第35話 次の目標

 ベアーバンズ店内


「はぁー…。やっと補習から解放されたー。」


「長かったね…。佐野くんお疲れ様。」


三日間、放課後の補習が続いた。


もう勉強なんて二度とするもんか。


「それにしても、本当に隼斗が百点取るとは。正直驚きだぜ。」


「おっちゃーん。約束通り、夏休みは厨房で雇ってくれんだよな?」


その為に頑張ったようなもんなんだ…。

しかも補習まで受けて。


「おう!当たり前よ!男に二言は無いからな」


「良かったね!佐野くん!」


良かったのか…、よくわかんねぇけど。


とりあえずはまた、平凡な毎日が続くのか。


「そういえば…夏休み前に、体育祭があるんだよね。」


「体育祭?」


そういや…吉田先生、なんか言ってたような…


「七月十五日。最低でも一人一種目は出なきゃいけないんだって。」


一人一種目…


「そもそもなんの種目があるんだ?」


「たしか…短距離走と長距離走、高跳びと走り幅跳びに砲丸投げだったかな…。」


五種目か。


「佐野くんは何にする?」


「長距離走とかかな…一番楽そうだろ?」


「いいね!佐野くん外周の時一番だったし!」


「次は本気で走らねぇよ。」


あれ、結構しんどかったからな。

今回は軽く流して走ろう。


「えー。せっかく足速いのにー。勿体ない。」


なんだよ勿体無いって。

俺の勝手だろ。


「そんなに走りたいんだったら、お前が走ればいいじゃねぇかよ。この前だってサボってたんだしよ。」


「だからサボってないってば!佐野くんの分からず屋…。」


何拗ねてんだよ。

めんどくさいやつ。


「とにかく俺は、もう本気で走らないの。」




 翌日


一組の教室


……な……な…


「…なんで……?」


なんで俺が、

リレーのメンバーに選ばれてるんだよー!!!


聞いてねぇぞ!そんな話し…


(カッ、カッ、カッ…)


チョークで黒板に書く音。


「よし…こんな感じか。」


どんな感じだよ!

何勝手に決めてんだよ、吉田先生!


「個人種目は各自で決めてもらうが…リレーは勝ちにいきたいからな。先生の方で勝手に選ばせてもらった。」


そんな…

嘘だろ?


「ふふふ…。佐野くん良かったね!」


嫌味だろ。

完全に嫌味だろ星乃…。


「と言う事で…体育の成績上位メンバーを集めた最強チーム結成だ!」


(パチパチパチパチ…)


なんで先生が一番熱くなってんだよ。


てか他のやつらはそれでいいのかよ…。


「メンバーは千葉、吉村、黒田、そして佐野…この四人だ。」


克樹も入ってんのか。

あとは吉村と黒田…。

二人とも現役サッカー部だったな。


てか、一組に陸上部いないのかよ…。

なんで元バスケ部の俺たち二人が選出されてるんだよ。


「四人は放課後、猛特訓するから覚悟しておけよ!」


おいおい…

嘘だろ。



 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「隼斗、売店行こうぜ。」


「珍しいな。今日はママの弁当じゃないのか」


「うるせーな。行くぞ。」


それにしても、リレー嫌だなぁ。

あぁいう緊張する競技は苦手なんだよな。


「良かったじゃん。また本気で走れて。」


「馬鹿。走りたかったのはこの前だけだって」


「星乃…また応援してくれるぞ。」


星乃?


…は?


なんで星乃になるんだよ。

こいつ何言ってんだ?


「星乃に応援されたくらいじゃ、やる気出ねぇっての。」


なんで俺が、星乃の応援でやる気出ると思ってんだよ克樹は…。


「ふーん。だってさ、星乃。」


「……え?」


「ひどい。せっかく応援してあげようと思ってたのに…。」


星乃!?

なんで……


「おまっ…いたのかよ。」


「佐野くんは私の応援…どうでもいいんだ。」


「いや…そう言うわけじゃ…ねぇって。」


なんでこいつはこうもタイミングの悪いときにいるかね…。


「私だって…佐野くんみたいに足が速かったらリレー走ってみたいよ…。」


星乃…。


「走りたくても…リレーに出たくても出られない人もいるんだからね。」


星乃…お前…

リレーに出たかったのか…?


「どうすんの?隼斗。」


「どうするって…。」


星乃は、好奇心旺盛なやつだけど…

自分にはそれをするだけの能力が無いって分かってるんだ。


だからせめて、他人に自分を重ねて、

頑張ってる姿を応援したいんだ。


「佐野くんが嫌なら…しょうがないよね。」


ほんと…こいつは…


「星乃…見とけ。」


「…え?」


「隼斗…。」


めんどくせぇやつだぜ。


「俺がお前の分まで本気で走ってやるからよ」


めんどくせぇけど…


「佐野くん…。」


ほっとけないんだ。


「ありがとう。」



 放課後


グラウンド


はぁ…。

とは言ったものの…


リレーの練習かぁ。

毎日本気で走らなくちゃいけないのかよ。


「佐野!よろしくな!」


黒田だ。


「おう!よろしくな!」


黒田淳平くろだ じゅんぺい

こいつはとにかくスタミナお化けだ。

疲れってものを知らない。

こいつが本気出せば外周だって負けてた。


「佐野と千葉がチームなら心強いよ!」


こいつは吉村慶太よしむら けいた

サッカー部のキャプテンで、足が速い。

たしかタイムは、俺と同じくらいだったっけ。


「よし!全員揃ったな。目指すは学年一位だ!気合入れて行くぞ!」


まだ本番まで一週間以上あるのに…

元気だなぁ先生は。


百点の次は一位を目指すのか。


目標は相変わらず高いままだ。

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