第40話 抹茶

 一年前…


教室


「克樹ー。ベアバン行こうぜー。」


やっと退屈な授業が終わった。


バスケ部を引退してからというもの…

毎日のようにベアバンに通っている。


先輩たちが、部活を辞めたら太るって良く言ってたけど、その意味が分かる気がする。


「おお、じゃあ行くか。」


全国大会。

勝ち進んでれば…

今頃もっと充実してたんだろうなぁ。


バスケが無いと…こんなに退屈なんだな。


「あ、そういえば…」


「ん?」


「杉原も誘っといたよ。」


……え?


「…え?……なんで?」


「何でって…お前、昨日言ってただろ。」


昨日?


俺…なんか言ってたっけ…。


あ!


『また暇な時にさ、三人で食べに来ようぜ。』



……って言ってたっけ。


てか…行動早すぎだろ!


普通そこは、心の準備とか…

そういうのがあって…

てか、普通そこは俺が誘うだろ!


「どうした?」


どうしたじゃねぇよ!

この天然野郎が!


「いつの間に誘ったんだよ。」


「ん?さっき。」


さっきって…


なんでこいつは誰とでもすぐ仲良くなるんだ?


「千葉!ごめん、お待たせ!」


杉原!


「遅かったね。今日当番だったっけ?」


「そうなの。佐野もごめんね。待ったよね?」


どきっ!


「…いやっ!全然!」


「そっか。良かったぁ。」


か……可愛い。


今日も杉原と一緒にいれるのか。

そう思ったら…

克樹に感謝だな。


「い…行こうぜ!チーズバーガー食いたい。」


「そうだね!行こ!」




 ベアーバンズ店内


…って、なんで杉原の隣が克樹なんだよ。

こうなるんだったら克樹の隣に座っときゃ良かったぜ。


「お腹すいたねぇ。」


「そ、そうだな!」


まぁ、杉原の目の前でもいいか。

ちゃんと顔が見られる。


…けど、やっぱ緊張する。


「佐野は毎日通ってるの?」


「え?あ、いやー…毎日ってわけじゃないんだけど…」


「ほぼ毎日だろ。部活辞めてからしょっちゅう来てるもんな。」


「お…おう。そうだな。」


あれ?

なんで俺、こんなに緊張してるんだ?


この三人で来るのが初めてだから?

いや…でも昨日だって三人で来たようなもんだから一緒か。


「はーい!お待たせ!チーズバーガー三つに、ポテトフライね!」


「わぁ!美味しそう!」


「おじさん、ポテトの量多くない?」


確かに…言われてみれば多い。


「これはサービスだ!有り難く食え!」


「マジ?やったー!おっちゃん最高!」


「あはは!佐野、なんか子供みたい!」


「え?あ、…そうか?」


杉原が笑った。


めっちゃ可愛い。


いつもは落ち着いていて、ツンとしている印象だけど…


こんなに素敵な笑顔を見せるんだな。


「ん?隼斗、どうかしたか?」


「私の顔に何かついてる?」


「あっ!いや、早く食おうぜ!」


この笑顔の隣にいたい。

この笑顔を、曇らせたくない。


この時の俺は、そう思っていた。



 

 「佐野くん…」


…星乃。


「佐野くん……きて」


……きて?


「佐野くん……」


何言ってんだよ…星乃。


「起きて!」


「うわっ!」


あれ…ここは…


「もう。次のバス停で降りなきゃなんだよ?」


バス…


あ、そうだ。

杉原の家に行くんだった。


俺、バスの中で寝てたのか。


「わ…わりぃ。寝てた。」


それにしても…

懐かしい夢だったな。


「佐野くん、寝言喋ってたよ?」


「え?」


「杉原…杉原…って。」


は……恥ずかしい…。



 

 バス停


「ここだね。」


「星乃ん家も遠いけど、杉原ん家も結構遠いんだな。」


毎朝、ここのバス停から通ってるのか。


中学の時も遠かっただろうな。


「行こ!佐野くん。」


「あ、あぁ。」


正直…

会って何話したらいいか分からない。


こんな時、どんな顔して会えばいいんだろう。


杉原は俺に、会いたいって言ってくれた。

けど…


「あ、そうだ!結衣ちゃんに何か買っていってあげようよ!」


それだ。

杉原の好きなものを買っていけば、少しは喜んでくれるはず。


「なら、抹茶のケーキがいい。」


「抹茶?」


「杉原…昔から抹茶が大好きなんだよ。中学の修学旅行で京都に行った時も、すげぇ喜んでたんだよなぁ。」


そう思えば、杉原との思い出って結構あるな。


「そっか。佐野くんは結衣ちゃんのこと良く知ってるね!」


「ま…まぁ、星乃よりは長ぇからよ。」


「そっか。じゃあ抹茶だね!決まり!」


抹茶。


昔は苦手だった。


ただ苦いだけで、何が良いのか全然分からなかった。


けど、あの時から好きになった。


『えー!抹茶のプリンだって!美味しそう!』


『良かったな。杉原は抹茶に目がないもんな』


『まぁ、ここは京都だから。抹茶は山ほどあると思うよ。』


『克樹は抹茶食えんの?』


『俺は好んでは食べないけど、一応。』


『勿体ないー。人生の半分は損してるよ!』


『抹茶が人生の半分占めてるってどうなの?』


『あはは!杉原、おもしれぇ事言うな!』


『佐野、笑いすぎー。』


中学三年の修学旅行。

自由行動で、何故か杉原は俺たちと一緒に行動してくれた。

今となっては…

それも克樹のことが好きだったからだって…


分かる。


『佐野は抹茶…食べないの?』


杉原の真剣な眼差しに、俺はやられたんだ。


『……食べ…ます。』


『え、隼斗…お前確か抹茶…』


『京都に来て、抹茶食わないとかマジないわぁ克樹くん。』


『…お前。』


『そうだそうだ!さすが佐野!分かってるね』


杉原の好きなものだから…


俺も好きになりたいって思ったんだ。

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