第5話 バスケ

 今日は雨だ。

雨の日はなんか憂鬱になる。


「あーだりぃー。」


机もベタベタするし。

湿気、最悪。


「結構降ってるねぇ。」


「あー、そうだなー。」


あれから星乃とは、普通に話してる。

つっても、一方的に向こうから話しかけてくるんだけど。

俺が話したいのはこいつじゃなくて、

杉原なんだけどな。


やっぱ可愛いなぁ。

昔は名簿が近かったから隣の席が多かったけど、高校は男女の名簿が分けられてるから…


「ねぇねぇ、虹出るかなぁ?」


なんでこいつと隣なんだよ。


「この調子じゃあ、まだ止まないだろ。」


はぁ。

今頃スクールラブ真っ最中のはずだったのに。

全然充実してない。




 体育館


「今日は雨天により、室内で授業を行う。」


「隼斗、外周じゃなくて良かったな。」


「だなぁ。何すんのかな?」


室内って言えば、球技かな。

バスケだったらいいなぁ。


「今日は自由時間とする。ただし、みんなで一つのスポーツを決めて行うこと。いいな?」


なんだ。

女子と合同でやるのか。

だったらバドミントンとかかな。

どうせ男子の意見なんて通らないだろ。


「バスケがやりたい!」


…え?


「私、バスケがやりたい!」


星乃、お前バスケしたことないだろ。


「いいねぇ!俺もバスケ賛成!」


「あたしもー!」


みんな意外とバスケ好きなんだな。

まぁ、俺は嬉しいけど。

あいつ、大丈夫か?


「佐野くん!バスケ教えてよ!」


「は?お前、やっぱり知らねぇのかよ。」


なんで知らないスポーツをやるって言ったんだこいつは…。


「じゃあ佐野は星乃さんと同じチームだね!」


「は?なんで…」


何勝手に決めてんだよ。

こんなやつがチームにいたら、

絶対負けるじゃねぇかよ。

つーか、お前は誰だよ。


「よろしくね。佐野くん。」


しょうがない。

こうなったらこいつは居ないものとして考えよう。

ボールさえ星乃に回さなきゃ大丈夫だ。


よし。


(ビーーーー)


ブザーの音が鳴る。


(ダンっ、ダンっ、ダンっ、ダンっ…)


二組のやつは知らないけど、とりあえずは克樹のチームだけ意識しとけば、あとは楽勝だ。


(シュっ……パスっ)


「ナイスシュート!」


こんなの、普通だって。


「佐野くん…すごい。」


(ダンっ、ダンっ、ダンっ、ダンっ…)


これでも一応、全国大会経験者だからな。

お前らじゃあ着いてこれねぇよ。


(パスっ)


(ビーーーー)


ブザーが鳴る。


「ありがとうございました。」


まぁこんなもんだろ。


「隼斗。お前手加減しろよな。」


「何言ってんだ。俺はいつでも本気だ。」


手加減なんて、相手に失礼だろ。

それに…

杉原が見てんだわ。


(ビーーーー)


ブザーが鳴る。


(ダンっ、ダンっ…)


克樹のやつ、やっぱ上手いな。

スピードじゃあ負けねぇけど、技術に関してはあいつの方が上だ。

絶対、負けたくねぇ。


(パスっ)


「千葉くん、上手だねぇ。」


「あいつは物心ついた時からやってっから。」


「へぇー、そうなんだぁ。佐野くんは?」


「俺は小学生の時に、克樹に誘われて始めたって感じだな。最初は適当にやってたんだけど、あいつに負けたのが悔しくってさ。次の日から毎日練習して、いつの間にか好きになってた」


「佐野くんって、好きなことになると沢山喋るよね!」


「え?」


「ふふ。なんか嬉しそう!」


なんだよそれ。

別に…そんなことないだろ。

何笑ってんだよ。

むかつく。


「でもやっぱりバスケって難しいなぁ。私なんて、一回もボールに触らずに試合終わっちゃった。」


そりゃそうだろ。

俺がお前にパスしないんだから。


「お前、なんでバスケやりたいって言ったんだよ。バスケ出来ねぇだろ。」


「佐野くんがバスケしてるところ、見てみたかったからだよ。」


…え?


それは、どういう…。



(ビーーーー)


ブザーが鳴る。


「隼斗。悪いけど、お前には手加減しないぜ」


「絶対負けねぇ。」


克樹と勝負するのなんていつぶりだろう。

いつもは同じチームの仲間だったから。


「こいよ。隼斗。」


まずはジャンプボールか。

身長はお互い百七十ちょいか。

だったら…


(ダンっ)


ジャンプ力で勝負だ。


届け…


(バシッ)


よっしゃあ。当たった。


…って、目の前に誰もいねぇ。


しまった。


「余所見すんなよ。」


取られた…。


(ダンっ、ダンっ、ダンっ、ダンっ…)


やばい。

速攻決められる…。


(パスっ)


くそ。

入れられた。


次は俺の番だ。


(ダンっ、ダンっ…)


克樹のやつ、完全に俺をマークしてる。

さすがに一人じゃ突破は厳しいか。

って言っても、パス出すにしても、誰に投げたらいい?


「パースっ!」


そっちか。


「おらっ!」


(パシッ)


「あっ!」


取られた。

何やってんだよ。

また決められる。


(パスっ)


「よっしゃー!」


「千葉ナイスシュート!」


くそ。

あいつ笑ってやがる。

こんなんじゃ杉原に良いところ見せれないじゃねぇかよ。


「佐野くん。」


「あぁ!?」


あ…。


「ごめん…私、どうしたらいいかな?」


星乃…。


『でもやっぱりバスケって難しいなぁ。私なんて、一回もボールに触らずに試合終わっちゃった。』


そっか。

そうだよな…。


『バスケってのはチームプレイなんだよ。俺や克樹一人が凄くても駄目なんだ。』


悪い…星乃。

俺、自分の言ったことまで忘れてたわ。


「星乃、お前はゴールの下にただ立ってるだけでいい。」


「え?」


「俺がパスしたら、お前はただネット目掛けてボールを投げろ。それだけだ。」


俺だけが突っ走ってても、何も楽しくないからな。


「外した時は気にすんな!俺がしっかりケツ拭いてやるからよ!」


「佐野くん…。うん!わかった!」


あれ…。

俺、今結構楽しんでるかも。


だって、わかる。


今の俺…


最高に笑顔だ。



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