第12話 電話
救急車のサイレンの音だ。
はやく…はやく…はやく……
(ピーポーピーポー……)
はやく…はやく……
「大丈夫ですかー?聞こえますかー?」
はやく……星乃を……
助けてください。
病院
星乃…大丈夫かな…。
何ともなければいいけど…。
「佐野君…だったかな?」
お医者さんだ。
「はい。そうです。」
「彼女はもう大丈夫です。軽い
「呼吸…困難。」
俺のこと…走って追いかけてきたから…。
「いま、彼女の
よかった…。
星乃が無事で。
「ありがとうございます。」
(ガタンっ)
自動販売機の音。
喉…からからだ。
(ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…)
水って、こんなに美味かったっけ…。
てか、もうこんなに暗くなってたのか。
何時だろ、いま。
あ、誰か入ってきた。
「あの…もしかして、雫のお友達ですか?」
あ…もしかして、星乃の母ちゃん!?
「あ、はい!あの…星乃…さんの、友達の佐野です!」
友達…
俺らって…友達、なのか?
「あなたが…佐野くん。この度は、ありがとうございます。」
「あー、いえ…とんでもないです。俺は何も。」
友達ってか…
ただのクラスメイト…だよな。
「雫がいつも、あなたのことを話してくれます。最初に出来た友達だって。」
「…え?」
星乃が…
「あの子、今日は佐野くんと、そのお友達と遊ぶんだって…凄く嬉しそうにしてました。」
星乃が…そんなこと話してたんだ。
「引っ越してきたばかりで、最初は不安がっていたけれど…素敵なお友達に出会えて、あの子は本当に幸せ者です。」
そこまで言われると…なんか、照れる。
「佐野くん。これからもあの子のこと…どうかよろしくお願いします。」
「そんな、頭なんか下げないで下さい…。」
どっちかと言えば…俺の方が、助けてもらってるんです。
頭…あげて下さい。
「星乃さん。」
「は…先生!雫は…?」
「大丈夫ですよ。どうぞ、こちらへ。」
たしかに、星乃は幸せ者だな…。
だって…
母ちゃんにこんなにも、愛されてるんだから。
「ただいまぁ。」
(ガチャっ)
ドアを開ける音。
って…誰もいねぇか。
電気もついてねぇ。
もう九時か…。
今日は疲れたな。
ちょっとソファに寝転ぶか。
「はぁ……。」
やっと落ち着ける。
今日一日、いろんなことがあったな。
でも、あっという間だった。
星乃…大丈夫かな?
明日、学校来るかな。
そっか…学校、無いのか。
あれだけ嫌ってた学校が、なんだか恋しくなってる自分がいる。
学校がなきゃ…退屈だ。
星乃がいなきゃ…退屈だ。
(ピリリリリリ…)
携帯の着信音が鳴る。
「うわっ…!」
(ガタンっ)
ソファから転げ落ちる。
「痛ってて…。」
急になんだよ。
誰から…
知らない番号だ。
誰だろう…
「…はい。もしもし?」
「もしもし。佐野くん?」
この声…星乃の声だ。
「星乃か?」
「うん。そうだよ。よく分かったね。」
「そんなもん…声聞きゃあ分かるよ。」
「そっか。なんか嬉しいな。」
なんだよそれ。
普通だろ…。
「大丈夫なのかよ…。具合の方は。」
「うん。少し安静にしてなきゃ行けないんだけど、大丈夫。」
「そっか…。良かった。」
いつもより少し元気がないけど、
大丈夫なら良かった。
「ありがとう。佐野くん。ちゃんとね…お礼が言いたくて…。」
「いいよ、別に。お前の母ちゃんにも、さっき言われた。」
「お母さんが…。そっか。」
だからもういいんだ。
お前が無事なら…それで。
「ねぇ…お母さんと何話したの?」
「別に…大したこと話してねぇよ。」
「…そうなんだ。」
なんか…電話だと
間が開いてしまうな…。
それに、静かだ。
「見たかったなぁ。佐野くんとお母さんが話してるところ。」
「何でだよ。ほんとに、挨拶程度しか話してねぇよ。」
変なやつ。
でも、少し元気になった気がする。
「佐野くんはさぁ…何で今日来てくれたの?」
何でって…
「お前が来いって言ったんだろ。」
「来るの…嫌じゃなかったの…?」
たしかに…
最初は嫌がってた。
杉原が克樹を誘って、
克樹が俺達を誘ってるって思ってたから。
でも、星乃に誘われたって知って、
俺の中で、行かない理由が一つ減った。
ただ…それだけのことじゃないのか。
「俺は克樹と杉原の、人数合わせになるのが嫌だっただけだよ。別に、行きたくなかったわけじゃねぇ…。」
あれ…俺、なんかまた捻くれてる。
「ふふ…。素直じゃないねぇ。佐野くんは。」
やっぱり。
そうだよな。
今のは…素直じゃねぇ。
本当は、行きたかったんだ。
克樹と杉原と、昔みたいに戻りたかったんだ。
行き先なんてどこでもいい。
ただ皆んなで、笑って話したかったんだ。
そして…
「星乃……。」
「……ん?」
「はやく元気になれよ。」
少しずつだけど…
「うん。…ありがとう。」
星乃といる自分も、
悪くないかもって思うんだ。
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