第34話 結果発表

 七月五日。


寿命が見える女…星乃雫から、謎の余命宣告を受けてから二ヶ月が経った。

早いような、遅いような…

なんとも言えない感じだ。


星乃の言ってることが本当なら、

俺は九ヶ月後の今日、死ぬことになる。


そして今日、俺はある疑問を抱いた。



一組の教室


「なぁ星乃。」


「なぁに?佐野くん。」


「寿命ってさ…一度見たら、変わらないもんなのか?」


この先、俺がどう過ごすかで未来が変わるんだったら、変えたいと思うようになった。


「たとえば…佐野くんが今から、屋上から飛び降りるって本気で思えば、変わるんじゃないかな?」


「それってただ寿命を縮めてるだけじゃね…」


やっぱり…寿命を伸ばすことは不可能なのか。


「そうだね…。けど逆に言えば、その日までは生きられるってことだよ!」


めっちゃポジティブに言ってるけど…


「全然嬉しくねぇよ。」


「ふふ…。私は嬉しいなぁ。」


なんだよこいつ。


「俺が死ぬのが嬉しいってか…?」


「そうじゃないよ。…佐野くんはさ…私と最初に出逢った時は…どちらかと言うと、生きようとしてなかったからさ。」


…たしかに。


今思えば…


死のうとした理由が、薄すぎたよな。


杉原に一度振られたくらいで…


けど…今はその事が、ちっぽけだって思える様になったってことだ。

それくらい、毎日が充実してる証拠だ。


だから…


「生きるって…生きてるって…凄いことなんだよな。」


「佐野くん…。」


って…


朝っぱらから何考えてんだよ。俺。


「わりぃ。辛気臭い話しして。」


「んーん。大丈夫だよ。」


きっと神様は…


簡単に死のうとした俺に…


罰を与えたんだろうな。




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


そういや…

今日からテストが返ってくるんだっけ。


結局、歴史以外は散々だったな。

そりゃそうか…

歴史以外は勉強してなかったんだもんな。


だからこそ、歴史は百点であってくれ。

ていうか…百点じゃなきゃ困る。


「よーし、今日はテストをまとめて返すから、覚悟しておけー。」


テストって、その教科の授業ごとに返されるもんだと思ってたけど…

一限目に全部返ってくんのかよ。


「全員分のテストは俺が預かってる。修正点や質問は各々の授業で申し付けてくれ。」


そういうことか。

とりあえずは、全部の点数が分かるってことだな。


「それと…」


吉田先生、話長いな。

まだなんかあるのかよ。


「今回のテストはなんと…百点を取った生徒がいる!」


……え?


先生…今…なんて…


「担任として、先生は鼻が高いぞ。他のクラスなんて、百点取ったやつは一人もいないからな」


百点…


誰だ?


もしかして……


俺?


「その生徒には、前に出てきてもらおう。皆、盛大な拍手で讃えてやってくれ。」


誰だ……


俺……それとも……


てか…なんの教科か言えよ!


「佐野くん…もしかして…」


「ま…まだ、喜ぶには早ぇーよ。」


やばい…


この瞬間、すげぇドキドキする…。


こんな経験…


バスケのフリースロー以来だ。




 二年前…


体育館


「隼斗!しっかり決めろよ!」


「お前にかかってるんだ!気合い入れろ!」


わかってるよ!うるせーなぁ。


落ち着け…


練習通り、入れるだけだ。


周りに大勢人がいるだけだ。

それ以外はなんにも変わらねぇ。


このフリースローを入れれば…逆転できる。


試合時間はあと三十秒。


これを外せば…ほぼ負ける。


落ち着け…

落ち着け…俺。


こんなんじゃ…

全国大会なんて夢で終わっちまう。


「隼斗!」


よし…!


(シュッ)



 「星乃!」


はっ……


「星乃!良くやった!歴史のテスト、百点だ」


……え?


「……うそ…。私が…?」


……星乃が……百点…。




 (ガタンっ)


ボールがバスケットゴールに弾かれる音。


「なにやってんだよ!隼斗!」


くっそー。

俺は肝心な時に、いっつもこうだ…。


「まだ…まだ三十秒ある!…頑張ろう!」


「何が頑張ろうだ!そんなの当たり前だって」


ごめん…みんな。


「千葉!走れ!」


「隼斗!パス!」


くそ……

あと十秒。


(ダンっ、ダンっ、ダンっ、ダンっ…)


駄目だ…


間に合わねぇ…


「隼斗!こっちだ!」


克樹…!


「くそっ!」


(ダンっ!)


克樹…決めてくれ!


(シュッ)


頼む…。


(パスっ)


(ビーーーーー)


ブザーの音が鳴り響く。



 あの時もそうだ…。


結局最後は、克樹がちゃんと決めてくれた。


俺はいつも…

努力が足りねぇんだ。


「佐野くん…私…」


「行ってこいよ…。百点、おめでとう。」


俺は負けたんだ。


(パチパチパチパチ…)


拍手の音。


「良くやったな!星乃。」


「ありがとうございます。」


良かったな…星乃。


やっぱ神様は…


俺みたいなひねくれ者じゃなくて、


お前みたいな、素直なやつに微笑んだんだ。


「それからもう一人…」


そもそも、俺が百点なんて取れるわけ…


「佐野。お前もだ。」


「……え?」


「え?…佐野くんも…?」


「隼斗…マジ?」


「佐野…凄い!」


え…


俺が…百点…?


「何してる。はやく前に出てこい。」


(パチパチパチパチ…)


皆んなが拍手してくれてる…。

俺と…星乃の為に。


「まさか佐野が百点を取るとはなぁ。」


先生の言う通りだ。

ほんとに俺が…


「ほら…正真正銘の百点だ。」


ほんとに…百点…取った。


「やったね!佐野くん!」


星乃…俺…


「あれ?…佐野くん…もしかして泣いてる?」


「え?」


あれ…なんで…涙が…


みんな笑ってるのに…。


「隼斗、泣くなよ!おもしれーやつだなぁ。」


「雫ちゃん?もらい泣きしてる?」


なんでお前まで泣いてんだよ…。星乃。

本当に…変なやつ。


干渉かんしょうひたっているところ悪いんだが…」


「「…え?」」


「それ以外の教科は赤点だ。今日から補習な」


………


「えぇええええええ!」

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