第28話 梅雨は嫌いだ

 もう梅雨の時期か。


ここ最近、雨の音で起きる。

なんか嫌な気分だ。


どうせなら太陽の光で気持ちよく起きたい。


雷で起こされた日には最悪だ。


(ゴロゴロゴロゴロ…)


雷が鳴る。


「ひっでぇ天気だなぁ…おい。」


こんな雨の日は、傘をさして歩いて学校へ行かなければいけない。

ものすごく憂鬱になる。


学校に着く頃には、靴下がびしょ濡れになっているだろう。


替えの靴下、持っていかないとなぁ。


梅雨は嫌いだ…。


(ゴロゴロゴロゴロ…)


雷が鳴る。



 一組の教室


「雷すごいねぇ…。」


「結衣ちゃんは雷平気なの?」


「ちょっとびっくりするけど…大丈夫かな。」


(ゴロゴロゴロゴロ…)


雷が鳴る。


「うわっ…!」


「あはは!結衣ちゃん、凄い驚いてるじゃん」


「…んもう…。急に鳴ったらびっくりする!」


あー、朝から賑やかな二人だなぁ。

こっちは全身びしょ濡れだってのに…。


「あ、佐野くん!…どうしたの?その格好…」


「佐野…川にでも落ちたの?」


「傘が吹っ飛ぶとは思わなかった。カッパ着てくればよかったぜ…。」


やばい…風邪ひく。

着替え持ってくればよかった。


「佐野くん、風邪ひいちゃうよ。体操服持ってないの?」


あ、そうか。

その手があった。


「ナイス…星乃…。ちょい着替えて来るわ。」


「はは…。佐野、テンション低かったね。」


「佐野くん、雨嫌いだからね…。」


なんで朝からこんな目に遭わなきゃいけないんだよ…。


「お、隼斗。お前どうした?」


なんだ…克樹か。


…って


「何でお前は濡れてないんだよ!」


家近所だろ。

大差ねぇだろ。


それともなんだ…

こいつは異常に傘の使い方が上手いのか?


「何でって…母さんが送ってくれたから。」


…は?


「てか隼斗、お前にLINE送っただろ。一緒に乗ってくかって…。」


…え?


あ…携帯忘れた。


最悪だ。



 

 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


あぁ寒い。

体操服に着替えたけど、頭まだ濡れてるな。


「佐野。一限目は体育じゃないぞ?」


「「あはははは!」」


わかってるよ。うるせーなぁ。

くそ…吉田先生め。

絶対わざとだろ。


俺だって好きで体操服着てる訳じゃねぇよ。


「佐野くん大丈夫?寒くない?」


星乃も何笑ってんだよ。

むかつく。


「へっくしょい…!」


「佐野くん上着持ってきてないの?私の貸してあげるよ。」


「いいよ…。ただのくしゃみだって。」


「駄目だよぉ。…はい、これ。着なくていいから、上から羽織って!」


星乃…

優しいな。


「…さんきゅー。」


あれ…


この匂い…。


星乃の部屋で嗅いだ匂いだ。

すげぇ良い匂いする。


なんか…


どきどきしてきた。


「佐野くん、あったかいでしょ?」


どきっ!


「う、うん…すごく…。」


なんだろう…。


この感じ…。


あの時と同じ。


星乃と二人で、

ベッドに寝ころんだ時と…


同じドキドキ。


「佐野くん…あんまり匂い嗅がないでよ。恥ずかしいから…。」


あ…


「ご、ごめん!違う違う…良い匂いだなって思ってたら…つい…。」


「おい佐野!うるさいぞ!」


「あ…ごめんなさい。」


何やってんだよ俺。


無意識に星乃の服の、そでの匂い嗅いでた…。


これじゃあまるで、変態みたいじゃん。


「ふふ…また怒られてる。」


笑ってる。


良かった…変態だと思われてない。


(ゴロゴロゴロゴロ…!)


雷が鳴る。


「きゃああ!」


雷かよ…。

びっくりした。

結構近くに落ちたんじゃないか?


それにしてもひどい雨だな。

外は真っ暗だ。

これじゃあ、梅雨っていうか台風だな。

帰りまでには止んでくれよ。




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「結衣ちゃん!雷大丈夫だった?」


あ、そっか。

杉原は雷嫌いだったっけ。


「大丈夫じゃないよぉ…。さっきも授業中に叫んじゃった。」


あー、あれ杉原だったのか。


「怖かったね。よしよし。」


杉原が星乃によしよしされてる…。


なんか…


変な光景だ。


俺の頭の中では、二人の立場は逆なんだけどな。

杉原がお姉ちゃんで、星乃が妹みたいな。


「佐野くん、髪の毛乾いたね!」


「ん?あー、そうだな。」


もう濡れるのはりだぜ。

帰りはちゃんと克樹の母ちゃんに乗っけてもらおう。


「克樹、帰り頼むわー。」


「何言ってんだ?帰りは車呼ばねぇよ?」


「え?」


なんで?


「母さん仕事だし来れない。帰りぐらい濡れても平気だろ。」


嘘だろ…。


「…まじかよ。」


また濡れんのか…俺。


「佐野くん…また濡れちゃうね。」


もう濡れたくねぇ。

雨は嫌いだ…。


そういや…

星乃って、いっつもどうやって登校してんだ?


こいつとは家が逆方向だから、あんまり見た事なかったな。


「なぁ…星乃も歩いて帰んの?」


「んーん。私はお母さんが迎えに来てくれる」


あ…お母様が…。

お嬢様は違いますねー。


「だから濡れなかったんだなぁ。」


いいよな…

親が迎えに来てくれるやつらは。


「あ、そうだ!私お母さんに頼んでみるよ!」


「え!まじー?」


「佐野くんと千葉くんだったら、ちょうど四人まで乗れるから…たぶん大丈夫!」


助かった…。

神様。ありがとう。

感謝します。



 (ザーー…)


雨の音。


玄関前


「なぁ…星乃。もしかしてだけど…」


「あはは…。ごめん。車の中荷物だらけで、乗れないや。」


「結局濡れるのかよー!」


最後の頼みの綱が…。


星乃め…期待させておいてこれかよ。


…朝よりは弱まったけど、濡れるのには変わりねぇよ。


「あ!佐野くん、ちょっと待って!」


「…え?」


今度はなんだよ。

また期待させんなよな。


「はい!これ使って!」


これ……傘だ。


「今の感じなら傘さしても大丈夫だから、私の使って!」


「星乃…」


星乃…


お前はなんて優しいやつなんだ…。


「ありがとう。明日、絶対返すよ。」


体操服の上着といい、傘といい…

俺は星乃に助けられてばっかりだな。


「明日は学校お休みだから、また月曜日ね!」


「そっか…。うん、ありがとう。」



その日のお風呂は…

いつも以上に温かく感じた。

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