第23話 おばあちゃん

 今更だけど、電車通学に憧れる。

なんか…都会っぽいし。

それに、他校の女の子とか見れるし。


けど、家の近くに電車が通っていない。

てか、電車を使うほどの距離でもない。


だから俺は徒歩通学だ。


「たまには電車とか使ってみたいなぁ。」


満員電車とか、やっぱあんのかなぁ?


…ん?


おばあちゃん?


心臓のあたり押さえてる。

辛そうだ。


「ばあちゃん!大丈夫か?しんどいのか?」


やばい、息が荒い。


「……ゆ…ゆ……」


「ゆ?何言ってるかわかんねぇ!とにかく…」


こう言う時は…救急車だ。




(ピーポーピーポー…)


サイレンの音。


「ばあちゃん!しっかりしろ!」


大丈夫かな…。


「君も早く乗って!」


「え?」


「さぁ早く!」


「あれ…あの…俺…」


(バタン)


救急車のドアが閉まる音。


俺のばあちゃんじゃ無いんだけどな…。


でも…

心配だ。


ばあちゃん…。しっかりしろよ。




病院待合室


「……ってわけで、学校は遅れます。…はい。」


(ガチャ)


公衆電話の受話器を置く。


「…はぁ。」


知らないばあちゃんだったけど、体が勝手に動いてた。

三年を殴った時と同じ…

星乃を守りたいって思った時と同じだった。


「佐野君。」


看護師さんだ。


「あなたのおかげで大事には至らなかったわ。ありがとう。」


良かった…。

ばあちゃん助かったんだな。


「それで、あなたにお礼が言いたいそうよ…」


お礼だなんて…

俺は人として当然の事をしたまでで…


「…杉原さん。」


……え?



病室


「この度はどうもご親切に、ありがとうございます。あなたは私の命の恩人です。」


「あ、いやぁ…。それほどでも…。」


看護師さん…確かこのおばあちゃんのこと杉原さんって言ったよな…。


「あ、あの!俺、佐野隼斗って言います!高校一年生です!」


「あらまぁ。あんた高校生かい?立派なもんだねぇ。うちの孫とは大違いだ。」


…まご。


やっぱり…。


このおばあちゃん…


「へ、へぇー。お孫さんがいらっしゃるんですねぇ…。」


「あんたと同じ歳の女の子がおってな…。」


「そのお孫さんの名前って…もしかして…」


「ほー。あんた結衣の友達かい?」


やっぱりだ…。


このばあちゃん、杉原のばあちゃんだ。


「杉原のばあちゃん?」


「おー!そうかそうか!結衣も良いお友達を持ったもんだわい。」


ばあちゃん…

お孫さんを僕に下さい…。


「結衣は…元気にしとるかね?」


「あ、うん。元気だけど…」


あれ?

確か…杉原って、おばあちゃんっ子のはず…。


「結衣は…私の事を、口うるさい婆としか思ってないんだ。」


杉原が…。


「何があったんだ?杉原は…おばあちゃんのことが大好きだって…俺に言ってた。」


「結衣がそんなことを…。昔の話でしょう。」


たしかに…

俺がそう聞いたのは、中学生の頃。

俺が杉原のこと…好きになった日…。



三年前…


蝉の鳴き声がうるさい。

暑さが増してる気分だ。


「あちぃー。溶けるー。」


こんな暑さじゃ、授業もまともに受けれねぇ。


「…そして、この式の答えは…こうなる訳だ」


あぁ…駄目だ。

今そんな難しい計算式見たら…酔いそう。

やべぇ…

頭くらくらしてきた…


「ねぇ…大丈夫?」


……え?


「いま…俺に言った?」


「…うん。佐野に言った…。」


「俺…辛そう?」


「うん…。辛そう。今にも倒れそう。」


杉原の言う通りだ…。

すげぇ目眩がする。


「ん?どうした佐野。具合悪いのか?」


「先生。私、佐野くんを保健室まで連れて行きます。」


…え?


「…杉原…いいよ…俺は大丈夫だから…。」


「駄目だよ。何かあってからじゃ遅いんだからね。」


…こんなに真剣に…。


「わかった。それじゃあ杉原、佐野を頼んだぞ。」


「はい。佐野…歩ける?」


「あ…うん。」


なんか…恥ずかしい。

みんな見てる。


「隼斗ー、大丈夫か?」


克樹…なんでちょっとニヤけてんだよ。

こっちはマジでしんどいんだ。



保健室


「んー…、軽い脱水症状ね!」


脱水…症状?


「この季節は特に水分補給をしっかりしないと駄目よ。わかった?」


「あ、はい。先生。」


水分不足…だったのか。


「杉原さん、わざわざ着いてきてくれて有難うね。」


「あ、いえ。私、佐野の隣の席なので。」


「ほら、佐野君ちゃんとお礼言ったの?」


あ、そうだった…。


「あ、…ありがとう。杉原…。」


(キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「あ、授業終わっちゃった…。」


「ごめん杉原。俺のせいで…。」


「いいよ。佐野は悪くない。」


杉原…。

なんて優しいんだ。


「そうね。悪いのは体調だけね!それに…もう行って大丈夫よ!これ、持って行っていいからあと少し頑張りなさい!」


保冷剤…。

冷たい。


「佐野、行こ。」


「あ、…うん。」


そういえば…

杉原とは入学式から今日まで、あんまり喋った事なかったな。


なんか、いっつもツンとしてて…

話しかけずらいっていうか…

怒ってるように見える。


今も…。


「なに?」


「あ、いや…なんでも!」


そういや…いつも一人でいるよな。

一人が好きなのかな…。


ちょっと…気になる。


「あ、あのさぁ…」


「ん?」


「えっとー…杉原って好きなものある?」


おい。

俺は何言ってんだ。

小学生の質問じゃねぇかよ。


「なにそれ…小学生の質問みたい!」


あ…


笑った…。


杉原が…


笑った。


初めて見た。


杉原がこんなに笑ってるとこ。


「な、なんだよ!別にいいだろ。ちなみに俺はベアバンのチーズバーガー!」


「ベアバン?なにそれ?」


「知らねぇの?ベアーバンズ!めっちゃ美味いんだよ!」


あれ…なんか楽しい。

女子とあんまり話したこと無かったけど…

結構楽しいんだな。


「私は、おばあちゃんかなぁ…。」


「おばあちゃん?杉原は、おばあちゃんが好きなの?」


おばあちゃんか…

俺はてっきり、食べ物かと思ってたのに。


「私、おばあちゃんが大好き!大人になったら旅行に連れて行ってあげるの!」


その時の俺は…

杉原の笑顔と、その優しい心にかれたんだ。






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