第27話 いいところ

 期末テストが近づいている。

そのせいか、先生たちの授業にも熱が入る。


「ここ、テストに出るからしっかりと覚えておけよ!」


高校のテストは、一日で終わらないらしい。 

一週間かけて、科目ごとにテストを行う。


「一週間もテストしなきゃなんねぇのかよ…。絶対頭おかしくなるぜ。」


「佐野くん、それを言うなら「頭が良くなる」じゃないの?」


「馬鹿か。なんで頭が良くなるんだよ。」


「だって、テストの為に沢山勉強するでしょ?そしたら頭が良くなるじゃん!」


あー、そうだった。


こいつは俺と違って優等生派だったんだった。


こいつとは話しが合わねぇ。


「勉強すんのなんて、せいぜい三日前とか前日だろ。さすがに三週間も先のテストを見据みすえて勉強する気にはなれねぇよ…俺は。」


どうせ直前になったら、やらなきゃいけないんだ。

だったら今勉強するのなんて無駄だ。

忘れちまう。


「佐野ー、ちゃんと覚えたかー?」


やべ、吉田先生。


「あ、ただいま写します!」


「テスト前日になってから聞きにきても知らないぞ。」


いいよ、別に。

こんなテスト…

何点取ろうが、俺は死ぬんだ。


「あー、今どうせ死ぬからいいやって考えてたでしょー?」


「ぎくっ…。」


「佐野くんの考えてること、だんだん分かってきたんだからね。」


星乃に心を見透かされた…。

こいつ、そんな能力まで持っていたのか。




 (キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「星乃。今日星乃ん家行く前にベアバン寄って行かね?」


「うん!いいよ!」


「なんだなんだ?お前らもしかして、付き合ってんの?」


なんだよ、田村か。


「何言ってんだよ。星乃はただの友達だ。お前のメガネ曇ってんじゃね?」


「曇ってねぇよ!最近仲良いからさぁ!」


「あはは!佐野くんは私になんて興味ないからねぇ。」


なんだよ…。


そういう言い方されると…なんか。


まぁ…でも、そうか。


「そうだよ。こんなちんちくりん女のどこが良いってんだよ。」


「あ…はは。佐野…それ言い過ぎ…。」


ん?

言い過ぎ?


あ……


「そうですねぇ。どうせ私は結衣ちゃんと違って、ちんちくりんの女ですよぉ……。」


星乃…怒ってる。


「あ…ははは。冗談…。冗談だよ星乃…。」


めんどくせーやつ…。




ベアーバンズ店内


「おっちゃん、チーズバーガー二つね。…あ、会計一緒で…。」


「おぉ!隼斗お前、彼女に奢ってやんのかぁ?お前もちっとは大人になってきたなぁ!」


いや、そういうんじゃないんだけどな…。


星乃の機嫌が直んねぇから…。


あいつ…いつまで拗ねてんだよ。


「おいおい、もしかして喧嘩か?」


「んー、まぁそんなところ。」


喧嘩というか…


あれは俺が悪いのか…?


「隼斗。もしかしてお前、彼女にいきなり手出したんじゃないだろうな?」


「馬鹿!そんなんじゃねぇよ!…ってか、彼女って言うのやめろよな。」


このエロオヤジが。

さっさとチーズバーガー作れ。



それにしても…


むすっとしてんな。


「星乃。いつまでいじけてるんだよ。」


おいおい…無視かよ。


こりゃ困ったなぁ。


「さっきは…あぁ言ったけどよ…俺、けっこうお前のこと良いやつだって思ってるんだぜ?」


まぁ…これは事実だ。


あ、こっち見た。

やっと機嫌直したか…。


「良いやつって…たとえばどんなところが?」


直ってねぇ…。

返答次第じゃ、また怒りかねねぇ…。


「た…たとえば…頑固なところとか、空気読まないところとか、あとは…」


「それ、良いところじゃなくて悪いところだよね?」


やっべー…。


星乃の良いところ。

星乃の良いところ。

星乃の良いところ……


あれ…


いつもだったら、自然と出て来るのにな…。


星乃の良いところ。


「…ほら。ないじゃん。」


違うんだ。星乃…。


星乃は…


「星乃は…思いやりのある良いやつだ。」


「……え?」


「それから…どんな事も諦めねぇ、前向きなやつだ。」


「……うん。」


あとは…


「馬鹿みたいって思われても、そのことに夢中になれる…努力家だ。」


俺にはない…


星乃の良いところ。


「それと…」


「もういいよ。」


「え…?」


「もう、充分伝わったから。いいよ…。」


星乃…。


お前…


やっぱめんどくさいやつだな。


「佐野くんがそこまで私のこと思ってくれてるんだったら…今回は許す。」


あ…良かった。


許された…。


「でも…次ちんちくりんって言ったら…また怒るからね?」


……なんだろう。


星乃が一瞬…可愛く見えた。


「はい、お待たせ!チーズバーガー二つね!」


「わぁあ!ありがとうございます!」


なんだよ。

結局食い物かよ。


幸せそうなやつ。


「いただきまーす!あーんっ…。」


まぁ…いいか。


幸せでいるのが一番だ。


「美味しい!佐野くんも早く食べなよ!」


こんな風に星乃と喧嘩して、仲直りして、

笑ってチーズバーガー食べて…


そんな当たり前の幸せが、一番いいのかもな。


「いただきます。」


星乃に出会わなければ…

こんな風に小さな事で喧嘩したり、仲直りしてチーズバーガー食ったりなんてしてなかったのかな。


「佐野くん、今日こそはゲーム絶対クリアしようね!」


星乃に出会わなければ…

こんな風に毎日が充実してなかったのかな。


「おう!当たり前よ!」


そう思うと…


俺はお前を、

かけがえのないやつなんだって思うんだ。

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