第30話 テスト週間

 今日も俺の嫌いな雨が降っている。

土砂降りじゃないけど、小雨も雨だ。


今日は克樹も、傘をさして歩いて行くらしい。


「お待たせ。行くか。」


「隼斗、お前傘二つも持って行くの?」


「あぁ…これは星乃に借りてるやつ。」


今日からテスト週間だ。

テストの一週間前になると、部活動やバイトが禁止されて、勉強しなきゃならない。


とは言ったものの…

テスト勉強なんて、ろくにした事がない。

それは克樹も同じだ。

俺ら二人には縁の無い期間だ。


けど…


「克樹。お前テスト勉強するー?」


毎回、念のため聞く。


「んー、前日にちょろっとやるかな。」


分かりきった回答だ。

けど、これが無いと駄目なんだ。

公約じゃないけれど、

「俺は勉強をしない」っていう意思を確認するとともに、仲間を作るんだ。

そして安心を求めている。


こんなの、馬鹿のする事だって分かってる。

だって…

勉強なんて、した方がいいに決まってる。



 一組の教室


あ、星乃だ。

なんだ…勉強してんのか…?


「よう。星乃。」


「あ、佐野くん。おはよ!」


「お前もしかして勉強してんの?」


優等生派は違うねー。

普通、テスト週間初日から勉強するか?


しかも現代文かよ。


「佐野くんも一緒にしようよー!」


「アホか。誰がやるかよ。」


周り見てみろ。

朝から勉強してるやつなんて、

お前くらいしか…




いたーーー!!!


田村だ!


あいつ…勉強好きそうだもんな。

メガネだし。


「ん?佐野…なんか言ったか?」


言ってねぇし。

どんだけ気配に敏感なんだよ。


「いや、なんもねぇ。」


こいつらは一周まわってアホだな。


「あ、そういや傘。この前は助かったわ。ありがとな。」


「持ってきてくれたんだ。どういたしまして」


「あと…これ。」


あれ…どこいったっけ。

…あった。


「上着…。洗ったからよ。ありがとな。」


「わざわざありがとう!」


なんでお前がお礼言うんだよ。

借りたのは俺の方だろ。


「佐野くんの匂いだぁ。」


「おまっ…そんなに嗅ぐなよ!」


何やってんだよこいつ。

馬鹿じゃねぇの。


「佐野くんだってこの前、こんな風に匂い嗅いでたじゃん。」


そ…そうだった。

でもあれは…無意識のうちにっていうか…


いい匂いだったから…つい。


「佐野くんって良い匂いする。なんか落ち着くんだぁ。」


どきっ!


なんか…めっちゃ恥ずかしい。


「いいから片付けろよ。勉強すんだろ。」


自分の匂いなんて、嗅いだこと無いから分かんねぇよ。


俺ってどんな匂いするんだろ…。


石鹸せっけんの匂いとか?

それとも柔軟剤の匂い?

体臭とかすんのかな。


星乃の匂いは…

どこからあんな良い匂いするんだろ。


「佐野くん?」


「…なんでもねぇよ!」




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「今週からテスト週間に入る。くれぐれも、遊びに出かけたりしないように。あくまで、勉強する期間だからな。」


勉強、勉強、勉強って…


学校でも勉強して、何で家でも勉強しなきゃいけないんだよ。

そもそも真面目に授業聞いてたら、家で勉強なんてしなくていいだろ。


…って、真面目に聞いてない俺が思うのもなんだけど。


「ねぇ佐野くん。」


「ん?なに?」


「一緒にテスト勉強しない?」


しないって言ってるだろ。

話聞いてなかったのかよ…


「私の家で。」


「…え?」


星乃の家でテスト勉強?


「出来るわけねぇだろ。」


「なんで?」


「お前ん家行ったら、寝るかゲームかの二択だろ絶対。」


俺は気付いたんだ。

星乃の家に行っても、ゲームするか寝るかだ。

テスト勉強なんて出来るわけがねぇ。


「時間決めてやろうよー。勉強ばっかしじゃあ飽きちゃうからさ。たまにはゲームしたり、お昼寝したりさ。」


お昼寝は駄目なんだよ星乃。

またお前の母ちゃんに誤解されたら…


「とにかく、俺はテスト勉強なんてしない派なんだよ!」


残りの時間をテスト勉強なんかに使うのなんて絶対に嫌だね。


「そっかー。結衣ちゃんと千葉くんは来てくれるのに…残念。」


……え?


…星乃…いまなんて?




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「ってことで、今日の放課後うち集合ね!」


「千葉は雫ちゃんの家に行くの初めてだよね」


「あー、そうだな。結構でかいんでしょ?」


なんだよそういうことか。

俺はてっきり二人でするのかと…。


「佐野くんは来れないんだって。残念。」


「え?佐野、なんか用事でもあるの?」


「あ…いや、そういうわけじゃないんだけど」


おいー。

杉原と克樹も来るなら先に言えよ星乃。

それとこれとじゃ話が変わってくるだろうが。


「てか、克樹!お前テスト勉強しないんじゃあなかったのかよ!」


そうだ。

こいつは俺の前で誓ったんだ。

勉強しないって。


「どうせ家帰っても勉強しろって言われるだろうから。」


なんだよその言い訳。


「あー、だったら俺もやろうかなー。克樹だけ抜け駆けして、俺より良い点取られたら困るからな。」


「誰が困るのよ…。じゃあ佐野も来るってことでいいよね?」


「まぁ…そうなるな。」


しゃーなし付き合ってやるか。


「ふふふ…。佐野くんって本当に素直じゃないよね。」


うるさいなぁ。


「じゃあ放課後まで授業頑張ろっか!楽しみにしてる!」


お前が楽しみにしてるのはテスト勉強じゃねぇだろ。絶対。




でも…

まぁ、いいか。





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