第48話 違和感
正直…最近の俺は何か変だ。
俺がずっと好きだったのは、
目の前にいる杉原なのに…
こうして二人でデートみたいに
文化祭の買い出しに行ってるのも、
俺を誘ってくれたことも、
本当はもっと嬉しいはずなのに…
体育祭の時だって…
((ガシっ))
『……え?』
……どういう……こと…?
杉原が…
俺に抱きついて……
『…カッコよかったよ。佐野。』
杉原に抱きしめられた時も、
何故か素直に喜べなかった。
…そうだ
たぶん、俺は…
「佐野?」
「…あ、ごめん!ぼーっとしてたわ。」
「急に黙り込むから…なんか言ってよ!私が変なこと言ったみたいになってない?」
「あ…あはは。変なことというか…」
変…だよな。
星乃のこと…気になっている俺がいるってことなのか…。
「あのさぁ佐野。」
「え?」
「…もしさ、雫ちゃんが佐野のことを気になってるって言ったら…」
杉原…
「佐野は…どう思う?」
「どうって…」
自分でもはっきり分かった。
星乃に対する気持ちがじゃない。
俺の心は…もう
「あのさぁ…杉原。」
ダメだ。
やっぱ俺…変だわ。
「何でもない。行こうぜ。」
どうして。
「…うん。」
どうして…こうなっちまったんだ。
ベアーバンズ店内
杉原…今日の買い出し、きっと楽しくなかっただろうな。
何やってんだろ…おれ。
「おいおい、どうしたんだよ隼斗。今日はひとりか?」
「うるせぇ。チーズバーガー食いに来ただけだろうが。」
「なんだその態度は!」
「うるせぇなぁ!いいだろ別に!おっちゃんには関係ねぇだろ!」
ダメだ。
なんで俺…
こんなにイラついてるんだ?
「はぁ……。」
なんで俺…
「あんなにマジぃチーズバーガーは初めてだ。」
いや…
おっちゃんの作るチーズバーガーは
いつもと何も変わってない。
ただ…
俺の心が、腐ってるだけだ。
「あーーーーんもうー!」
何でこんなに…ムカムカすんだよ。
なんか…
全てが嫌になった気分だ。
これじゃあまるで…
入学式の時と…
………
(ピリリリリリ…!)
「うわっ!」
なんだ急に。
…さては、星乃だな。
やっぱり。
当たりだ。
運悪く俺の機嫌が悪い時にかけてきやがった。
けど悪いのはお前だぞ、星乃。
今日はお前を
許さない。
「…なんだよ。」
「……佐野くん。」
そんなか細い声で言ってもダメだ。
「聞こえねぇよ。ちゃんと喋れよな。」
今日は本当に許さねぇ。
「ごめん……佐野くん。」
「……え?」
数秒前に思ってたことなのに、
それはすぐに頭の中から消えた。
許さない……って思ったはずだったのに。
俺は今、星乃の家の前にいる。
電話越しで、星乃が泣いてた。
理由は分かんないけど。
あんな星乃の声、初めて聞いた。
(ガチャ)
玄関の扉が開く。
「あ…」
「あら。佐野君?」
星乃の母ちゃんだ。
「こんばんは。あの…星乃…じゃなくて、雫さんに呼ばれて来たんですけど。」
なんで星乃の母ちゃんが…
「どうぞ。上がって。」
なんとなくだけど…
この時、すげぇ嫌な予感がした。
階段を上がるのを、少しためらってしまった。
一歩が重い。
それに…
星乃の母ちゃん…
そっちは星乃の部屋じゃないだろ?
「雫…佐野君、来てくれたわよ。」
この扉の向こうに行くのが…
なんだか凄く怖かった。
「入るわね。」
(ガチャ)
扉を開ける音。
……
「……」
……え?
「……ほ…し…」
「あはは。なに?ちゃんと喋んないと分かんないよー。」
…星乃。
なんで……
なんで……
「そんな顔しないで、佐野くん。」
なんで…
点滴なんてしてんだよ。
「お母さん。ごめん。佐野くんと二人っきりにさせて?」
なんだよこの部屋。
まるで……
病院の病室みたいじゃねぇか。
「星乃…どういうことだよ。これ。」
「ごめんね。急に行けなくなっちゃって。」
「んなことはどうでもいいんだよ!」
なんなんだよ。
なんで何も言ってくれねぇんだよ。
星乃…。
「…事故ったのか?」
「んーん。違うよ。」
「じゃあ何だよ。病気なのか?」
「……。」
「……いつから。」
「……生まれた時から。」
「……平気なのか。」
「……。」
気が付かなかった。
一ミリもそんな素振り見せなかった。
俺の目の前にはいつも…
楽しそうに、幸せそうにはしゃぐ星乃がいたから。
「佐野くん…。隣…座って。」
「………。」
少しずつだけど…
星乃のこと、分かってきたつもりでいたのに…
何も分かってなかった。
「ありがとう。来てくれて。」
「…分かったから。…話せよ。」
「うん…。」
こんなはずじゃなかった。
俺は…
死のうとしたあの日から…
星乃に出会ったあの日から、
一年後に死ぬ自分の未来しか見てなかった。
一年後に死ぬのは自分で、その間に誰かが居なくなることなんて考えてなかった。
杉原の婆ちゃんの時も同じだ。
俺は一年後、
自分が死ぬ未来が決まってて、
だけどそれは、他の人には関係なくて、
こうしてる間にも、俺の知らないところで誰かが命を落としてるんだってことを…
考えていなかった。
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