第14話 外周

 今日はいつもより、早く目が覚めた。

昨日はなかなか寝付けなかったのに。


「あれ?珍しい。今日はやけに早いな。」


克樹は決まって、朝礼の三十分前には教室にいる。

プライベートでは時間にルーズなのに、そういうところだけはしっかりしている。


「なんか、早く起きちまったから…」


「へぇー。」


なんだよ。へぇーって。

別にいいだろ。

たまにくらい。


「あれ?佐野くん、もう来てたんだ!」


この声は……


「おはよ!今日、早かったんだね!」


星乃。


「…おはよ。」


なんか、久しぶりに会うから…


ちょっと緊張する。


「んー?どうかした?」


「あ、いや別に。久しぶりだなぁって思って」


目が合わせられねぇ。

なんで…


なんで俺…

星乃に緊張してんだ…?


「約一週間ぶり?たしかに久しぶりだね!」


なんだ。

元気そうじゃん。




(キーンコーンカーンコーン…)


「今日の体育は、玄関前に集合してください」


はぁ。

朝から体育かよ。

ダルいなぁ…。


玄関前集合ってことは…

絶対外周じゃん。

最悪。


そもそも、一限目から体育する意味がわかんねぇよ。

体力ほぼほぼ持ってかれて、あとの授業なんて受けれねぇだろ。

先生達もよく考えろよな。


「佐野くん、体操服ちゃんと持ってきた?」


「あたりめーよ。なんなら体操服だけ持ってきた!」


「あ、はは……。勉強道具は置いてきたのね」


「何言ってんだ。勉強道具は机の中に置いてくもんだろ。」


まさかこいつ、いちいち持って帰ってんのか?


そのまさかだな。

すげぇ驚いた顔してやがる。

やっぱこいつは優等生派だな。


「隼斗ー、着替え行くぞー。」


「おう!今行く!じゃあな、星乃!」


「あ、うん。また後でね…!」


なんだ…?

星乃のやつ、不思議そうな顔してたな。

俺の顔にゴミでもついてたかな。


…念のため鏡みてこよ。




玄関前


「休み明けだから体なまってるわぁ。」


たしかに克樹の言う通りだ。

ほとんど家から出なかったからな。


なまけてた分、本気で走るか。」


「隼斗…やる気満々じゃん。どした?」


この先…

俺が死ぬまでに、思いっきり走ることなんてあるのかな。

そう思ったら…なんか、今しかないのかなって思うんだ。


「なんか、無性に走りたくなってきた!」


「変なやつだな。」




「位置について…」


スッキリするだろうぜ。

考え事とか全部、吹っ飛ぶくらい。


「よーい…」


(ピッ)


笛の音が鳴った。


外周は、学校の周りを合計で三周走る。

基礎体力をつけるために行う…いわばマラソンみたいな感じだ。

けど、今回は別だ。

俺は最初から飛ばすぜ、克樹!


「あいつ…後からバテんぞ…。」


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


体力には自信がある。

これでも、ずっとバスケをやってきたからな。

外周三周なんて余裕だ。


女子は男子の後にスタートするから、全員追い抜けるかな。


あ、そうだ!

星乃を抜かしてやろう。

あいつ悔しがるだろうな。


よーし。

ペースアップだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


まずは一周っと…。


あれ?


あそこで見学してるのって…


「あ!佐野くん!頑張って!」


星乃!?


お前、走ってねぇのかよ!


「何やってんだよお前!サボってんのか?」


「あー!佐野くん、止まっちゃ駄目だよー!」


ちくしょう。

一瞬じゃあ話せねぇ。

だったら…もう一周してくるか。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


あいつ、もう走っても平気なはず…。

なのになんで走ってねぇんだよ。

せっかく追い抜いてやろうと思ったのに。


「はぁ…はぁ…」


見えた見えた。

星乃だ。

呑気にあくびなんかしやがって。


「なーにサボってんだよー!」


「あ!佐野くん!速いねぇ!ラスト一周、頑張ってね!」


俺の話全然聞いてねぇ。


「あー!千葉くーん!佐野くんに負けるなー!頑張ってー!」


なに!?


克樹のやつ、追いついてきやがった。


他の奴らとだいぶ離れたと思ったのに。


「はぁ…はぁ…」


どんどん…追いついてくる。


「隼斗お前…後半…バテすぎ…。」


あれ…俺、もしかしてペース落ちてる?


やべぇ…克樹と並んだ。


「はぁ…はぁ…負けるかぁ…!!」


あと少し…あと少しで…ゴール…。


もう少し…


「頑張れ!あとちょっとー!」


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


お前にはもう…


負けられねぇんだ!


(ダンッ)


地面を踏み込む音。


「っしゃああああ!勝ったぁ!俺の勝ちー!」


「はぁ…はぁ…お前…速いんだよ。」


「スピードじゃあ、負けねぇよ。」


どうだ!…見てたか?星乃…。


あれ…体に力が入らねぇ。


「おい…大丈夫か、隼斗。ふらふらじゃねぇかよ。」


「あぁ…。もう駄目だ。体力全部使い切った。ちょっと休憩。」


でも、すげぇスッキリした。


「二人ともお疲れ様。」


あ、星乃。


「佐野くん、足すっごい速いんだね!」


ふん。

何言ってんだ、こいつ。

サボってたくせに。


「なにサボってんだよ。お前も走れよな。」


「あー、ごめんごめん。今日はちょっと…走れないんだぁ。」


「なんだよそれ。体はもう大丈夫じゃねぇのかよ。」


お前が行ったんだろ。もう大丈夫だって。


「違うの…なんて言うか、その…。」


「分かんねぇよ。何もじもじしてんだよ。」


「隼斗。お前デリカシー無さすぎ。」


「は?なにが?」


わけわかんねぇ。


「星乃は今日、女の子の日なんだよ。」



…………え?



「……千葉くん…。」


「……あれ?違った?」


星乃の顔が、赤くなっていく。


そうだったのか。


だとしたら…


「克樹。デリカシーがないのはお前だ。」



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