第32話 未来

 百点を取るには、どれだけの努力が必要なんだろう。


全ての問題の答えを、一語一句間違えないで、尚且なおかつ自分の名前を間違えないことだ。


その為には、凄まじい集中力と判断力、そして記憶力が大切になってくる。


…まずは、しっかり授業を聞くところから始めよう。


「佐野くん…」


「星乃、俺はいま集中してんだ。話しかけるなよな。」


「あ、ごめん。…でもさ、今日の授業でやってるところ…」


「なんだよ。」


「テストに出ないよ。」


……え?


「現代文はテスト範囲が終わっちゃったから、次のところ進めるって、先生言ってたよ?」


な……なんだと…!


吉田先生め…。


せっかく俺が真面目に授業を聞こうとした矢先に…。


駄目だ。

現代文はやめだ。

次の教科だ。



 二時間目…


二限目は数学か…。

俺の苦手な教科だ。


けど、数学の下田先生は一番話しやすい。

若いってのと、教え方が上手い。

五月病の事だって教えてくれたし。


「…そしてここがXとし、=Y…仮にここがYであるとすれば…」


下田先生…?


いつから英語の教師になったんだ…?



 三時間目…


やっぱ数学は駄目だ。


克樹が苦手なのもよくわかったぜ…。


三限目は英語。

おっとり口調の菊池先生だな。


菊池先生は優しいから、もしかしたらテストの答え教えてくれるかも…。


「先生!テストに出るところ教えて下さい!」


「ちょっと佐野くん…いきなり駄目だよぉ。」


「あら佐野君。積極的でいいですね。そういえばテストの形式をお伝えしてなかったですね」


よっしゃ。

これなら百点取れるかもしれねぇ。


「英語のテストは、筆記が半分とリスニングが半分になっています。なので書く能力と聞く能力の両方を身につけて下さいね!」


な……なんだと!


書くだけでも難しいってのに、英語を聞き取らなきゃいけないのか…!


駄目だ…。


俺は日本人だ。


英語で百点なんて無謀だ…。



 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


どうしよう。

今のところ有力候補が一個も見つかってない。


「佐野くん偉いね!ちゃんと先生の話、真剣に聞いてたじゃん!」


星乃よ。

真剣に聞いてるだけじゃ駄目なんだ。


俺は何としてでも百点を取りたいんだよ。


「このままじゃ駄目だ。百点取れそうな教科が一つも見つからねぇ。」


四限目は何だっけ。

午後からは体育だし、それまでに決めないと。


「そういえば…上江田先生が、歴史のテストはほぼ丸暗記だから簡単だよって言ってたよ。」


歴史…?


そうか。

歴史だ。


「四限目って歴史の授業だっけ?」


「うん。そうだよ!」


歴史だ。

克樹の得意分野の歴史。


これで百点取って、あいつを見下してやる。

最高じゃねぇか。


「決めた!星乃、俺は歴史で百点取る!」


暗記なら、頑張って覚えればいけるだろ。


「いいね!じゃあ私も百点取る!」


「お前はいいんだよ。お前まで百点取ったら、俺の凄さが霞むだろ。」


「私だって百点取ってみたいよ。それに、佐野くんには負けたくないからね!」


なんだよそれ…。

俺は克樹と競ってんのに。


まぁ、ちょうどいい。


優等生派よりも上だってことを証明してやる。


「いいぜ。負けた方はチーズバーガー奢りな」


「あー!いいねそれ!その方が燃える!」


星乃相手じゃ、いよいよ負けらんねぇな。


死ぬまでに百点取りたいとか言ってたけど…

シンプルに勝ちてぇ。


負けたくねぇ。



 四時間目…


「今日は自習とします。分からないところがあれば、どうぞ聞きにきて下さい。」


「はい!先生!隣行ってもいいですか!」


「さ…佐野くん?」


「隼斗…まじかよ…。」


自習ならラッキーだ。


先生にマンツーマンで教えてもらえる。


「上江田先生、まずはどこから覚えればいいんだ?」


「そうだなぁ…教科書の六ページから三十ページまで全部覚えれば、百点満点じゃ。」


六ページから三十ページか。

結構あるな。

けど…全部暗記すれば、この中のどれかがそのまま問題として出るんだな。


「ありがとう!上江田先生!」


先生、絶対百点取るから見とけよ。


「佐野くん…先生この前言ってたよ?」


「いいんだよ。俺は聞いてなかったから。」


「上江田先生だから良かったけど、吉田先生だったら怒られてたよ。」


たしかに…。

人の話を聞け!とかなんとか…

怒鳴られてただろうな。



 

 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「星乃ー。帰ろうぜー。」


今日から星乃の家で猛勉強だ。


「うん!いこっか!」



 雫の部屋


「ちくしょー!なんで倒せねぇんだよ!」


「あはは…結局ゲームしてるし。」


くそ。

一回だけのつもりが…もう十回目じゃないか。


そろそろ勉強しないと…。


「星乃。あと一回だけ…。」


「いいよ。佐野くんの好きなだけやりなよ!」


「星乃…。いいの?」


「うん。ゲームだって、まだクリアしてないからね。」


そう思えば、俺が死ぬまでにしたいことって…

まだまだ沢山あるんだな。


「なんかさ…こうやって佐野くんと一緒に過ごす日々が、いつも楽しくて…。」


星乃…?


「その反面…ずっと続く訳じゃないんだって、現実に戻ると…切なくなる。」


「どうしたんだよ、急に…。らしくねぇって」


でも…そうだよな。


星乃には…俺の寿命が見えてるんだもんな。


「未来を変えられるんだったら…どんな方法でも試したいんだけどね。」


星乃…

そんな顔すんなよ。


こっちまで辛くなる。


「未来なんて…俺自身が変われば、変えられるだろ!」


「…え?」


「俺は…俺の未来に、テストで百点を取る自分がいるとは到底思えないぜ?」


だから変えてやるんだ。


「それに…俺が明日を生きようとすることをやめたら、明日の俺はいないんだからよ。」


「佐野くん…。」


「未来なんて、自分がどうするかで変わるはずだって…俺は信じてる。」


だから俺は今日も…

一生懸命、生きてるんだ。

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