第46話 夏休み

 「ミーーンミンミンミン」


蝉が…鳴いている。


暑い…。


「ミーーンミンミンミン」


蝉ってなんでこんなにも暑さを倍増させるんだろう。



 (チリンチリーン)


あ、ここのコンビニ…

入り口のところに風鈴つけてる。


(チリンチリーン)


風鈴ってなんでこんなに涼しい気持ちになるんだろう。


「いらっしゃいませー!」


あー…コンビニのエアコン涼しいなぁ。


最高だ。


「あれ?…佐野?」


「ん?」


あれ…この声は…


「水谷!お前ここでバイトしてたの?」


「うん。夏休みだし、家も近いからやろっかなって。」


水谷ん家ってこの辺だったのか。


「そっかー。頑張れよ!」


「ありがとう!何か買いに来たの?」


「あー…そうだった。星乃とゲームで負けた方がアイス奢りって言ってて、…負けたんだ。」


この暑さでコンビニに来た理由も忘れてたぜ。


「相変わらず仲良いよね、佐野と星乃さん。」


「は?仲良いか?いや、よくねーだろ!さっきもゲームに負けたからってムキになって、それでわざと手加減してやったんだからな。」


あいつは何でもすぐムキになるからな。


「ふふふ…。」


「なんだよ。」


「そういうのが仲良いって言うんじゃない?」


……


「……そうなのか?」


「そうだよ。星乃さんはきっと佐野のこと大好きなんだと思うよ!」


どきっ!


「は…はぁ!?…おまっ…何言ってんの?変なこと言うなよな…いきなり。」


何笑ってんだよ、水谷のやつ。


てか、とにかくアイス買うんだった。


アイス…アイス…



 「じゃあまた、文化祭の準備でね!」


「おう!バイト頑張れよ!」


(チリンチリーン)


今思えば、当たり前のように星乃ん家に遊びに行ってる自分がいる。


今日だって…



どんだけ暇なんだよ、俺。



 「佐野くん遅いよー!」


「うるせぇなぁ。ちゃんと買ってきてやったんだからお礼くらい言えよな。」


まったくこいつは…


「ふふ…ありがとう!」


むかつく。



 「美味しい〜。幸せ〜。」


単純なやつ。


この世に星乃より単純な奴なんているんかな?


「さーてと!アイスも食べたことだし…」


「ん?なんだよ?」


「そろそろ…しよっか。」


どきっ!!


なっ……!?


「…なっ……何言ってんだよ!」


「?」


おいおい…暑さで熱でも上がったんじゃねぇのか星乃。


「宿題!夏休みの宿題だよ!」


「…へ?」


「佐野くんが後でしよって言ったんじゃん!」


あ……そうだった。


暑さで駄目になってたのは俺か。


(ピーンポーン)


インターフォンが鳴る。


「あ、きたきた!」


「ん?」


「千葉くんと結衣ちゃんだよ!ほら、佐野くん行ってきて!」


なんで俺が…。


ここお前ん家だろ。



 「なんだよー。隼斗もう来てたのか。」


「佐野、差し入れ持ってきたよ!」


そっか、克樹と杉原は文化祭の準備があったんだったな。


「うおーっ!ベアバンのチーズバーガー!」


「ほら!やっぱり喜んだ!」


「へ?」


やっぱり?…どういうことだ?


「杉原が、隼斗はチーズバーガー食べたいだろうからって買ってきたんだよ。」


杉原…なんて優しいんだ。


「ありがとう!めっちゃ嬉しいよ!」


ぶっちゃけ、杉原が選んでくれたものなら何でも嬉しい気がする。


「二人ともお疲れ様!」


なんだよ。結局お前も降りてくんのかよ。


「あ、雫ちゃん!お邪魔します!」


「どうぞどうぞ!上がって下さいな!」


俺出てきた意味ねぇだろ、絶対。



 それにしても、夏休みに入ったとはいえ…

俺は相変わらずコイツらといるんだな。


変わり映えない毎日ってのは、

こういう事を指すんだな。


「佐野くん?ちゃんとやってる?」


「あー、やってるよ。いちいち人に構うな」


「嘘だ。絶対関係ない事考えてた。」


「だったらなんだってんだよ!お前に関係ないだろ!」


お節介な星乃と…


「まぁまぁ二人とも、落ち着いて。」


いつも優しい杉原と…


「隼斗…うるさい。」


「なんで俺だけなんだよ!」


相変わらずムカつく克樹がいる、

変わらない日常。


けど、何か忘れている。


「あはは!ほら佐野くん、静かにしなさい!」


決して忘れちゃいけない…何かを。


「うるせぇ!お前が話しかけてきたんだろ!」


「あはは!」



……そうだ。



『一年後…君は死ぬよ。』


そうだ。


俺…


もう少ししたら…



この笑顔のからいなくなるんだ…。




「あ、そうだ!佐野に頼みたい事があったんだった!」


「頼みたいこと?」


杉原が俺に頼みたい事って…何だ?


あー、どうせ文化祭準備の当番を代わってくれとかそういう類の話だろ。どうせ。


「佐野…」


なんだよ改まって…


「いくら杉原だからって、文化祭準備なら…」


「私と付き合って!」



……


「……へ?」


神様。


どうして、もうすぐ死ぬって分かってるやつに


こうも幸運を与えるんだ?



いや、違うか。


これは嘲笑あざわらってるんだよな。


一度は粗末にした命を、


今になって手放したくないと駄々をこねる俺のことを。

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