第33話 勉強の成果
あれから三日経った。
学校では真面目に授業を受けて、放課後は星乃の家で勉強。
最初は集中力が持たず、ゲームばっかりしていたけど…
三日目となると、さすがに勉強姿も板についたものだ。
(カチ…カチ…カチ…カチ…)
時計の針が動く音。
(カチ…カチ…カチ…カチ…)
「は……は…はっくしょい!」
「びっくりしたぁ。」
「ご、ごめん星乃。」
「んーん。いいよ。」
それにしても…
俺にこんな集中力があったなんて。
前までなら、こんな静かな空間に居られなかったもんな。
少しずつだけど…成長してる。
「ねぇねぇ、佐野くん。」
「ん?」
「そろそろ休憩しない?一時間以上経ってる」
もうそんな時間経ったのか。
集中してたら時間も忘れるもんだな。
「あと五分だけいい?ここだけ覚えてぇ。」
「うん!いいよ!」
ん?
星乃…笑ってる。
何でだ?
「なんだよ…なんかおかしかったか?」
「そうじゃないよ。頑張ってる佐野くん見てたら、ほっこりしたんだ。」
ほっこり…。
だから笑ってんのか。
「俺なんか見てねぇで、勉強しろよな。」
「うん!そうする!」
今回の期末テスト…絶対百点取ってやる。
(コンコン…)
部屋のドアをノックする音。
「雫、入るわよ!」
星乃の母ちゃんか。
「よかったらこれ食べて。近くのケーキ屋さんで買ってきたの。」
「わぁ!チーズケーキだぁ!」
「わざわざありがとうございます。」
「いいのよぉ。それより、お勉強頑張ってね」
ちょうどいいや。
少し休憩するか。
チーズケーキ、美味かった。
「ごちそうさまでした。」
「美味しかったね!」
テストまであと二日か。
土日は流石に自分の家で勉強しよう。
ほぼ毎日、星乃ん家にお邪魔してるからな。
「佐野くんがここまで真剣に勉強するとは思わなかったよ。」
「俺だってやる時はやるんだよ。」
それに…みんなの前で宣言したからな。
今更引けねぇよ。
「佐野くんって、一途だよね。」
「…え?」
「何か一つのことに夢中になったら、周りも見えなくなるくらい没頭するんだよね。」
そうなのかな。
周りが見えなくなるくらい…か。
でも…当たってるかも。
バスケの時だって、勝ちたい気持ちが優先して周りの仲間が見えなくなったり、
三年を殴った時だって、無意識に星乃を守ろうとして、そいつを殴るのに必死だった。
俺って案外、単純な生き物なのかもしれない。
「それってさ…感情のまま動いてるって言い方も出来ねぇ?それだとなんか…嫌だな。」
「そうじゃないよ。中途半端な気持ちじゃなくって、何事にも全力で取り組めるってこと!」
全力で…。
「佐野くんのそういうところ…好きだよ?」
どきっ!
「え…?」
好きって……
「いつも全力で楽しんだり、全力で怒ったり、全力で悲しんだりしてさ…。羨ましい。」
羨ましいって…
そんなこと思ってたのか。
「当たり前だろ。前にも言ったけど、どうせ死ぬんだったら、後悔はしたくねぇからよ。」
「そうだね…。」
果たして俺は…
百点を取った暁には、笑って死ぬことが出来るのだろうか。
けど…
もし百点を取れなかったとして、
その日がやって来た時に俺は、
必ず後悔するんだろうな…。
「だから絶対に百点取ってみせる!」
そしたら…
「そしたらさ…星乃が俺のこと、みんなに自慢してくれよ!」
「…え?」
「私の友達は、テストで百点取ったんだぞー!ってさ」
そしたら…俺に悔いは残らないからよ。
「ふふふ…」
「何笑ってんだよ。」
「あはははは!」
こいつ…何がおかしいんだよ。
てか…涙出てねぇか?
「泣くほど面白いこと、言ったつもりねぇんだけど…。」
「ごめんごめん!想像したら、なんか恥ずかしくってさ。」
「なんだよ恥ずかしいって。誇りに思えよな」
「っていうか、まだテスト終わってもないのに大丈夫なの?」
それもそうか…。
てか、休憩しすぎた。
「やべ…そろそろ再開するぞ。」
六月ももう終わる。
そしたら…俺の残りの寿命はあと九ヶ月。
この先、何かに夢中になれることなんて限られてる。
だから俺は夢中になれるものがある限り、それに全力を注ぎたいんだ。
「星乃、今日もありがとうな。」
「こちらこそありがとう。また月曜日ね!」
よし、帰ってすぐ寝よ。
明日の朝一から勉強だ。
…なんか気づいたら、俺も田村みたいになってるな。
最初は、朝からテスト勉強してるやつのこと、馬鹿にしてたのにな。
「佐野くん!」
…星乃?
「なんだよ。」
なんか言い忘れたのかな。
「頑張れ!佐野くんなら百点取れるよ!」
星乃……
「人の応援してないで、お前も頑張れよな。」
って…俺も応援してんじゃねぇか。
「…じゃあな。」
テストがこんなにも楽しみなのは、
最初で最後だろうな…。
月曜日。
一組の教室
「それじゃあ、まだテスト用紙は裏返しにしておいて下さい。」
よし。
いける。
俺の頭の中は今、歴史の教科書そのものだ。
何がきても解ける。
「それじゃあ、はじめ!」
(パサっ)
テスト用紙が一斉にめくれる音。
さぁ…一問目はなんだ…?
…………え?
……これって……
現代文?
「あ……あれ?…歴史じゃない。」
「おい、佐野!テスト始まってるんだぞ。」
なんで…
「あ…あの、先生。俺のテスト用紙、歴史じゃなくて現代文なんすけど…。」
「何言ってんだ。歴史のテストは最終日だろ。今からやるのは現代文のテストだ。」
……え?
やっぱり、
先生の話はちゃんと聞こう…。
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