第25話 デート
六月一日。
この高校に入学してから約二ヶ月が経った。
相変わらず平凡な日々を送っている。
学校の玄関
「佐野!」
あ、杉原だ。
「おはよ!今日から六月だね!」
「おはよ!早いよなぁ。あっという間に一年が経っていくんだろうな。」
そう。
俺に残された時間はあと十ヶ月。
杉原は、そんな事を知る由もない。
「あ、そういえば…ばあちゃん元気か?」
「うん!今日も早起きしてお弁当作ってくれたんだぁ!」
「なんだ、結構甘えてんじゃん。杉原。」
杉原とばあちゃんは、前みたいに仲良く暮らしているみたいだ。
心臓病のことは、
ちゃんと打ち明けたみたいで…
その夜、杉原から泣いて電話がかかってきた。
まぁ、でも良かったと思う。
杉原は前にも増して、生き生きしてる。
「あ、千葉!おはよ!」
「ういー。」
「克樹、お前ダルそうだな。六月病か?」
克樹が俺より遅くに登校してくるなんて…
珍しい。
「ちげーよ。昨日遅くまでゲームしてたんだ」
なんだ、そういうことか。
にしても珍しい。
克樹、そんなにゲーム好きだっけ。
「千葉。目の下にクマできてるよ。大丈夫?」
こいつは一体何時までゲームしてたんだよ。
「ふぁー…。おはよう。みんなー。」
星乃だ。
なんだ、こいつも寝不足か?
「おいおい…六月始めだってのに、二人揃って寝不足かよ。」
「だって…昨日夜中の三時までゲームしてたんだもん。」
「…え?…お前も?」
あれ?
もしかして…
「んー…佐野くん、下駄箱届かないー。」
「な、なぁなぁ。星乃。そのゲームってさぁ、誰とやってたのかなぁ…?」
もしかして…
「誰って……千葉くんだよ?」
「…あー?誰か呼んだ?」
………え?
それは…どういう………
「なんだぁ!オンライン対戦かぁ!」
びっくりしたぁ。
こいつらお泊まりして、夜通しゲームやってたのかと思ったわ。
それにしても、克樹のやつ…
杉原という存在がありながら、
なんでこんな、ちんちくりん女とゲームなんかやってんだよ。
早く杉原の気持ちに気づけ、鈍感野郎。
「最近流行りのオンラインゲームだよ!佐野くんも一緒にやろうよ!」
あー、なんか前克樹ん家でやったわ。
ボコボコにされて速攻やめたやつ。
「俺はやらねぇ。そもそも夜中までゲームするほど俺は暇じゃねぇ。」
「いつも暇だ暇だ言ってるのは誰だよ。」
「うるせーよ!俺はゲームなんかに時間使ってるのが勿体ないって言ってんだ!」
大体、ゲーム機自体持ってねぇし。
どのみち出来ねぇよ。
「結衣ちゃんもやろうよー。」
杉原がやる訳ないだろ。
そもそもグロいの苦手なんだから。
「私は…血が出るのとか苦手だから…やめておこうかなぁ。ははは…。」
やっぱりな。
やっぱ杉原は俺と気が合うわ。
「杉原、こんなやつらほっといてベアバンでも行こうぜ!」
チーズバーガー食ってた方が楽しいっての。
ん?…楽しいってか…美味しい、か。
「いいよ!じゃあ今日の放課後行こっか!」
「…え?いいの?」
まじ?
ノリで言っただけだったのに。
行ってくれんの?
「え?ほんとに?杉原、ほんとにいいの?」
「え…いいって言ってるじゃん…。どした?」
嬉しい。
杉原とデートだ。
ここにきて再びチャンス到来か!
「えーずるいよ結衣ちゃんと佐野くんだけぇ」
「はんっ!お前らは部屋にこもって、ピコピコゲームでもやってろ。」
「隼斗…なんでちょっと怒ってるんだ…?」
「さぁ…私もわかんない…ははは。」
「いいもん!私、千葉くんとゲームする!」
「雫ちゃん…一緒に行こうよ。」
「なんで星乃も怒ってるんだ…?」
(キーンコーンカーンコーン…)
チャイムが鳴る。
よし!
終わった終わった。
杉原とデートだ。
「杉原ー!ベアバン行こうぜー!」
「あ、うん!行こっか!」
やったー!
今日は今までで一番幸せだ。
「千葉くん、帰ったら連絡するね!」
「あ、おう。わかった。」
星乃のやつ…
杉原が克樹のこと好きだっての忘れたのか?
まぁいいや。
あちらさんとは違って、
俺は現実世界で楽しんでくるよ。
ベアバン店内
「えぇええ!克樹はもう好きじゃないの!?」
「声でかいよ…。」
いつの間に…
そういや、なんか最近吹っ切れたような感じがしてたんだよな。
ってことは…
星乃はその事知ってたのか。
「なんで言ってくれなかったんだよ。」
「言ったじゃん、いま。」
「星乃は知ってんの?」
「うん。私が家を飛び出した時に、色々話を聞いてもらったの。」
あの時か…。
そういや…あの時
杉原の下着姿…見たんだ…。
一瞬だったけど…。
「佐野…?なんか、ニヤけてるよ?」
「え?……あぁ、何でもない!」
あぶねぇ。
「そういえば…その時、佐野の話になったんだよね。」
「俺の?」
二人が俺の話…?
どんな話してたのかな。
「あー、そうそう。佐野って雫ちゃんのこと好きなのかなって話。」
「…え?」
もし、ここがオンラインゲームの世界ならば、
俺は迷わず電源を切っていただろう。
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