号に、あの動画についての記事が書いてあったんですよ」
「え、マジ? 見せて見せて」
渡された月刊スリラーの表紙には、長い前髪で顔を隠した不気味な喪服姿の女性の写真がプリントされている。いかにもザ・オカルトって感じの雑誌だ。
そういえば御堂君とはそこそこ会っているのに、彼の作る雑誌を見たのはこれが初めてだ。
中をめくると、全国から寄せられた心霊体験や、ホラー漫画、心霊写真特集等が掲載されていて、結構面白いじゃない。
心霊写真は昔はともかく、加工技術が発達した現在ではインチキ呼ばわりされる事も多いけど、ここに載っているのは本物だね。あたしにはよーくわかる。
そうしてページをめくっているとコラムコーナーで、例の動画について触れていた。
『見た人は呪われる呪いの動画』。そんな文字が踊っていた。
おそらく動画を特定できる表現は、避けなければならなかったのだろう。所々表現をぼかしていたけど、それでも動画の危険性についてはちゃんと書かれていた。
あと『興味を持っても、面白半分で行ってはいけない』と注意がされていて、さらに『そもそも不法侵入は犯罪です』ともある。
このコラム書いたの、御堂君だよね。ただ注意を促すだけでなく、法律違反であることを訴えるのが良いね。ただ危険だと訴えるよりも、こっちの方が抑止力になる。
さすが、よく書けてるわ。
「これでバカなことをする人が減ってくれたらいいんだけどね」
「そうですね。あと例の、仮死魔霊子さんも。もしかしたら今回の騒動で懲りませんかね。どうしてあんな配信をしたのかは分かりませんけど、今後大人しくしてくれるのなら、事件は一応解決ってことになりません?」
「まあ、それはそうなんだけどね」
前園ちゃんの言いたいことはわかる。
そもそも取っ捕まえたところで、呪いを規制する法律もないのだから、警察につき出すわけにもいかない。
祓い屋協会からはこっ酷く怒られて、何らかのペナルティは課せられるだろうけど、大した罰にはならないんじゃないかなあ。
つまりこのまま大人しくしているも、手がかりを見つけて捕まえるも、結果はあまり変わらない。だったらこのままでも、良いっちゃ良いんだけどさ。やっぱりなんか、釈然としないなあ。
そんなことを考えていたその時、不意にポケットの中のスマホが震えた。
取り出して画面を見てみると、御堂君からの通話着信だ。
丁度スリラーを読んでる時に電話を掛けてくるなんて、グッドタイミング。
よし、記事の事を誉めてあげよう。
「もしもし御堂君。今丁度月刊スリラー読んでたんだけど、御堂君のコラム見たよ。よく書けてるじゃん」
向こうが挨拶する間もなく喋ると、御堂君の戸惑ったような声が返ってくる。
『あ、ありがとうございます。今月号、買ってくれたんですね』
「当たり前じゃない。開店前の本屋に並んで、朝一で買ってきたよ」
途端に前園ちゃんが「買ったのはあたしです!」って声をあげたけど、今は電話中だよ。静かにして。
『えっと、発売されたのは三日前なんですけど。って、今はそれどころじゃありません。例の動画配信者の仮死魔霊子さん。彼女が新しいチャンネルを立ち上げて、新作動画を投稿してるんです』
「んんっ!?」
予想していなかった言葉にうなり、前園ちゃんもスマホに顔を近づける。
「御堂さんですね。あたし前に一度お会いした、火村さんの同僚の前園です。あたし達もその動画を見たいので、詳しく教えてください」
『了解です。動画のタイトルは、『カシマレイコの怪談チャンネル』です。あ、『カシマレイコ』は漢字じゃなくて、カタカナで書かれています』
この前の動画から、漢字をカタカナに変えただけかい!
こりゃあ御堂君が見つけてくれていなくても、遅かれ早かれうちの調査班が気づいただろう。はたして仮死魔霊子に、隠す気はあるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます