第36話 黒田 淳平

 眠たい目をこすりながら、なぜか俺はグラウンドにいる。


時刻は午前七時だ。


「なぁ克樹…。」


「なんだ。」


「こんなに早く来る意味あるか?」


「仕方ないだろ。テスト期間終わって、部活は再開してるんだ。放課後残れない分、朝練しろって言われたんだから。」


くそ…吉田先生め。

なんで俺たちがここまでしなくちゃいけないんだよ。

たかが体育祭のリレーだろ。

部活じゃあるまいし、朝練なんてしなくていいだろ。


「おはよー。早いなぁ二人とも。」


黒田だ。


こいつは何とも思ってないのか?


「なぁ黒田。この朝練いるか?俺は必要ないと思うんだけどよ。」


「まぁまぁ…。吉田先生が熱くなってるのは、三組に負けたくないからだろ。」


「三組…?」


三組に…負けられない理由があるのかな。


「黒田、どういうこと?」


うんうん…俺も気になる。


「吉田先生、三組の相川先生と勝負してるらしいんだよ。」


相川先生って…確か科学の先生。


「勝負って、何の勝負だよ?」


「わかんねぇけど…三組では密かに噂になってるっぽいよ。」


なんだそれ…

その為に俺らは…


「克樹、黒田…相川先生のところ行くぞ!」


「「え?」」


なんで先生同士の訳わかんねぇ勝負事に、俺らが利用されなきゃならないんだ。


「真相を確かめに行く!」


「隼斗…真相って…」


「ごめーん!遅れたわ!」


吉村だ。


「「遅い!」」




 三組の教室前


三組って…

あんまり関わったことないから、

知らない奴らが多いな。


しかも、こっちめっちゃ見てるし…。

そりゃそうか。

俺らも見てるから。


「相川先生、まだ来てないみたいだな。」


「隼斗、相川先生に会ってどうするんだよ。」


「なんの勝負してんのか、ちゃんと確かめるんだよ。」


「佐野…それ、聞いたところでなんか変わるのか?」


吉村…お前は黙ってろ。

遅れてきたやつが口挟むんじゃねぇよ。


「佐野くん?何してるの?」


あ、星乃。

と…杉原も一緒だ。


「あんたたち、何してるの?こんなところで」


「隼斗が、相川先生に話があるからって。」


克樹。お前は喋らなくていいんだよ。

こいつらには関係ねぇ。


「どうしたんですか?一組の皆さん。」


はっ……

この声は…


「三組に、何か用ですか?」


相川先生だ。

相変わらず気配が薄いぜ。

背後にいるのに気づかなかった。


「あ…こいつが話したいことがあるみたいで」


「おい、克樹…押すなよ!」


「佐野君…でしたよね?何か御用ですか?」


「あ…あー、えっとー。」




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「じゃあ今日は…前回の続きをやる。」


結局…勝負の内容はちっぽけな事だった。


『勝った方のクラスが、文化祭で使用する場所を先に決めれるってことになってるんです!』


『……文化祭?』


まだまだ先のことなのに、何ムキになってんだよ。

それに、文化祭の場所取りだったら他のクラスも関係あるだろ。


『どうして三組の、相川先生にだけ勝負を挑んでるんだ?吉田先生は…。』


『三組には、陸上部が二人いますから。それでだと思いますよ。』



三組には陸上部が二人。

他のクラスには勝てそうって思ったのかな。


それにしても…

そんなことで…って思う俺がいる。


「佐野くん。」


「なんだよ。」


「佐野くんはさぁ、文化祭で何かやりたいこととかある?」


だから…文化祭なんて夏休み明けだろ。

なんでそんな先の話…。


「ねぇよ。特に無し!」


「そっかぁ。私はね、お化け屋敷がしたいな。みんなで夏休み中に準備してさ。」


夏休み中に…。

そっか。

文化祭って、それ自体は夏休み明けだけど…

準備はその前からするんだった。


「吉田先生はきっと…私たちに、好きなことをさせてあげたいって思ってるんじゃないかな」


吉田先生が…。


「たぶんそれは、他のクラスの先生たちも同じ気持ちだと思うな。」


だから…

あんなにムキになって…。


「だったら…素直に言えってんだよ…。」


回りくどいやり方しやがって。


「ふふふ…。素直になれないのは、佐野くんとおんなじだね!」


俺と…同じ。


…なに笑ってんだよ。星乃。


…吉田先生。


「佐野ー。ぼーっとするなよ。」


「あ、はい!」


見た目はヤクザみたいな格好してるけど…

なんだかんだ、生徒のことを思ってるんだな。


よし…。


「吉田先生!」


「…どうした、佐野。」


「俺たち絶対リレーで一位取ってみせます!」


有言実行。


目標は高く。


まずは、口に出すべし。


「佐野…。」


俺たちが絶対…吉田先生を勝たせてやるよ。


「…佐野。授業中だ。静かにしろ。」


「…へ?」


「「あはははは!」」


「席につけー。」


く…………くそー…。


やっぱムカつく。


「ふふ…佐野くん。いきなりどうしたの?」


「なんでもねぇよ…。思いついたこと、言っただけだ。」


ムカつくけど…


また今日からの一日が…


充実する予感しかしないんだ。

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