第49話 四月五日
星乃 雫。
それが私の名前です。
雫って名前の由来は、
大地を潤す
誰かを助けてあげられるような人に育ってほしいって意味が込められているそうです。
そう、お母さんから聞いたのは…
私が五歳の頃。
「…原因不明の病気ですね。」
「…そんな。」
当時の私には、どうしてお母さんがこんなにも悲しい顔をしているのか分からなかった。
先生も、どうしてそんなに怖い顔してるの?
病名は不明。
症状は、めまい、
何より怖かったのが、
突然心臓が止まることがある。
「こんなケースは見た事がありません。一緒に頑張りましょう。」
元々生まれた時から体が弱くて、通院を繰り返していたそう。
「…ごめんね。雫。」
お母さんは泣いているけれど、私はそんなに辛いとは思わなかった。
時々起こるその症状は、
その時が苦しいだけで、あとは他の人とは何も変わらなかったから。
「雫ちゃん、今日も体育欠席するの?」
「うん。今日は駆けっこだからダメだって先生が…。」
「星乃のやつ、またサボってるぞ!」
「コラ!そんなこと言わないの!」
心臓への負担が大きいから、
激しい運動はさせてもらえなかった。
「いちについて…よーい」
(バンっ!)
「星乃さんは転校することになりました。」
病院が変わるごとに、転校がともなった。
だから、友達なんて出来た事がなかった。
「お母さん。今度はどこ?」
私がそう聞くたびに、お母さんは悲しい顔を浮かべた。
「今度はもっと大っきい病院よ!雫の病気も、きっと治してくれるわ。」
分かっていた。
私の病気は治らない。
過去に前例がなく、どうすることも出来ない病気だってこと。
私はそのまま高校一年生になった。
「…もって、あと一年というところでしょう」
「………!」
驚いた。
先生の言ったことに対してじゃない。
あまり驚かなかった自分に対してだ。
どこかで、覚悟のようなものは出来ていたからなのかもしれない。
けれど…
「…先生!どうか…どうか娘を…!先生…」
お母さんの姿を見たら、
自然と涙が出てきた。
病院のロビー
「雫…。ごめんね。」
「どうしてお母さんが謝るの?私平気だよ?」
「雫……。」
「お母さんは悪くない。先生も悪くない……。悪いのは…私の体だけ。」
そう…私が悪いんだ。
「今日…入学式だったのにね。」
「…んーん。明日からちゃんと学校行くから。大丈夫だよ。」
本当は…
少し楽しみだった。
だから制服もちゃんと着ていたんだ。
「ねぇ、お母さん。ちょっとだけ散歩してきてもいい?」
(ガタンゴトン…ガタンゴトン…)
電車が通る。
一年後に…私は死ぬ。
実感が湧かない。
だって…
……だって。
こんなにピンピンしてるんだよ?
普通の子達と何も変わらない。
(カンカンカンカン…)
死ぬのって…
怖いのかな。
(カンカンカンカン…)
痛いのかな。
(カンカンカンカン…)
……
あれ?
踏切の中に…人が。
男の子だ。
まって…電車来てる!
助けなきゃ…!
「っ…!」
(パァアアアア!!)
………
「……はぁ……はぁ……」
よかった……。
間に合った。
「大丈夫?」
大丈夫…じゃない事は、彼を見てすぐに分かった。
「ほっとけよ。」
だけど…
「ほっとけないよ。だって君、すごく辛そうにしてるんだもん。」
この時彼の中に、私と似たようなものを感じた。
「死のうと思ってた。」
…やっぱり。
踏切の中には自分で入っていったんだ。
「だめだよぉ。君が死んだら、きっと悲しむ人がいるよ。」
私とおんなじ制服。
同い年かな?
だったら尚更…
「てか、本気で死のうなんて思ってねぇよ。」
なんだか…
ほっとけなくなった。
心配だ。
このまま別れたら…
もしかしたら彼は、この世から居なくなるかもしれない。
「ねぇ…」
せめて…
私が生きていられるうちは…
生きて。
「もし私が、君の寿命が見えるって言ったら…どうする?」
嘘をついてしまった。
君を助けるための嘘を。
「……なんだよそれ。」
全部…佐野くんに打ち明けた。
佐野くん……
怒ってる…かな。
そうだよね。
急にこんな話しても…。
「それじゃあ…寿命が見えるって言うのも…」
ごめんね。
佐野くん。
「うん…。嘘だよ。」
ごめんね。
「…ごめんね。」
許して…もらえないよね。
「あーーーーもう!!!」
「…!」
佐野…くん?
「なんでこんな時にお前が謝んだよ!」
「…え?」
「お前が大変な時に…なんで謝るんだよ。」
だって……
悪いのは…わた
「お前は何も悪くねぇだろ!」
……!
『雫…。ごめんね。』
『どうしてお母さんが謝るの?私平気だよ?』
『お母さんは悪くない。先生も悪くない……。
悪いのは……』
「悪いのは…星乃の体の方だろ!」
「……!。」
佐野くん…。
「大丈夫か?しんどくないか?」
あぁ…。
これじゃあまるで…
あの時の私たちと、反対だね。
「うっ……うっ……佐野くん…。」
涙が…止まらない。
「星乃!大丈夫か?どこか痛いのか?」
んーん…。
違うよ、佐野くん。
私…
嬉しいの。
だって…
「…ありがとう。」
こんなに大切な人が出来たんだから。
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