第26話 ゲーム

 「佐野って雫ちゃんのこと好きなの?」


杉原に、そう尋ねられた。


好きかどうかって聞かれたら…


それは…


「友達として…かな。」


うん。

そうだ…。


星乃は、一人の友達として好きだ。


一緒にいて楽しいし…


ムカつくところもあるけど、

なんだかんだ、俺のことを思ってくれてる。


いいやつだ。


「友達として…か。」


「…うん。友達として。」


杉原には、俺が星乃のこと好きだって風に映ってたのかな。


「だよね!雫ちゃんとも、そう話してたんだ」


そうだよな。

星乃にとっても、俺は友達。

あいつにとって俺は、高校で出来た最初の友達なんだ。


…ってか…


俺も…か。


俺も、星乃が高校最初の友達…。


「星乃はさ…人を惹きつけるものを持ってると思うんだ。あいつがいると、自然と皆んなが集まってくる。」


「それ、なんか分かる!いつのまにか親しくなってるみたいな!」


星乃はすげぇよ。


いつも素直で、前向きで、がむしゃらに人のことを思えて…。


俺とは正反対のやつだ。




 次の日


学校の玄関


あれ…克樹の靴。

あいつ、今日はもう来てんのか。


昨日は早く寝たんかな。


「おはよー佐野くん。」


あ、星乃だ。


こいつは相変わらず眠たそうだな。


「なんだ、またゲームかよ。」


またクマ出来てんぞ。


「うん。ラスボスが中々倒せなくって…。千葉くん途中で抜けちゃったから。」


克樹、星乃に頼まれてやってただけなのか。

さすがに二日連チャンで寝不足になるのはキツかったんだろうな。


「お前、ゲーム下手なんだよ。」


「あー、一番言っちゃいけないこと言った。」


認めてんのかよ。

自分が下手なこと。


「じゃあ佐野くんやってみてよ!」


「なんでそうなるんだよ。俺はやらねぇ。そもそもゲーム機持ってねぇし。」


「そんなの言い訳だよぉ。私の家来れば、出来るじゃん!」


なんでそうなるんだよ。

てか、何回星乃ん家行けばいいんだ。


「行かねぇよ。お前ん家、遠いんだよ。」


「あー、もしかして佐野くん…千葉くんよりもゲーム下手なんだぁ。」


……カッチーン。




 星乃家


星乃の挑発に、まんまと乗ってしまった…。


てかこいつ、男をホイホイ部屋に入れ過ぎだ。

そういうの…気になんねぇのかな。


まぁ、気になんねぇから俺は何度も呼ばれてんのか…。


「佐野くん、私の家に来るの三回目だね!」


「お前が呼ぶからだろ。別に俺が来たいって言って来てるんじゃねぇ。」


「はいはい。そうですかー。いいですよぉ。」


こいつ、何ねてんだ?

わけわかんねぇやつ。


「んなことより、ゲームするんじゃなかったのかよ。」


「お!そうだった。やる気満々だねぇ。」


いちいちムカつくやつ。


こんなの、すぐクリアして帰ってやる。



 一時間後…


「あーもう!くっそぉ!惜しかったのに。」


なんだ。

意外と難しいな…これ。


「あはは!佐野くんもう何十回もやってるよ?結構手こずってる?」


「うるせーなぁ。やったことねぇんだから仕方ねぇだろ。」


くそ、星乃のやつ…。

何笑ってんだよ。


「もう一回だ…。」


「ふふ…佐野くんが本気になった!」


ふん。

俺が本気出せば、こんなゲームすぐクリアしてやるよ。


一時間後…


「あーーん…!もう駄目だぁ…。ラスボス強過ぎるだろ…。こんなの勝てっこねぇよ。」


駄目だ…。

さすがの俺でも勝てねぇ。


なんなんだよこのゲーム。

全然勝てねぇじゃん。

難し過ぎない?


そりゃあ克樹もムキになってやる訳だ。


「ええー。佐野くん諦めちゃうのー?」


「だって、強過ぎるぜ?どうやって勝てばいいんだよ。」


人間、諦めも肝心だ。


「私は絶対にクリアしたいの!」


頑固なやつ…。


「だって…せっかくここまで頑張ってきたんだからさ。最後まで諦めたくないよ…。」


星乃…。


その言葉…


中学の時の…


あれは全国大会の日。



『はぁ…はぁ…、あいつら、レベルが違う。』


『克樹、まだ終わってねぇんだ。弱音吐くな』


『けど…この点差じゃあ、もう…。』


『せっかくここまで頑張ってきたんだ…。最後まで諦めんなよ。』


あの時と一緒だ…。


「よーし…今度こそ倒してやるー。」


あの時の俺と…


今の俺…


全然違うじゃねぇか。


「んもう…えい!……あー。…また負けたぁ」


「星乃…」


「ん?」


このまま終われねぇ…。


「貸して…。」


「…佐野くん。」


諦めてたまるかよ。


「絶対倒してやる!」



三十分後…


「んはぁー。ちくしょう…こいつ反則だろぉ」


「あはは!でも惜しかったね!佐野くん上達してるよ!」


そりゃあこんだけやってたら上手くなるだろ。


…ってか、今何時だ?


「げっ…もう七時じゃん。」


「あ、ほんとだ。夢中になってたから気付かなかった。」


「しずくー!そろそろご飯の時間よー!」


あ、星乃の母ちゃん。

いつの間に帰って来てたんだ。


「はぁーい!佐野くん…残念だけど、もうバイバイしなきゃ。」


「あ、うん。そうだな…。」


結局、クリア出来なかったな…。


けど…


「なぁ、星乃。」


「ん?」


「星乃が良かったらさ…」


俺は諦めねぇ。


「明日もゲーム…やりに来ていい?」


俺の人生…


絶対後悔は残さねぇ。


「うん!楽しみにしてる!」

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