第41話 ケーキ

 (ピーンポーン…ピーンポーン)


インターホンが鳴る。


杉原の家…。

昔ながらの古風な家だな。


ここで、ばあちゃんと一緒に暮らしてたんだもんな…。


「…はい。」


「あ!結衣ちゃん!」


「雫ちゃん。…佐野。」


「…おう。」




 ばあちゃん家の匂いがする。

なんか、懐かしい。


「いま、お茶淹れるから。」


「あ、いいよいいよ!結衣ちゃんは座ってて!私するから!」


星乃。

杉原ん家来るの初めてだろ。


「お前、出来んのかよ。」


「お茶淹れるくらい出来るよー。」


「あはは。大丈夫だから。座ってて。」


大丈夫…か。


今の杉原の言葉は、どれも強がりにしか聞こえないんだ。


「あ、そうだ。杉原の好きな抹茶買ってきた」


「え?」


「そうそう!佐野くんが、『杉原は抹茶に目がないからなぁ』…って!」


なんだそれ。

全然似てねぇし。


「ふふふ。そうなんだ。」


笑った。


「…昔から…好きだろ…。」


…抹茶。



「…うん。好きだよ。」



どきっ!


「私お腹空いたー。はやく食べようよ!」


「って、お前に買ってきたんじゃねぇんだぞ!ちょっとは我慢しろ!」


「いいじゃん!ホールで買ってきたんだしー」


てか…

三人でホールケーキは多いだろ!


星乃がどうしてもって言うから仕方なく買ったけど…。


「あ!じゃあ私、ケーキ切り分けるね!」


もう勝手にしてくれ…。


「佐野…」


「ん?」


「ありがとね。来てくれて…。」


杉原…。


本当は…克樹も連れてきたかったんだけど…


……


……


…いや


今は…いいか。


「俺も…杉原に会いたかったから…さ。」


「…佐野くん……。」



……なんか


…変な空気になったな。


「早く元気な杉原に戻って欲しいからな!また皆んなでベアバン行ったり、それにラーメンも食いてぇ!」


そうだ。


落ち込んでちゃ…


前には進めない。


「ラーメンかぁ。結局まだ一度も行ったこと無いんだよね。」


そうそう。

そこで悠長にケーキ切ってる、誰かさんのせいでね。


「……ん?どしたの?佐野くん。」


「はやく切れよ!」


ムカつく。


「いま切ってるじゃん!」


あ…怒った。


そういえば星乃って、最近ムキになるような…


「もっとはやく切れって言ってんだよ!杉原が待ってるだろ。」


「慌てて指でも切ったらどうするの!」


やっぱり。

なんだ…?

反抗期なのか?


「雫ちゃん。ゆっくりで大丈夫だよ。」


気のせいか…

ほっぺが膨らんでるように見えるのは。


怒って…ないよな。


「まぁ…杉原がそう言うなら…」


なっ……なんだよ。


その目は…。


めっちゃ睨まれた。


やっぱりこいつ、怒ってる…?




 「お待たせ!食べよっか!」


あれ…


なんで俺のケーキだけこんなに小さいんだ…?


杉原と星乃は同じ大きさなのに…


「なに?」


こわっ。

めっちゃ怒ってる。


「なんでもありません…。」


なんでこんなに怒ってんだよ。こいつ。


「雫ちゃん…。佐野にも、もう少しあげたら?なんか、可哀想…。」


可哀想…


そうだよな。

可哀想だよな。杉原。


「佐野くんは結衣ちゃんの為に買ってきたから自分の分はいらないの。」


なんだよそれ!

おかしいだろ!


「あのー星乃さん?それだったらせめて、俺と星乃の分を均等に…」


「まぁ、それもそっか!佐野、ありがと!」


えええええ。

杉原ー。


俺も抹茶ケーキ、好きなんだ。


それに、バスで一眠りしたから腹へった。


(ぎゅるるるる)


やべ。

お腹の音が…。


「佐野くん。もしかしてお腹空いてるの?」


そうだよ。


「…うん。」


「佐野…私の少しあげようか?」


杉原…

なんて優しいんだ。


こんな時でも杉原は優しいんだな…。


それに比べて、こいつは…


「あーん、ダメだよぉ。結衣ちゃんは食べて」


天と地の差だな。


杉原が天使なら

星乃は悪魔だ。


「佐野くん、そんなに欲しいんだったらさ…」


「な…なんだよ…。」


こいつ…何か企んでる。



「雫ちゃん、ケーキください。って言って。」


………


「………は?」


何言ってんだ?

…こいつ。


「じゃああげなーい。」


「ちょ…ちょ待てよ!なんで俺がそんなこと言わなきゃいけないんだよ!」


こいつ…

俺をおちょくってんのか。


「だって、ケーキ欲しいんでしょ?」


「それは…」


(ぎゅるるるるる)


やばい。

ケーキを目の前にしたら、余計腹へってきた。


「佐野…。言えば、ケーキもらえるよ?」


く……くそ。


杉原もなんか楽しんでる。


「いらないの?ケーキ。」


仕方ねぇ。

ここは、杉原の笑顔の為だ。


腹をくくれ、俺。


「し……」


「ん?聞こえないよぉ。」


くそ…。


「し……」


「なぁに?佐野くん。」


「しー………」


こんな…こんなの…


「し…」


杉原…


「しー?」


「しー…」


ごめん。



「死んでも言うかよ!バーカ!」


やっぱ無理だわ。

こいつ…ムカつくもん。

なんだよ。

ケーキごときで。


「俺は杉原の為にケーキを買ったんだよ!誰がお前なんかに『雫ちゃん、ケーキください。』なんて言うかってんだ!」


あー、スッキリした。


やっぱ我慢は駄目だな。

体に毒だ。


「あー!」


なんだよ星乃。

喧嘩なら買うぜ。


「佐野くん、今ちゃっかり言ったね!」


「……え?」


「たしかに…怒った勢いで言ってたね!」


あ…あれ?


「もう!佐野くん、そんなにムキにならないでよぉ。」


なんか…


「ケーキ…半分っこしよ?」


「お…おう…。」


良かった…のか?


「良かったね!佐野!」


…あぁ、良かったんだ。


だって…



杉原が、いつもみたいに笑ってる。


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