第38話 葬儀

 身近な人が死んだ…。


そんな経験は、まだ俺が小さな頃だ。


どこの誰かも分からない親戚の葬式に、何度か行ったことがある。


母ちゃんや周りの人は、たくさん泣いていたけれど…

子供の俺には、さっぱりだった。


学校でも無いのに制服を着させられて、眠くなるようなお経を聞いていなくちゃならない。


正直言って…退屈だった。



 「……杉原。」


「……うぅ……うう……」


こんな杉原は、初めて見る。


「杉原…一体、何があったんだ?」


「克樹……!……今は、何も言うな…。」


お前の気持ちは分かる。


けど……


杉原にとって…

それどころじゃねぇんだ。


「坂口先生…、杉原のばあちゃんは…。」


……そっか…。


坂口先生が……首を横に振った…。



杉原のばあちゃんが………




死んだ…。




 二日後…


葬式会場


杉原……


大丈夫かな…。


あの様子じゃ、あんまり寝てないんだろうな。


「隼斗…次、俺らの番。」


「…あぁ。」


お焼香って…何回するんだっけ…。


それくらい…葬式に出るのが久しぶりってことなんだよな。


やっぱり…


いいもんじゃ無いな。


……ばあちゃん。


写真のばあちゃん…


すげぇ幸せそうだな。


いつの写真かな?


きっと…杉原と撮った写真なんだろうな…。


「…隼斗。……行くぞ。」


「…ごめん。…うん。」


杉原…。


それに、父ちゃんと母ちゃんもいる。

初めて見た。


「佐野……千葉…ありがとう…。」


「何言ってんだよ。当たり前だろ。」


「俺たちは杉原の友達だからな。」


そうだ。

克樹の言う通り…

俺たちは友達だ。


そして…


ばあちゃんは…

その友達の一番大切にしてた……


あれ…?


急に…涙が…


「……佐野……。……うっ……うっ…。」


「…わりぃ。…杉原…。俺が泣くのはおかしいよな。」


そうだよ。

悲しいのは…杉原の方だ。


「…いくぞ。隼斗。」


「佐野……。」


「……?」


「ありがとう。おばあちゃん…きっと天国で喜んでる。」


杉原…。



ばあちゃん…。


どうか、杉原のこと…


天国で見守っていて下さい。




 葬式場のロビー


まさか人のばあちゃんのことで泣くとは、俺も少しは大人になったってことなのかな。


「あ…隼斗、星乃来てる。」


「え?」


あいつ…来てたのか。


そっか…。

先生たちは後ろの列にいたのか。


「……あ、佐野くん。」


気づいた。


こっち来た。


「来てたのかよ。」


「うん。結衣ちゃん…大丈夫かな?」


「大丈夫な訳ねぇだろ。」


「そうだよね…。ごめん。」


いや…

なに八つ当たりしてんだ…俺。


「あ…わりぃ。けど…、今はそっとしておいてやろうぜ。」


「……うん。そうだね。」


人が死ぬって…

こんなにも辛いことなんだな。


一人の死が…


周りにこんなにも影響するんだって…


実感した。


それと同時に……


あの時死のうとした過去の自分が…


憎くて仕方なくなった。



「みんな…。」


……杉原。


「杉原…」


「結衣ちゃん。」


「雫ちゃんも、来てくれてありがとう。」


良かった。


少しは落ち着いたみたいだな。


「ねぇ…皆ちょっと外に行かない?」




 もう夏だな。


蝉が鳴いてる。


「おばあちゃんが長く無いのは…佐野が教えてくれたから、覚悟してたんだ。」


「え?そうだったの?」


そっか。

星乃と克樹は知らなかったんだ。


「家の掃除をしてた時に、たまたま心臓病の薬が出てきて…。おばあちゃん、私に心配かけないように引き出しの一番奥に入れててさ。」


ばあちゃん…

最後の最後まで杉原のこと思ってたんだな。


「それからね…四人で遊びに行った時も、心配だから付いてくるって言ってたんだ。」


そんなことがあったんだ。


「杉原…おばあちゃんに愛されてたんだね。」


「結衣ちゃんがちょっと羨ましいな。」


「ふふ…。そうだね。今になって思う…」


杉原…。


「私…すっごく愛されてたんだなぁって。」


……


『私は、おばあちゃんかなぁ…。』


『おばあちゃん?杉原は、おばあちゃんが好きなの?』



『私、おばあちゃんが大好き!大人になったら旅行に連れて行ってあげるの!』



杉原……。


「…隼斗?」


「…佐野くん。」


あれ……


俺……また泣いて…


「……ふふ。佐野…私より泣かないでよね。」


「だって……だって……。」


「もう……こっちまで泣けてくるじゃない。」


駄目だ…。


俺が泣いたら…杉原まで泣かせてしまう…。


けど……涙が…止まらない。


「…えへへ。佐野くん……意外と泣き虫だね」


「お前も泣いてるじゃねぇかよ星乃!」


「みんな似たもの同士ってことだね。」


「お前は少しくらい泣け!克樹!」


「「あはははは!」」


杉原…


大丈夫だ。


ばあちゃんが居なくなったって…


お前の側には、こんなにも優しい仲間がいるんだ。


お前が泣いてる時、辛い時、苦しい時…


俺たちが…


一緒に泣いてやる。


それに……


杉原の心の中には…


あの写真みたいに…


いつでもばあちゃんが笑っているからよ。

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