第50話 ずっと

 あれから、ずっと星乃の隣にいた。


帰る時間なんか忘れて…


今、何時だろ。



「ねぇ、佐野くん。」


「ん?なんだ?」


「私ね!佐野くんが初めての友達なんだよ!」


俺が…


星乃の初めての友達…か。


なんか…


「悪い気はしねぇな!」


「ふふふ。素直に喜びなよー。」


「うるせーよ。」


胸が…痛い。



今思えば、星乃の行動で不自然な点はいくつもあった。


入学式を欠席したのも、やったことないのにバスケがしたいって言ったのも…


星乃は俺がバスケをしている姿が見たいからって言ってたけど、

本当はやってみたかったんだろ。


激しい運動は心臓に負担がかかっちまうから、

外周だって、リレーだって出来なかった。


たまにあったドタキャンは、自分でもいつ来るか分からない病気の症状のせいだったって…


初めて四人で遊んだあの日に…

俺を全力で追いかけて来てくれたあの日に…


ちゃんと気付いてれば良かった…。






「そろそろ行くわ。もう遅いし。」


「…うん。」


キリがない。


本当は、まだ居たかった。


このまま別れたら、もう二度と会えないんじゃないかって思うと。


「また明日、来るよ!」


「大丈夫だよ。明日には良くなってる。」


「でも…もし、良くならなかったら…」


「……。」


……


やめた。



「……じゃあ。またな。」


「…うん。またね。」


そんなこと、星乃が一番分かってるはずだ。



 翌日


全然寝つけなかった。


一晩でいろんなことを考えてしまった。


星乃…


本当に大丈夫かな。



「隼斗ー。起きてる?」


母ちゃんだ。


珍しく帰って来てたのか。


「なにー?」


「ちょっとエアコンのフィルター外すの手伝ってー。お母さん腕上がらなくってさ。」


「うん。わかった。」




 「うっわ…きったねぇ。」


エアコンの中って、こんなにほこりまみれになってんのか。


「そうよー。定期的に掃除しないと、ずっとこのままよ。」


……それにしても汚い。


母ちゃんはほとんど家に居ないし、エアコンを使っているのは殆ど俺だ。


当たり前のように使っていたけど、こうやってこまめに手入れしないといけないんだな。


「ほら、掃除機持ってきて!」


「はいはい。」


星乃の病気も…

何度も病院通って、診察して、治療して…


俺たちが当たり前のように何気なく過ごしている中でも、一人でずっと頑張ってたんだな。


「どうしたの?あんた。また悩み事?」


母ちゃんはいっつも俺の心を読み取る。


てか、前にあんな質問したからか。



『もし、一年後に自分が死ぬって分かったら…母ちゃんなら、どうする?』


今となってはあの質問も無意味だ。


一年後…俺は死なない。

死ぬかもしれないけど、それは星乃の予知能力とかそう言うのじゃない。


「いや…なんでもない。」


「そう?お母さんには、何か言いたいことがあるように見えるけどなぁ。」


「ねぇよ。別に。」


なんて言えばいいんだよ。


友達がもうすぐ死ぬかもしれないって、母ちゃんに言ったところで…何も変わらない。



「もしかして…彼女出来たんでしょ?」


「……は?」


「見せて見せて!どんな子?写真は?」


「ちげーよ!何言ってんだよ勝手に!」


「えー、ちがうのー?」


「違うって言ってるだろ。ったく。」


急に何言い出すんだよ。

出来たとしても、母ちゃんには言わないね。


「好きな人くらいいるでしょ?」


「は、は?いねぇよ!てか、なんでそんな気になるんだよ。」


「気になるわよー。あんたがどんな子を好きになるのかなーって。」


気になるものなのか…?


「どんな子を好きになっても、あんたが選んだ子なんだからお母さんは何も言わない。ただちょっとだけ、あんたとそういう話をするのがお母さんの夢でもあるのよ。」


変なの。


どこの親もそうなのかな。


「隼斗が好きになる子は、きっとお母さんみたいな人なんだろうな。」


「なんだよそれ…。」


「冗談よ!さっ、あともう一踏ん張り!」


母ちゃんみたいな人…


お節介で、お喋りで、仕事が好きで、ちょっと親バカで…


まぁ、でも…


それが俺の母ちゃんだから。



「今度…連れてくるよ。」


「え?」


「好き…とか、そういうのじゃねぇけど。」



母ちゃんみたいに…優しい人。



「会わせたい友達がいるからさ。」


人の為に…尽くせる人。


「楽しみにしてるわ!」




俺が…失いたくない人。




 葬式場


「なんで…。」


星乃…


ふざけんなよ。


いくらなんでも早過ぎだろ。


「………………。」


きょう…やめろよ。


「………………。」


うるせぇよ。


「………………。」


「うるせぇっつってんだろ!」


「「佐野くん!」」



…はっ!



……夢?


俺の部屋だ。


すげぇ、寝汗。


「……はぁ。」


最悪な夢だった。


(ヴーヴーヴーヴー…)


スマホのバイブが鳴る。


誰だろ。

こんな時間に…



星乃だ。



「もしもし?佐野くん?」


「あのなぁ…いつも思うんだけど、佐野にかけてるなら佐野しか出ないだろ。」


「あ、そっか!つい聞いちゃうんだよね。佐野くんって呼びたくなるんだよ!」


「なんだよそれ。」


「えへへ。あ、そうそう!あのね、明日の文化祭準備なんだけど…」


「あー、あれなら杉原に言って代わってもらったぞ。まだ出てこれねぇだろ。」


「その事なんだけど…明日の佐野くんの当番、千葉くんに言って代えてもらったからさ!」


……え?


「いや、意味わかんないんですけど。」


「私がお願いしたの!」


「それは分かるけど…なんで?」


杉原には俺から伝えた。

星乃の体調が悪いってこと。

病気の事は言ってない。


だから明日の文化祭準備は、俺と杉原が当番だったんだ。


けど、なんで俺まで克樹と交代なんだ?



「佐野くん…」



「………ん?」


「八月七日……私とデートしてください。」




今、なんて?

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