第16話 田村 誠

 「先生さようなら。」


「はい、さようなら。気をつけてね。」


放課後


掃除当番。

週に一回、班ごとに教室の清掃がある。


俺の班は…

田村っていうメガネ男子と、

水谷っていう無口な女子。

それと…


「佐野、モップ持ってきたよ。」


「おぉ…さんきゅー。」


杉原の四人だ。



清掃自体は十分間だ。

そのあと先生がチェックして、オッケーが出れば帰れる。


だから、サボれない。


「なぁ、田村。」


「どーしたぁ佐野。」


「メガネって良く見えるのか?」


「なんだよそれ。変なこと聞くやつだなぁ。」


だって…特に話題もなかったから。


田村とは、

克樹と席が近いから、割と早く仲良くなった。

って言っても、俺とは全然違うタイプだ。

勉強熱心だし、真面目だし、メガネだし…

二人っきりで話すことは、まず無い。


だから何話していいかもよくわかんねぇ。


「俺、目は良い方だからさぁ…メガネかけたことないんだよねぇ。」


「なんだよ嫌味かよ。俺だって好きでかけてる訳じゃねぇよ。」


そうだったんだ。

じゃあコンタクトにすればいいのに。


「でも似合ってんじゃん、メガネ。」


「はは…全然嬉しくないね。」


田村がメガネをかけていない姿が想像出来ない。

やっぱり目は小さいのかな。


まぁ…正直どうでもいい。


あと五分か。

長いなぁ。


そういや、杉原は克樹とどうなったのかな。

最近話してるところ見なくなったな。


…気になる。


「佐野…どうかした?」


あ、見てたら気づかれた。

そりゃそうか。


「あー、えっと…最近どうよ!」


「…え?」


そりゃそうなるよな。

質問が雑過ぎる。


「克樹と…なんか話した?」


俺の語彙力ごいりょくじゃぁ、これが限界だ。


「あー…それがぁ…。」


あれ…

杉原が落ち込んでる…?


もしかして、聞いちゃいけなかったかな。


「あ、別に…話したくなかったらいいよ!実際全然気になってなんかねぇし!」


めっちゃ気になる…。


告ったのかな。


克樹が振ったとか?


いや、それとももう…付き合って…。


「ねぇ、佐野。」


「あ、はい。」


怖い。

今から杉原は、何を言うつもりなんだ…?


「今日さ…ベアバン行かない?」


「…え?」




ベアーバンズ店内


「はい、お待たせ!チーズバーガー二つね!」


「おっちゃん、この前店閉めてただろ!」


おかげで俺の新しい道が開拓されたじゃねぇか馬鹿野郎。


「わりぃ、わりぃ。お袋が急に倒れたんだよ。それでやむを得ず、店を休んだって訳さ。」


なんだ。そういうことか。


「その代わりに今日は、フライドポテトサービスしとくからよ!」


「なんか…私たち毎回サービスしてもらってるよね…。なんか気の毒…。」


「おっちゃん、あんまりサービスしてると、いざって言う時に何も出せなくなるぞ。」


「全く…可愛くねぇガキだなぁ。お前らは…」


まぁ、おっちゃんはもういいや。


俺が気になってんのは…


「ところで…話って何だよ。」


本題はこっちだ。


「うん…。実はね…。」


やっぱ、いつもの杉原らしくねぇ。

どこか悲しそうな…辛そうな顔してる。


あの時の俺も…こんな顔してたのかな。


なんか、今なら星乃の気持ち…

わかる気がする。


「千葉の気持ちが、私に向いて無いんじゃないかって…。」


杉原…そんなこと思ってたんだ。


たしかに克樹は、誰にでも優しくて、天然で、勘違いされる事が多いやつだ。


もしかしたら…


克樹と杉原は似てるのかもしれない。


「まぁ、食えよ。冷めるぞ。」


「…うん。」


冷めたチーズバーガーは、美味しくねぇ。


「へい、フライドポテトお待ちぃ!」


「ありがとうございます…。」


「さんきゅー。」


「おいおい…どうした?そんな辛気臭しんきくさい顔なんかして…。」


おっちゃん。

今はそっとしておいてくれ。

杉原は…

悩んでるんだ。


「若いうちは、悩みがつきものだからなぁ。」


若いうち…。


大人になったら、悩みは無くなるのかよ。

そんなわけねぇ。


「おっちゃんは…悩みとかねぇの?」


無さそうだよな。

毎日ニコニコしてっから。


「そりゃあ、あるさ!」


「え…あんの?」


「当たり前だろ。人間誰しも、悩みはあるさ。それを表に出してないだけで、心のどこかで皆抱えてるもんさ。」


心のどこかで…。


「大人になりゃ、友達と会う回数も減ってく。今みたいに、悩みを打ち明けられる場所も少なくなっちまう。だから若いうちってのは、思う存分悩んで、その分吐き出せばいいんだ。」


思う存分、悩む…か。


「学校行きゃあ、周りに受け止めてくれる奴なんて腐るほどいるだろ。」


そっか…。

そうだよな。


ありがとう…おっちゃん。


「杉原…俺、なんでも話聞くからさ…。なんかあったら相談しろよ!」


「佐野…。ありがとう…。」


俺も、おっちゃんみたいな大人になりたいな。




「いやぁ…食った食った。もう入らねぇ。」


「ごめんね。私の分まで食べてくれて。」


杉原…

ちょっと元気になったみたいだな。

良かった。


「そうだ!この近くに新しく出来たラーメン屋があるんだけど、そこがすっげぇ美味かったんだよ!この前克樹と二人で…」


あ…

克樹の名前は、あんまり聞きたくないか…。


「あぁ、別に…気にしなくていいよ。振られたとか、そんなんじゃないんだしさ。」


まぁ…そうだよな。

変に気にしすぎか。


「今度また、四人で行こうぜ!」


でも…杉原。

今の言葉は、杉原の為に言ってる訳じゃないんだ。


「うん!絶対行こう!」


そうしたいって…俺が素直に思ってるんだ。


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