第39話 相思相愛

 あれから三日間…


杉原は学校を休んだ。


仕方ない。


あんな事があったんだから…。


杉原が居なくても、いつも通り変わらない時間が過ぎていく。


「はぁ…。」


「なぁに?佐野くん。ため息なんかついて。」


なんだ…星乃か。

相変わらず他人によく構うやつだ。


「なんかさぁ…。生きてる時はどんなに楽しくても、死んだ後には悲しみが残るんだな。」


あんなに大好きだった婆ちゃんが死んで、杉原には寂しさと悲しみが残った。


どれだけ楽しくたって…


最後は…


「それを乗り越えて、人は前に進むしかないんだろうけどよ…。なんか…辛いよな。」


「佐野くん…。」


死のうとしてた俺が、こんなにも生と死について考えるとはな。


「時間はかかるけど、結衣ちゃんならきっと乗り越えられるよ。」


「…そうだな。」


「その為にも、私たちに出来ることがあればしてあげたいな。」


俺たちに出来ること…か。


…杉原。


今頃、一人でいるのかな…。


寂しいだろうな。


「よし。放課後、杉原ん家寄ってくか。」


「いいね!そうしよう!」


俺たちに出来ることは…


杉原の側に居てやることくらいだ。




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「おーい、克樹。杉原ん家行こうぜー。」


「あー、わりぃ。今日予定入ってんだわ。」


「なんだよそれ。」


四人って…

意外と予定合わせるのが難しいんだな。


「ったく、仕方ねぇなぁ。」


星乃と二人か。


克樹が来たら、喜ぶと思ったんだけどな。


…ってか、杉原ってまだ克樹のこと好きなのかな。

前に、もう好きじゃなくなったって言ってたけど…

本当のところはどうなんだろう。


もし本当に杉原が克樹の事を好きじゃ無くなったんなら…


俺にもう一度チャンスが…


って、杉原が落ち込んでる時に何考えてんだよ俺。


「ねぇねぇ佐野くん。」


「んあ?」


星乃だ。


「そういえばさ、結衣ちゃんの家って行ったことあるの?」


「え?ないよ?」


そういえば…知らないな。


「どうやって結衣ちゃん家…行くの?」


「………あ。」


そうだった。


誰も場所、知らないんだ…。


「どうするの?結衣ちゃんに直接聞く?」


「いま電話するのは…まずくね?」


「どのみち会いに行くんだったら、変わんないでしょ。」


たしかに…

星乃の言う通りだ。

変に気を使ってても駄目だ。


「そうだな!」


「じゃあ、佐野くんが電話してよ!」


「…へ?」


「その方が結衣ちゃんも喜ぶよ!きっと!」


なんで…そうなる?


「いや、お前友達なんだしさ…お前がしろよ」


俺が電話しても嬉しくねぇだろ。


「なんかその言い方、佐野くんは結衣ちゃんと友達じゃないみたいだよ?」


あれ?


…たしかに。


「ちがっ…そうじゃなくて!俺なんかよりも、星乃が電話した方が杉原も喜ぶだろ!」


「佐野くん、もしかして結衣ちゃんと電話するのが恥ずかしいの?」


「……は、は?」


「だって佐野くん、私にはちゃんと電話してくるじゃん。」


…たしかに。


なんか、星乃に正論言われ続けてると…

ムカついてきた。


「あーもう!わかったよ!俺が電話すればいいんだろ。」


「ふふ…。お願いしまぁす!」


…けど


ちょっと緊張する。


杉原…


電話出てくれるかな…。


そもそも、会いに行っていいのか?


本当はもうちょっと一人にさせた方が…


「佐野くん、はやくー。」


「分かってるよ!うるせーなぁ!」


ったく星乃のやつ…。


…よし、かけよう。


(プルルルル…プルルルル…)


頼む…。


出てくれ…。


(プルルルル…プッ)



「……もしもし?佐野?」


出た!


杉原だ。


「あー、ごめん!急に電話して…」


「んーん…。大丈夫。…どうしたの?」


いつもより少し落ち着いた声。

電話越しでも伝わってくる…

杉原の悲しみ。


「えっとー…、今学校終わったところ。星乃と一緒にいるんだ。…あー、克樹は予定あるって帰っちまったけど…。」


俺…何言ってるんだ?


「そうなんだ…。」


だよな…。

その返しが正解だよ、杉原。

そんなことどうでもいいよな…。


「……」


「……」


やっべー。

何か喋らないと。


俺から電話かけたのに。


「佐野くん。結衣ちゃんのお家でしょ?」


あ、そうだった。

それだ。


「あ…あのさ杉原。」


「……ん?」


「杉原が良ければなんだけど…」


「うん…。」


「杉原に会いに行ってもいいかな…?」


なんか…


すげぇ緊張してる。


「……今から?」


やばい。

やっぱり、あんまり来て欲しくないのかな。


「あー、えっと…杉原が嫌なら、全然大丈夫!杉原がそんな状態で無理は言わないから…」


「いいよ…。」


「……え?」



「私も……佐野に会いたい…。」



……杉原…。


「…じゃあ、また後で。」


「結衣ちゃん、どうだった?」


「…いま位置情報送ってくれるって。」


「そっか!これで会いに行けるね!」


すぐ隣にいた星乃には、俺たちの会話は聞こえてなかったけど…


「…そうだな。」


杉原は確かに言った。


『私も……佐野に会いたい…。』


克樹じゃなく…俺に会いたいって。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る