第43話 リレー

 この高いポールを飛び越えた先には、杉原が待っている。

だから俺は…

絶対に飛び越えてみせる。


「いでっ!」


(カランカラン)


ポールが地面に落ちる音。


「あーん。惜しいよー!佐野くーん!」


くっそー。

高跳びって、こんなに難しいのかよ。


走って飛び越えるだけだと思ってたけど、体をこんなにも捻らないといけないんだな。

自分では飛び越えたつもりでも、体のどこかにポールが当たってしまう。


「佐野!どんまいどんまい!」


杉原。

カッコ悪いところ見せてしまった。


「千葉君すごーい!」


「千葉かっこいい!」


な…!


女子たちが克樹に夢中になってる。


あいつ…走り幅跳び得意だったのかよ。


「千葉くん凄いね!」


「運動神経いいもんね!さすが!」


くっそー。

俺だってあぁなるはずだったのに。


俺も走り幅跳びにすれば良かったぜ。

そしたら、あいつよりも高く飛んで…


「隼斗。どんまい。」


くっそー!

こいつムカつく。




 結局、結果は散々だったな。


「佐野くん、お疲れ様。」


星乃。


タオル渡してくれた。

いいやつだな。


「さんきゅー。…リレー頑張るわ。」


「うん!期待してるよ!」


期待…か。


そういえば杉原がいないな。


「あ、千葉くんもお疲れ様!」


「ういー。」


なんだよ、ういーって。

俺は余裕でしたってか。

ムカつく。


「あれ、杉原は?もう行っちゃったの?」


「結衣ちゃんなら短距離走の準備で、もう行っちゃったよ!」


残りはあと三種目か。

リレーまで長いな。


退屈だな。


それに…あちぃ。


「あ!結衣ちゃんの番だよ!」


お!まじか!


よし。杉原の応援でもしよう。


「結衣ちゃん…速いね!」


「杉原って足速かったんだね。」


たしかに…。

それに、すげぇ楽しそう。


どこか吹っ切れたような…

清々しい感じがする。


「…すごい。一着だ。」


「結衣ちゃーん!やったー!」


満面の笑顔だ。

思いっきり走って、スッキリしたんだろうな。


良かった。


「佐野くん、ちゃんと応援しなきゃだよ?」


「いいんだよ。…心ん中で応援してたから。」


「なんだそれ。言わなきゃ分かんないだろ。」


いいんだ。

ちゃんと見てたから。



 やっと午前の部が終了か。

長かったな。


昼メシ食って、最後はリレーだ。


あんまり食い過ぎるとリバースするかな。

半分だけにしとこ。


「佐野くん、食欲ないの?」


「午後からリレーだからでしょ。バスケの時も毎回そうだったよな。」


「うるせー。食って動いたら吐くだろ。」


「変わらないなぁ。」


なんだよ。

変わらないって。

そんなに昔の事でもないだろ。

高校に入学してまだ三ヶ月だ。


…三ヶ月か。


「佐野、千葉。そろそろ行くぞ。」


吉村だ。


「佐野くん、千葉くん。頑張ってね!」


「応援してるよ!」


「応援してるって、杉原も出るんでしょ。」


「あ、そっか!」


「もー、結衣ちゃーん。」


三ヶ月前は…

俺たちがこんな風に笑って、一緒にいる事なんて想像出来なかった。

振られてもまだ好きな杉原と、

昔から変わらない克樹。

そして、新しく出来た大切な仲間…星乃。


俺の未来…

この先、次の三ヶ月後…

俺たちは、今と変わらずにいるのかな。


「どうした?隼斗。行くぞ。」


「…おう。」


俺はいつまで、こうやって普通の生活を送る事が出来るのかな。


「佐野くん。」


…星乃。


「一位、絶対取ってね!」


「…あぁ。任せとけ!」


人は未来が分からないから、

不安になるんだろうな。




 「只今より、クラス対抗リレーを行います」


あー、いよいよだ。

弁当半分しか食ってないのに、お腹痛くなってきた…。


「隼斗、緊張してる?」


「な、なんだよ。いきなり。」


してるに決まってるだろ。

皆んなの期待を背負ってるんだぞ。

それに俺はアンカーなんだぞ。


「俺さ…いつもは全然緊張しないんだけど、

今日はすげぇ緊張してるんだ。」


克樹…。


「たぶん、俺が隼斗のポジションだったら吐いてたわ!」


「はは!なんだよそれ。」


お前が決めたポジションなんだ。

絶対大丈夫だよ。


「克樹…」


「ん?」


「バトン…絶対落とすなよ?」


「…お前がちゃんと受け取ればな。」


やっぱこいつと同じチームだと、


やる気が出る。



 「いよいよだね。」


「二人とも大丈夫かな?私だったら絶対緊張するなぁ。」


「あの二人なら大丈夫。昔から大きな試合とか経験してきてるから。」


「…そっか!」



 「位置について…」


まずは吉村か。

スタートダッシュ…決めてくれよ。


「よーい…」


(パンっ)


いっけぇええ!吉村ぁ!


流石はサッカー部キャプテン。

そのまま黒田に繋いでくれ。


「いけー!吉村ぁ!」


「がんばれー!」


先生達も本気で応援してる。

結構盛り上がるもんなんだな。


「はぁ…はぁ…淳平!」


「ナイスキャプテン!」


次は黒田。

バトンの受け取るタイミングが上手い。

あの二人は俺と克樹みたいだな。


「くっそー。一組速くね?」


「大丈夫だよ!こっちには篠田がいるんだ」


そういえば…

三組には陸上部が二人いるんだっけ。


どいつかな…?


「黒田!あとちょっとだ!頑張れ!」


もう克樹の番か。

緊張してきたぁ。

あいつ、大丈夫かな。


「千葉ー!頑張れー!」


「千葉くーん!ファイトー!」


杉原と星乃だ。

ちゃんと応援してくれてる。


って、星乃?

あいつ、下まで降りてきたのかよ。


「こっからだな。」


「あぁ。篠田と牧村の怒涛の追い上げだ!」


あれ?

いつの間にか三組との差が縮まってる…。


「千葉ー!」


「千葉くんー!」


克樹と互角…いや、それ以上に速い。


「くっ…そ。はぁ…はぁ…抜かされるかよ。」


克樹…耐えろ。

あとちょっとだ。


「……隼斗!」


よし!


「克樹!パースっ!」



(パシッ)


……え?


今…


弾かれる音が…


(カラン…カラン…)



バトンが…



おいおい…嘘だろ。

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