第7話 変なやつ

 暗い…。


ここ…どこだっけ。


((佐野!))


あれ…誰か……呼んでる。


((佐野!))


俺の…名前。


杉原…


あー…駄目だ。


頭がぼーっとする…。



「隼斗!!」


はっ


「良かったー。目覚ましたか…。」


あれ?克樹…


てか、ここどこ…?


「車に跳ねられたって、杉原から連絡あったんだよ。」


車に…あぁ、そうか。

俺は杉原と二人で一緒に歩いてて…

それで、杉原が克樹のことが好きだって…


「病院……。俺…」


「本当に運がいい奴だよな。数メートル吹っ飛んだのに、かすり傷だけだってよ。」


あ、ほんとだ。

膝がちょっとだけ痛い。

他にも、何箇所か…。


「俺…気失ってたのか。」


「跳ねられたショックで、気絶したんじゃねぇの?頭は何とも無いってよ。」


そっか。

たしかに、車に跳ねられたくらいのショックはあった。

色んな意味で。


「そういえば、杉原は?」


「もうそろ来ると思う。」


杉原…心配しただろうな。


いや、俺なんかの心配…しないか。


「佐野…!」


杉原だ。


「良かったー。どこか悪いところ無い?」


杉原が…心配してくれてる。


「あ、あぁ…大丈夫、大丈夫ー。俺、身体丈夫だからさぁ。ははは…。」


メンタルは弱いかも…。


「本当に良かった。私…佐野がこのまま死んじゃうんじゃないかって…。えっ…えっ…。」


そんな顔するなよ。

なんで泣いてるんだよ。

俺なんかの為に、杉原が泣く事ないだろ。


「大袈裟だなぁ。あれくらい、どうって事ねぇって!ほら、ピンピンしてる!」


頼むから、せめて笑っていてくれ。

じゃないと、俺が辛い…。


「そうそう。こいつ昔からドジなところあるけど、大体けろっとしてるから。大丈夫だよ。」


「千葉…。ありがとう。」


そうそう。

杉原は何も気にすることないよ。

悪いのは俺だ。

勝手に舞い上がって、勝手に落ちて。

馬鹿みたいだ。


「お前ら、もういいから。克樹、杉原のこと家まで送ってやれよ。」


今お前ら二人が揃ってるところ見ると、苦しくて仕方がないんだ。


「じゃあ、また連絡するわ。なんかあったらいつでも言えよ。」


「おう。サンキュー。」


「佐野…また学校でね。」


「…うん。」


切ねぇ。



いつまで入院すんのかな…。


てか、もう学校行きたくねぇや。



杉原と克樹が話してるとこなんて、見たくないし。



今頃、杉原は克樹に告ってんのかな。

克樹は杉原のこと、どう思ってんのかな。

あの二人…付き合うのかな。


(コンコン)


ドアをノックする音。


なんだよ。

帰ってきたのか。


「お邪魔しまーす。」


…え?


「佐野くん、大丈夫?」


なんで…星乃雫。


「聞いたよぉ。車に跳ねられたんだって?」


なんでお前は…


いつもいつも…


「これ!良かったら食べて!チーズバーガー。佐野くんの好きなやつ。」


うざいんだよ。


「ほっといてくれよ!」


「…え?」


「なんなんだよ!いつもいつも、人の邪魔ばっかりしやがって!楽しいかよ!俺をからかうのがそんなに楽しいのかよ!」


「私…そんなつもりじゃ…」


「帰れよ!」


もう…ほっといてくれ。


変に優しくしないでくれ。


どうせ俺はいなくなるんだ。


頼むから…一人にしてくれ。


「帰らない。」


「…え?」


こいつ、今なんて…


「だって…また辛そうにしてるから。」


辛そう…?


「あの日みたいに、辛そうにしてるから。」


なんで…


「なんで…」


「え?…」


「なんでそこまでして…俺のこと…。」


俺はお前にとって、何でもねぇ。

ただ、皆んなより先に知り合った、

ただのクラスメイトだ。

なのにお前は、なんでそこまでして…

俺のこと…。


「ほっとけないから…かな。」


ほっとけない…?


『ほっとけないよ。だって君、すごく辛そうにしてるんだもん。』


あの日と同じだ…。


「それに、言ったよね?私の一年、君にあげるって。」


『私のせいで、君は今日死ぬに死にきれなかったんだから。』


『私の一年、君にあげるよ。』


そんな…理由で…。


「私が佐野くんにどうしたいかは、私の自由だよね。」


たしかに。

そうだな。

でも…


「お前はそれで、いいのかよ。」


「え?」


「お前はそれで…幸せなのかよ。」


他人の為に苦しむなんて、辛いだけだ。

星乃だって、本当は…


「誰かの為に、力になれるなら…それは幸せだと思うなぁ。」


不思議な気持ち。

こいつと話してると、不思議な気持ちになる。


イライラとか、むかつく感情とは違くて…

俺の中のモヤモヤが、浄化されていく感じ…


「お前、やっぱり変なやつだな。」


「えー?ひどい。それどう言う意味?」


星乃雫。

お前は変なやつだ。


「そのまんまの意味だよ。」


お前といると、さっきまで考えてた嫌なことが


「それ悪口だよね?絶対そうだー。」


どうでもよくなる時があるんだ。


「変なやつ。」


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