第20話 妄想
正直…今まで星乃の事は、
恋愛対象として見ていなかった。
けれど…
『明日…家に誰もいないんだよね…。』
『佐野くん…明日うちに来ない?』
そんな恋愛ドラマみたいな
男なら、誰だって意識するだろ…。
翌日
はぁ…。
結局考えてたら中々眠れなかった…。
どうしよう…。
星乃と二人っきりで…星乃の部屋に…。
…『佐野くん、私…佐野くんのこと…』
いやいや、ないない。
何考えてんだ俺。
馬鹿じゃねぇの。
俺は杉原のことが好きなんだ…。
杉原…。
俺…まだ杉原のこと、好きなのかな?
前までは…
杉原と話す時、少し緊張してたけど、
最近はそうでもない。
むしろ…普通に話せてる。
それに…
克樹と二人で話してるところを見ても、
何とも思わなくなった。
あれ?
俺って…
杉原のこと、好きじゃなくなったのか…?
それとも…
ただ慣れただけ?
(ピリリリリリ…)
携帯の着信音が鳴る。
あ、星乃からだ。
「もしもし?佐野くん、ちゃんと起きてる?」
「も、もちろん!」
やっべー…
意識したら緊張してきた。
「良かった!じゃあ私の家の位置情報、送っておくね!」
「お、おう。頼むわ。」
「じゃあ…あとでね!」
なんで俺、こんなに緊張してんだ?
相手は星乃だぞ。
杉原じゃねぇんだ。
冷静になれ。
いつも俺を馬鹿にしてくる、
ちんちくりん女じゃねぇか。
(ピコーン)
携帯の受信音が鳴る。
位置情報か。
そういや、星乃の家ってどの辺りなんだろう。
「めっちゃ遠いじゃん!!!」
歩いて行ったら、一時間はかかるぞ…。
しょうがねぇ。チャリで行くか。
てか…こういう時って、
何か買って行った方がいいのかなぁ。
あ、でも…家に誰もいないのか。
いや、でも…星乃の母ちゃんには、
一回会ってるからなぁ。
あーもう。
なんで星乃の家に行くだけで、こんなに頭使わなきゃいけないんだ。
「いらっしゃいませー!」
とりあえず、ケーキでも買って行くか。
星乃って、何のケーキが好きなのかな。
あいつのことだから、
好き嫌いとかなさそうだけど…。
克樹だったら、無難にショートケーキだ。
杉原は抹茶が好きだからこれかな。
星乃は…
俺って、星乃の好きな食べ物も知らないんだ。
そりゃそうか。
聞いたことないもんな。
今日…聞いてみよ。
「すいません。」
「はい、どうなさいましたか?」
「おすすめのケーキ、二つ下さい。」
ここら辺だよなぁ。星乃の家。
あ、星乃だ。
「あ!佐野くん!こっちこっち!」
やばい。
また緊張してきた。
「自転車で来たんだ。遠かったでしょ?」
「あー、まぁ。チャリだったから…そうでも」
それにしても、立派な家だな。
俺ん家のアパートとは大違いだ。
「さ!どうぞどうぞ!」
「お邪魔しまーす…。」
綺麗な家だ。
「誰もいないから遠慮しないで!」
そうだった。
誰もいないんだった…。
「あ、これ。」
「え?」
「星乃と母ちゃんで食べて…。」
「え?ケーキ?やったぁ!!ありがとう!」
「好きなやつか分かんねぇけど。お店のおすすめのやつ買ってきた。」
「ううん!嬉しい!ありがとう佐野くん!」
めっちゃ喜んでる。
良かった。買ってきて。
「あとで一緒に食べよう!」
「俺はいいよ。甘いのそんな好きじゃねぇし」
「そうなの?」
お前と母ちゃんの為に買ってきたんだ。
二人で食べろよ。
「まぁいいや!じゃあ…お部屋行こっか!」
どきっ!!
なんだ……
いま心臓が飛び出るくらい動いたぞ。
やばい。
心臓の音が、はやくなってる。
「お部屋二階だから、先あがってて!」
おい…一人で行くのかよ。
せめて部屋まで案内してくれ。
「…どうしたの?」
「あ、いや…なんでもねぇ!」
駄目だ。
いつもの調子じゃねぇ。
星乃の部屋…ここか。
女の子の匂いがする…。
星乃の匂いなんて、
まじまじと嗅いだことなかったけど…
すげぇいい匂いする。
部屋の中も綺麗にしてるんだな。
もっと散らかってるかと思った。
「もっと散らかってると思った?」
「うわっ!!」
びっくりした…。
いたのかよ。
「どうせ…俺が来るから片付けたんだろ。」
「正解!本当はもっと散らかってるかな。」
でも…俺のために片付けてくれたんだ。
「適当に座って!ベッドとか、そのまま座っていいからさ!」
ベッド…。
それは、まずくないか…?
「いいよ…床に座る。」
駄目だ…。
どうしても変な風に考えてしまう。
落ち着け…俺。
「佐野くん…」
「…え?」
『隣…座ってもいい?』
星乃…お前……
『本当は…もっと早くくっつきたかったんだ』
駄目だよ…。
俺たち…友達だろ…?
「佐野くん?」
はっ………
「どうかした?」
また変なこと考えてた…。
「いや、何でもない何でもない!」
「変なのー。」
変だ。
星乃の言う通りだ。
学校で会う時と全然違う。
どうしちまったんだよ俺…。
「星乃…」
「ん?なぁに?」
「今日…なんで誘ってくれたの…?」
疑問だった。
なんで…四人の中で、俺だけ…。
「なんでって……。」
なんで……
いつも思ってた。
なんで俺に、そんなに尽くしてくれるのか。
なんで俺に、優しくしてくれるのか。
なんで俺に、そこまで構うのか。
なんで…
「なんで…かな?」
なんだよ。
星乃が分かんねぇなら…
誰も分かんねぇだろ。
「理由がなきゃ…だめかな…?」
駄目じゃないけど…
なんでかなって…。
やっぱ…今日の俺、変だわ…。
星乃は、いつも通りなのに…。
………
………
いや…
違う…。
いつも通りじゃない。
四人の中で、俺だけ誘ってくれたのも…
誰もいない家に、俺を呼んでくれたのも…
いつもより…女の子っぽいのも…
いつも通りじゃない。
「星乃…」
「佐野くん!」
かき消された。
星乃の声の方が大きかったから。
「私……私ね……。」
「……星……乃…?」
俺の妄想は今…現実になろうとしている。
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