第10話 初めての四人

 明日からゴールデンウィークに入る。

早いもので、もう五月だ。

時間が経つのってこんなに早かったっけ…。


星乃から余命宣告を受けて、一ヶ月か…。


俺の残りの命は十一ヶ月。


なんか…ピンとこない。


今日もこうしていつも通り、隣の席には星乃がいる。

そして、退屈な現代文の授業。


「なぁ、星乃…。」


「なぁに?」


「お前、本当に人の寿命が見えるのか?」


「なぁに?今更。」


その通りだ。

けど、ずっと確かめたかったことでもある。

いや、確かめなきゃならないことだ。


「お前にその力があるんだったら、克樹とか…他のやつの寿命も見えてんのかなって。」


いたって普通の疑問だろ。


「見ようとすれば…見えるけど…。」


「…けどなに?」


見えるんだ。やっぱり。


「見たくないから見ない。」


そりゃそうか。

人の寿命が見えたところで、得することなんて何もないよな…。


「わりぃ。今のなしで…。」


星乃の気持ち、考えてなかったわ。


「ふふ…。いいよ、全然。」


なんだよ。笑ってんじゃねぇか。


「おい、そこ!何喋ってるんだ!」


やばい。バレた。


「「すみません!」」




(キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「隼斗ー。明日ひま?」


「暇だけど、なんかあった?」


「杉原が遊ぼうって言ってんだけど…星乃と一緒にこない?」


克樹…

杉原はお前と二人で遊びたいんだよ。


「杉原は俺らのこと誘ってねぇだろ。」


そうだよ。

だって杉原は、お前が好きなんだ。


「いや、杉原が誘ってんだよ。俺とお前と星乃のこと。」


「…え?そうなの?」


杉原が…?


なんで俺と星乃を…。


そうか。

二人で遊ぶのが恥ずかしいのか。

だから俺らのこと…。


杉原にとって俺は、ただの人数合わせってことですか…。


「あ、杉原!ちょうどよかった。」


「どうしたの?」


「明日のこと、隼斗に話してたんだけど…」


「杉原、克樹と二人で行ってこいよ。」


「隼斗…。」


なんでわざわざ、お前らのイチャイチャしてるところを見にいかなきゃいけないんだよ。


「佐野、あのね…星乃さんが誘ってくれたの。皆んなで遊びに行こうって。」


「…え?」


星乃が…?


あいつ、いつのまに…。


「佐野くん、もちろん行くよね?」


お前……何勝手なことしてくれてんだよ。




次の日


「あ、佐野くん千葉くん!こっちこっちー!」


「お待たせ。ごめんね、隼人が直前まで行かないって駄々だだこねるから。」


俺は行きたくねぇって言ってるだろ。


「ほんと素直じゃないよねぇ、佐野くんは。」


これが素直な意見だっての!


それにしても、このメンツで遊ぶの…なんか、不思議だな。

てか、杉原と星乃が一緒にいるのが、見慣れない光景だ。

それに、私服も見慣れてない。


杉原、だいぶ気合入ってるなぁ。

メイクも全然違う。

俺と会った時とは…まるで別人だ。


「佐野?どうかした?」


「あ、いや!何でもない。」


やっぱ恋の力は凄いな…。


そういや星乃の私服、初めて見るな。


意外と綺麗めな服着るんだな。意外と。

いつもより、若干大人っぽく見える気が…

若干。


「佐野くん、見過ぎだよぉ。そんなに見られたら恥ずかしいじゃん。」


いや、ない。

星乃は星乃だ。


「お前もお洒落おしゃれとかするんだな。意外だわ。」


「あー、素直に可愛いって言ってくれればいいのにー。」


誰が言うかよ。

お前なんかに…。


「さて、そろそろ行こうよ。俺も隼斗も朝食べてないんだよね。」


「てか、そもそもどこ行くんだ?」


「星乃さん、何かプランあるんでしょ?」


「そうそう…お前が企画したんだから、さっさと仕切れよ。」


「あのー…実は…。」


おいおい…嘘だろ星乃。




「おじさん!チーズバーガー四つください!」


結局ここかよ。

星乃のやつ、ちゃんとプラン立てとけよな。


「あいよ!まいどー!それにしてもゴールデンウィークだってのによぉ。若者四人が、何が悲しくてこんな所で暇潰してんだ。」


まったくだ。

おっちゃんの言う通りだぜ。


「おっちゃんー。こいつが何も考えてなかったおかげで店は繁盛はんじょうしてんだ。こいつに感謝するんだなぁ。」


「あはは……。佐野くん、ごめんってば。」


「まぁいいじゃん!四人で来るのは初めてなんだし。」


杉原はいいよ…。

だって克樹がいるんだもんな。


「そうだよ。星乃に任せた俺たちも悪かったんだよ!」


「千葉くん……ごめんね…。」


克樹…そりゃ星乃もへこむぞ。

さすがは天然だ。


「とにかく、これ食った後どうするか決めようぜ。」


「お!隼斗、やっと乗り気になったか。」


「ちげーよ!ぐだぐだ時間潰すのが勿体ないだけだよ!」


「「あはははは!」」


なんだ。

初めて集まるメンツだけど…

その割には結構、盛り上がってるな。


皆んな笑ってる。

楽しい…のかな。


「佐野ってやっぱり面白いね!」


「え…?」


俺って、面白いんだ。


そういや、杉原と話してる時…

いつも笑ってたな。


もしかしたら


俺はいつも、心のどこかで…


杉原を笑わせようとしてたのかもしれない。


大好きな、その笑顔が見たくて…。


「佐野くん!聞いてる?」


「…あ、わりぃ。何話してたっけ?」


「だからぁ…佐野くんは、好きな人いるの?」



星乃雫。

俺は、

これほどお前を憎んだ日はない…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る