第13話 ラーメン

 連休最終日。

俺は今、ソファの上にいる。


「あぁー…退屈だぁ…。」


ゴールデンウィークは、結局ほとんど家の中で過ごした。

全然充実してねぇ…。


あの日以来、星乃とは会ってない。

もちろん杉原と克樹とも…。


そういえば…

四人のグループLINEが出来てたけど、

各々おのおのが「今日はありがとう」ってメッセージを送っただけで、それ以降は既読スルーだ。


皆んな何してんのかなぁ。


この退屈な時間を…

どうやって埋めてんのかなぁ。


暇だし、克樹に電話してみるか…。


(プルルルル…)


携帯の発信音が鳴る。


「もしもし?」


「よう。何やってんのー?」


「何って…別になんもしてねぇけど。」


「何もしてねぇってことはねぇだろ。」


いや…克樹は間違ってねぇ。

実際俺も、何もしてねぇ。


「なんだよ、お前暇なの?」


図星。

相変わらずストレートなやつだ。


「暇だよ。この数日間、暇で暇でしょうがなかったよ。」


明日から学校が始まるとはいえ、もう限界だ。


「星乃でも誘って、遊びに行けばいいじゃん。せっかく連絡先教えたんだしよぉ。」


「いや…星乃は、しばらく安静にしとかなきゃいけないからさ。」


「あー、そっかぁ。」


いや、安静にしなきゃ行けないのは、せいぜい一日くらいだ。

今のは俺の言い訳だ。


「んじゃあ…『ベアーバンズ』でも行く?」


「おー、有り。ちょうど腹減ってた。」


「んじゃあ…用意するわ。」


「おっけー。終わったらそっち行く。」


「んー。」


よし。

なんとか退屈は回避出来そうだ。


そうだ。

せっかくだから、新しく買った帽子被って行こうっと。



(ピーンポーン)


インターホンが鳴る。


(ガチャっ)


ドアが開く音。


「よっ!」


「お前、結構気合入ってんなぁ。…俺ダル着でいい?」


「駄目だよ。待ってっからちゃんとしてこい」


こいつはまったく。

そんなんじゃ杉原に嫌われるぞ。



三十分後…


「わりぃ。お待たせ。」


おせぇよ!

どんだけ時間かかってんだよ。

女子か!お前は女子か!


「はやく行こうぜ。腹減ったー。」


「あー、待って。母さんが送ってくれるって」


「まじ?やったー!」


ベアバンまで地味に遠いんだよな。

学校からだと近いけど。


「あら隼斗くん。こんにちは。」


克樹の母ちゃんだ。


「こんにちは。」




(バンっ)


車のドアが閉まる音。


「悪いっすねぇ。送ってもらっちゃって。」


「いいのよぉ。たまたま近くの美容院に行く所だったから、ついでよ。」


昔はこうやって、克樹の母ちゃんが車で色んな所に連れて行ってくれたなぁ。


うちの母ちゃんは、仕事で殆ど家にいねぇし…


「母さん、そこでいいよ。あとは歩いて行く」



(バンっ)


車のドアが閉まる音。


「じゃあ気をつけてね!」


「ありがとうございました!」


よし。

もうお腹ぺこぺこだ。

今日はポテトも頼もうかな。



 ベアーバンズ前


「……なっ!?」


な………な……なんだと。


「あーあ、臨時休業だってさ。」


おいおい。嘘だろ。おっちゃん。

もう限界だよ…。


「どうする?隼斗。」


「俺の…チーズバーガー…。」


「やってないもんは仕方ないだろ。」


チーズバーガーが食えねぇんじゃあ、

家にいるのと同じじゃねぇかよ…。


「そういえば…すぐそこにラーメン屋出来てたよな。行ってみる?」


「克樹…俺はもうチーズバーガーの口になっちまってんだ。」




 「へい!お待ち!」


結局、そのラーメン屋に来てしまった。


けど…腹減ってるから、なんでも美味そうに見えるな。


醤油ラーメンか。

すげぇ良いにおいがする。


麺が黄色い。中華麺か。

悪くない。


トッピングはチャーシュー、焼き海苔、めんま、白髪ねぎ。

シンプルだけど…すげぇ美味そう。


「な?来てよかっただろ?」


「…まだ食ってねぇよ。」


味はどうだ…。


「いただきます。」


熱そうだな。

猫舌だから、

ちょっと冷ましてから食わねぇと。


「ふー、ふー、ふー、ふー…」


「はは。お前相変わらず猫舌だなぁ。」


「うるせーよ。さっさと食えよ。伸びるぞ。」


もう空腹が限界だ。

食べよう。


(ズズズズズ……)


(ズズズズズ……)


ラーメンをすする音。


「……めちゃくちゃうめぇ。」


「ベアバン閉まってて良かったな。」


(ズズズズズ…)


これ、ハマりそう。

中華麺のもちもち食感に、鶏ガラベースの醤油スープが絡んで最高に美味い。


(ゴクッ、ゴクッ…)


優しい味だ。

これじゃあスープまで飲み干せそうだ。


「…ぷはぁっ。」


「お前、チーズバーガーの口になってたんじゃないのかよ。」


「うるせーよ。…でも、美味かったわ。」


また来よう。絶対。


そうだ。星乃にも食わせてやりたいな。

あいつの事だから、スープまで飲み干しそうだな。


「隼斗…。なにニヤついてんだ?」


え、ニヤついて…


「ニヤついてねぇよ!ちょっと、考え事してただけだ。」


俺…自然と星乃のこと考えてた。




「まいど!ありがとうございました!」


そう思えば…

最近、星乃のことを考える事が多くなった気がする。



「母さん、すぐ来るって。」


「おぉ、さんきゅー。」


明日は久しぶりに星乃に会う。


「明日から学校かー。ダルいなー。」


今までの俺なら…

克樹と同じことを思ってたと思う。


「そうだなー…。」


そう思わないのは…なぜだろう。

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