第51話 紅の公園

 「デート?」


「そう!デート!」


「デート…デート…」


デート?


デートって…


あのデート?


「星乃…デートの意味、知ってるか?」


「知ってるよー。何言ってんの?佐野くん。」


だよな。


知ってた上で誘ってるんだよな。


よし…じゃあ…


「なんで?」


なんで星乃が、俺とデート?


「なんでって…私デートした事ないからさ!」


「そうなん?」


あー、だから俺と…


「って、だから!なんで俺とデートなんだよ!そういうのって普通…好きなやつとするもんだろ。」



「そうだよ!」



「え?」


「八月七日の午後…十三時にベアーバンズ集合ね!」


「あっ…ちょ、星乃!」


(ピロン…。)


切れた…電話。



なんで?





 八月七日


なんで俺と星乃がデートするんだ?


おかしいだろ。


だって、俺と星乃は友達で…


それ以上でも、それ以下でもない。



やっぱりあいつ、デートの意味分かってねぇな。



「お待たせー!」


星乃。

いつもと変わらない。

元気そうな星乃だ。

良かった。


…良かったって…いっていいのか。


てか…


「お前…なんだよその…格好。」


「え?変かな?」


「変…じゃないけど…」


完全に意識してるじゃねぇか!


スカート短っ!

それに、いつもと髪型も少し違う気がする。


「良かった!頑張ってオシャレしてきたんだ」


「そ…そか。」


おいおい…

これじゃあ本当にデートじゃねぇか。



 ベアーバンズ店内


「お前らどうしたんだ?そんなおしゃれして。もしかしてデートか?」


おっちゃんまでデートデート言うな!


「そうです!今日はデートなんです!」


「お前っ、やめろよ!バカ!」


「あー、ひどい。バカって言ったー。」


お前が変なこと言うからだろ!


「あーん。隼斗ひどいー。」


「気持ち悪いぞおっちゃん!やめろよな!」


「あははははは!」


笑ってる…。


星乃の笑った顔…


久しぶりに見た気がする。


「今日は特別にスペシャルメニュー出してやっから待っとけ!」


「いいんですか?嬉しい!」


「いつものでいいよ。なんだよ…スペシャルメニューって。」


「まあまあ、楽しみにしとけって!」


「しとけってー!」


なんだ…この変なノリ。


てか、変なのはノリだけじゃなくて、

俺が星乃とデートみたいなことをしてるこの状況だ。


なんで…俺なんかと…


『もしさ…雫ちゃんが佐野のこと気になってるって言ったら…』


杉原の言葉を思い出してしまった。




「はいお待たせ!」


「わあ!凄い!」


「…何…これ。」


ハンバーガー…じゃない。


バンズにフルーツが挟まれてる。


「ベアーバンズの新作、フルーツバーガーよ!生クリームと果物がバンズと最高にマッチングした究極のバーガーだ!」


「美味しそう!それに見た目も可愛い!」


「だろーう?生クリームはポテトにも合うから、騙されたと思って食べてみ!」


おいおい…噓だろ?


ハンバーガーは、ハンバーガーだから美味いんじゃねえか。


フルーツバーガー?

フルーツサンドのパクリじゃねえか!


「おっちゃん!チーズバーガーは?」


「佐野くん!一口食べてみようよ。せっかく作ってくれたんだし。」


食べなくても大体の味の想像がつくんだよ。


フルーツサンドより食べ応えがあって、

フルーツサンドより食べにくい。


「隼斗は食わず嫌いだからなぁ。分かったよ。チーズバーガーな。」


だいたい、

昼飯にデザートなんて食いたくねえし。

ここに来た時点で俺の口の中はチーズバーガーの口になってんだ。


「佐野くん口開けて!」


「あ?」


(バクっ!)


「…!」


星乃…!

お前!


「えへへ。どう?美味しい?」


「おまあふあへんあお!」


「えー?何言ってるかわかんないよー。」


お前ふざけんなよ!


無理やり食わせやがった。


「お!どうだ隼斗、美味いか?」


むかつく…。




 「美味しかったね!佐野くん!」


何でこいつはこんなに嬉しそうなんだ?


「俺はチーズバーガーが食いたかったけどな。」


「それじゃあいつもと変わらないじゃん。」


いつもと変わらなくて、何がいけないんだ…?


「あ!佐野くん!あそこの公園行こうよ!」


星乃。

お前スカートはいてるの忘れてるだろ。




何で星乃とブランコなんか乗ってんだ。


「なんか懐かしいね!ブランコ乗るの。」


「高校生にもなってブランコなんて乗らねえだろ普通。」


小さい頃は大好きだったブランコも、

今では苦手になった。


「ブランコってさ…大きくなってから乗ると、浮遊感ふゆうかんが増した気がしない?」


「うん。酔うから嫌い。」


「そこまでは言ってないよー。」


けど…それだけ俺たちが成長したってことなんだよな。



「なぁ星乃…。」


「ん?」


「何で今日…わざわざデートなんて言ったんだ?」


「え?」


これまでだって、星乃と二人きりで遊ぶことなんて沢山あった。


「何で今日は、いつもよりお洒落な服着てるんだ?」


「それは…」


何で今日…






いつもみたいにチーズバーガーが出てこなかったんだ?







「おかしいだろ…。」


「佐野くん…」


いつもと違う。


違う…



違う。



『いつもと変わらない』…そう思っていた。


違う。


気付いてなかったのは俺だった。


星乃はいつも…頑張ってたんだ。


病気のことも、辛いことも隠して…


俺の前で…


『いつもと変わらない』星乃であり続けてくれたんだ。




「星乃……ごめん…。」



涙が…止まらなくなった。



「佐野くん…?」


情けないよな。


なんで泣いてんだよ…俺。


ちくしょう…。



「今日はね、特別な日なの。」


……え?


「いつもの私じゃ…ダメなの。」



「どういう…こと?」



「いつもはね、どうせ私は死ぬんだから、せめて誰かのために何かしてあげたいって思ってた。」


星乃……。



「でも…今日は違う。今日くらいは、自分のわがままを言いたくて。」


そっか……。

いつもそんなこと考えてたのか。


「星乃は…わがままの方が似合うと思うぜ。」


これが…俺の精一杯の笑顔。



星乃は…

いつもわがままで、素直で優しいやつだ。


俺は……そんな星乃が




「佐野くん………。わがまま…言ってもいいかな。」


「なんだよ。」











「私は、佐野くんの事が好きです。」







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