第24話 限られた時間

 ばあちゃんと杉原、一体何があったんだ。

あんなに大好きだって言ってたのに。


「ばあちゃん…杉原と何かあったのか?」


「結衣が…家を出て行った。」


「え?」


杉原が…家出?


なんで…


「なんで?確か、ばあちゃんと二人で暮らしてるんだよな?」


「結衣の両親は仕事で県外に出ていてな。幼い頃から私に預けっぱなしだった。」


そうだったのか。


「結衣のことは、娘のように可愛がっていたんだが…あの子にとっては、面白くなかったのかもしれないな…。」


「喧嘩したのか?」


「一人で出来ると言って、出て行った。」


一人で…か。


「それで、心配になって探してたって訳か。」


なるほど。

杉原がそんなこと…。


「あの子は私の子供。それと同じくらい大切なんだよ。」


そっか。

ばあちゃんも、杉原のことが大好きなんだな。


「ばあちゃん。俺が杉原のこと、ちゃんと連れてくるから!ばあちゃんはちゃんと休んでてくれよな!」


杉原がばあちゃんのこと嫌いになる訳ねぇ。


「ありがとう…。」




 一組の教室


「隼斗ー、お前もう昼だぞ。何やってたんだ」


「人助けだよ。」


「人助け?」


杉原はどこだろう。

昼休みだし、売店でも行ってるのかな。


「あ、佐野くん!」


「お、星乃。よっ!」


「よっ!おサボりは終わったの?」


「サボりじゃねぇよ。てか、杉原見なかった?売店行ってんのかな?」


「結衣ちゃんなら今日はお休みだよ!」


「…へ?」


杉原…

今どこにいるんだ…?


もしかして…

家出して、行く宛がなくて、公園で一人夜を明かし、変な犯罪に巻き込まれて……


「結衣ちゃんなら私の家にいるよ!」


「そっか。なら良かった……。」


………って




ええええええええええ!?




星乃家


「お…お邪魔します。」


まさか、こんな早いスパンで二度も星乃の家に来るとは…。

それにしても…

やっぱり綺麗な家だな。


「なぁ星乃。なんで杉原がお前の家にいるんだよ。」


「だって…泊まるとこ無いって言うんだもん」


言うんだもんって、そんな可愛い感じで言われても…。


(ガチャ)


部屋のドアが開く音。


「結衣ちゃん!佐野くん来たよー!」


「杉原ー。お前を迎えに…」


はっ!!!


杉原…


き……着替え…中…?


「きゃあああああああ!」


「ご…ごめん!そんなつもりじゃ…!」


(バタン)


ドアが閉まる音。




「で……なんで佐野がここに?」


杉原…ちょっと怒ってる。

でもあれは事故。

わざとじゃない、わざとじゃない。


「俺的には…なんで杉原がここにいるのかなぁって思ってるんだけど…。」


星乃は杉原を泊めてあげてるって言ってた。

やっぱり、杉原は家出したのか…。


「うちのおばあちゃん、いっつもいっつも…私にコレしろアレしろって…うるさいの。」


杉原…


「もう高校生なんだし、自分の事くらい自分で出来るのに…いつまでたっても子供扱いして。だから一人で出来るって言って出てきたの。」


「結衣ちゃん…。」


杉原は…

おばあちゃんに迷惑かけたくないんだな。


「杉原は優しいよ。」


「…え?」


「佐野くん…。」


「ばあちゃんの事、本当は楽させてあげたいんじゃねぇの?」


「……。」


「けど、ばあちゃんを心配させちゃ駄目だ。」


「……。佐野は黙っててよ。」


「…え?」


「なんで関係ない佐野に言われなきゃいけないの?」


杉原…


「私のこと…何にも分かってないくせに。」


「結衣ちゃん…。」


杉原…。


ごめん…。


「ごめん…佐野。」


「…いや、俺の方こそ…ごめん。」


やばい。


杉原連れて帰るはずが…。


「俺…帰るわ。」


俺まで気まずくなってんじゃねぇかよ。


「佐野くん!」


(バタン)


ドアが閉まる音。


「結衣ちゃん…!」


「ごめん、雫ちゃん。私…。」


「佐野くんは結衣ちゃんの事、心配して来てくれたんだよ。」


「そうだよね…。」


「それに…結衣ちゃん、一人で出来るって言ってたけど…」


「……?」


「私のところに来てる時点で、誰かに頼ってるんだよ。一人で抱え込まないで。」


「……雫ちゃん。……ありがとう。」




 はぁ…。

どうしよ。

ばあちゃんにも、杉原にも合わす顔がねぇ。

何やってんだよ…俺。


けど…

やっぱりこのまま二人が会わないのは、絶対に良くない。

お互い、あぁ言ってるけど…

本当は大好きだからな。


素直になれねぇだけで…。


なんか…


俺みたいだな。


「佐野!」


…え?


この声…


杉原?


「はぁ…はぁ…」


「…杉原…。」


追いかけてきたのか。


「さっきはごめん!佐野の言ったこと…正しいのに…」


杉原…


「私ね…おばあちゃんが大好きなの。だから、おばあちゃんには早く楽させてあげたいの。」


「杉原…。」


そうだよな。

だって…

昔から杉原は、おばあちゃんのこと…


「ばあちゃん、言ってたよ。杉原は自分の子供みたいに大切だって。」


「…え?」


「どこの親も、子供が一番大切なんだな!」


母ちゃんや、杉原のばあちゃんを見て…

そう思った。


「佐野…私のおばあちゃんと…」


「今朝、杉原の事を探してるばあちゃんと会ったんだ。今は病院で休んでる…。」


「…え?おばあちゃん…どうしたの?」


「心臓が悪いみたい…。」


「…そんな…。」



『……ばあちゃんはちゃんと休んでてくれよな!』


『あぁ、そうだ隼斗くん。』


『ん?どうした?』


『実は……私はもう長くないんだ。心臓がだんだん弱ってきている。』


『え?』


やっぱり…

心臓が悪いんだ。


『結衣には、どうか内緒にしておいておくれ。あの子のことだ。心配するだろ。』


心配するのなんて当たり前だろ。

そんなの。

俺だって心配する。


『あの子には、いつまでも笑っていて欲しい。元気で、明るくて、優しくて、強くて。立派な大人に育って欲しい。』


ばあちゃん…。


『結衣が出て行って…正解だったかもしれないなぁ。』


『何言ってんだよ。杉原はばあちゃんのことが大好きなんだ。絶対に連れてくる!』


『…ありがとう。』




「ばあちゃんは、杉原には内緒にしててくれって言ったけど…俺はそれが良いとは思わねぇ」


これは…

俺が同じ立場だから分かるんだ。

限られた時間の中で、

大好きな人といる時間が、

どんなに大切かってこと。

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