第15話 五月病
まだ火曜日か…。
あれだけ学校に行きたがってたのに、
いざ始まるとこうだ。
これは無い物ねだりってやつだ。
たくさんある時にはそれが当たり前になって、満たされてるから要らなくなる。
かといって、無くなったら無くなったでそれが欲しくなる。
わがままだな。
それにしても、体が重いぜ。
疲れてるっていうか…
やる気が出ないっていうか…
あー…駄目だ。
先生の声、お経に聞こえてきた。
目がだんだん閉じていく。
目が……開かない…。
「佐野くん。先生に怒られちゃうよ。」
あー…星乃がなんか言ってる。
声小さくて…何言ってるか分かんねぇ。
駄目だ…睡魔が襲って…
「痛でっ!!!」
やっべ。思わず声が出た。
星乃お前…
俺の左腕つねっただろ。
何ニヤニヤしてんだよ。
「佐野…どうかしたのか?」
「あ、…いや、なんでも無いです。」
こいつ…。
(キーンコーンカーンコーン…)
当番だったの、すっかり忘れてた。
全員分のノートを職員室まで持っていかなきゃいけない。
「失礼しまーす。」
「おぉ、佐野。こっちだ。」
数学の
若いエリート教師って感じだ。
「うぃー。」
職員室って、コーヒーの匂いがする。
良い匂いだ。
「なんだ。
体がだるいんだよ。
逆になんで先生はそんなに元気なんだ。
あー分かった。
コーヒーだ。
コーヒー飲んでるから、カフェインの力で眠気が飛ぶんだ。
いいなぁ。
俺もコーヒー飲みたいなぁ…。
「佐野、もしかして五月病か?」
「…五月病?なんすかそれ。」
なんかの病気か?
「五月病ってのは、いわゆる休みボケみたいなもんだ。ゴールデンウィーク明けによく見られる現象だ。」
「へぇー。」
そんな病気があったんだ。
「新しい生活が始まって…約一ヶ月が経った。自然と体にも疲労が出始める頃なんだ。そこに連休が重なり、学校や会社に行くのが急に面倒くさくなるんだよ。」
なるほど。そういうことか。
それが…五月病。
「それって、どうやったら治るんですか?」
もしかして、治療法は無いのか…?
「あはは。五月病って言っても、一時的なもんだから心配するな。直に治るさ。」
なんだ。自然治癒すんのか。
「失礼しましたー。」
それにしても…こうもやる気が出ないんじゃ、充実した生活なんて送れねぇ。
何か集中出来ることは無いかな…。
(ガラガラ…)
教室のドアを開ける音。
「お…!」
珍しく星乃が寝てやがる。
これだけ周りが騒がしいのによく寝れるなぁ。
あ、そうだ。
これはチャンスだ。
さっきの仕返ししてやろう。
「隼斗、何やってんだ?お前…。」
「しーっ!静かにしろ!」
星乃が起きるだろ。
起こさねぇように…
そーっと…
そーっと……
……こいつ、肌白いんだな。
てか…星乃ってこんな顔だっけ。
こんなに近くで見るの…初めてかもしれねぇ。
綺麗な寝顔…してるな…。
「…んん…っんー…。」
やばっ。
起きる…!
(ガタンっ)
椅子が倒れる音。
「あっ…!」
やべー。
慌てて立ち上がったら、椅子がひっくり返った。
「佐野くん…何してるのー?」
「あ…いやー、なにも?克樹と遊んでた。」
「遊んでねぇだろ。」
「私、寝ちゃってた…。もしかして、起こそうとしてくれたの?」
「別にー。そのまま授業が始まって、怒られればいいのにって思ってた。」
それも有りだったな。
「なにそれ、ひどーい。」
何笑ってんだよ。星乃。
「お前もあれか…五月病だな。」
「五月病?」
「知らねぇの?めっちゃ怖い病気だぜ?」
やっぱこいつも知らないんだ。
なら、ちょっと脅かしてやるか。
「ただの休みボケだろ?」
「…え?そうなの?」
克樹ー!!
お前は空気を読めー!
「馬鹿やろう!そこは黙っておくのがお決まりのパターンだろうがよ!」
「何だ?お決まりのパターンって…」
「あーもういいよ!今のは無し!」
この天然野郎が。
「休みボケのことを五月病って言うんだね。」
「病気じゃないから安心して。この時期特有のものだから。」
克樹、知ってたのかよ。
なんかムカつく。
「お前ら、六月病って知ってるか?」
「何それ。お前絶対いま作っただろ。」
「あはは。佐野くん面白いね!」
うるせー。
五月病があるなら、六月病だってあるだろ。
「六月病、ありますよ!」
え?
「あ、菊池先生!」
「本当ですか?こいつ、適当に言ってますよ」
「先生!本当にあんの?六月病。」
「そもそも五月病というのは、日本人が勝手につけた風習みたいなものですよ。医学的根拠は全くありません。」
そうなのか…。
「じゃあ、六月病だって…七月病だってあるってこと?」
「ふふふ。佐野君がそう思うのであれば、あり得るんじゃないでしょうか。」
何だよそれ。
全然説明になってないじゃん。
「そろそろ授業が始まりますよ。佐野君、黒板を綺麗にしてもらえますか?」
「あ、やべっ…忘れてた。」
こいつらと話してたら、時間があっという間に過ぎていく。
「私も手伝うよ!」
「あ、あぁ。さんきゅー。」
「隼斗、教科書出しとくわ。」
「お、おう。さんきゅー。」
こいつら…
なんだかんだで
良い奴らだ。
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