第3話 千葉 克樹

 最近、変な夢を見る。

学校の屋上から、飛び降りる夢だ。

地面にぶつかる所で、いつも目が覚める。

そして今日も。


「はぁ…まただ。」


正夢まさゆめになるのだろうか。

いや、なってもおかしくはない。

なぜなら俺は、一年後に死ぬんだから。

その死因がなんなのかまでは分からない。

もしかしたら、何かに耐えられなくなって、

自ら命を経つ可能性だってある。

現にそうしようとしたんだから。


あの時、あいつは俺を止めてくれた。

力一杯、俺の手を引っ張って。


もしあの時、あいつが居なかったら…俺は。


「隼斗ー!起きてるか?遅刻するぞー。」


克樹だ。

相変わらずノックもしないで、人の部屋に入ってきやがる。


「わりぃ。今起きたとこだわ。先行ってて。」


「なんだよそれ。遅れんなよ。」


「わりぃ、わりぃ。」


克樹とは幼馴染みで、何でも話せる家族みたいなやつだ。

でも…さすがの克樹でも、俺が一年後に死ぬだなんて、言えない。


そもそも、あいつの言ってることが本当かどうかわからない。

寿命が見える?

普通に考えてありえないだろ。

やっぱりあいつ、俺の事からかってるんだ。

俺の弱みを握って、自分と仲良くする為の口実をつけてるんだ。

そうかそうか。わかったぞ。

こうなりゃあ、とことん無視してやる。




(キーンカーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「えー!じゃあ二人とも全国大会行ったことあるんだぁ!」


あれ…。

なんでまたこいつと話してんだ克樹は。


「まぁ結果は散々だったけどね。他校とうちとじゃレベルが全然違ったね。」


昔の事をぺらぺらと喋るんじゃねぇ。

それに、結構落ち込んだやつだぞ、それ。


「凄いなぁ。私バスケとかあんまりやったことないからよく分かんないけど、全国大会って、行くだけで凄いと思う。」


「よく分かんないんだったら…」


あ、やばい。

つい…喋ってしまった。


二人ともこっち見てる。


「凄さとかそういうのも、分かんないだろ。」


やばい。

すごい気まずい。

これも克樹のせいだ。


「わかるよ。」


「…え?」


こいつ、今なんて…。


「何かを成し遂げるために頑張って努力して、駄目だったとしても、それでも夢を追い続けてたんだなぁって思うと…」


なんだよ。

こっち見んなよ…。


「凄いなぁって思うよ。」


なんか、変な気分だ。

今、褒められたのか?


やっぱり、こいつの言ってることはよく分かんねぇ。


「バスケってのはチームプレイなんだよ。俺や克樹一人が凄くても駄目なんだ。」


「そっか。」


わかったかよ。

知った風に言いやがって。


「佐野くんは仲間思いなんだね!」


こいつといると…調子が狂う。




 「はい、じゃあ続き、誰か読んでくれ。」


うわぁ…めんどくせー。

こういうの当てられたくないんだよな。

とりあえず教科書に隠れよう。


「はい!」


「お、星乃。読んでくれるか。」


こいつは俺と真逆のタイプだな。

優等生か、それかただの目立ちたがり屋だ。

こういうのは先生の目を盗んで、

女子と話したり、友達とくだらない事やったりするのが一番楽しいんだよ。


「佐野!」


え?俺、呼ばれた?


「あ、はい!」


「星乃の続き、読んでくれ。」


「…え?」


待って。

早くないか?

確か一段落ごとに読む人を交代していくはず…


こいつ…まさか。

少ない文章の段落を先に見つけて、それで挙手したのか。


「へへ。次、ここからだよ。」


「あ、あぁ…。」


って…俺の読む場所めっちゃ多いじゃん。


「佐野、はやくしろ。」


星乃雫。こいつ、マジでむかつく。




 (キーンコーンカーンコーン…)


やっと終わった。

今日で現代文の授業、嫌いになった。


「克樹。売店行こうぜ。」


腹減った。

もう昼休みだ。


「あー悪い。俺今日弁当あんだわ。」


「まじかよ。皆んな持って来てんの?」


仕方ない。

早起きしなかった自分が悪い。

うちは母親と二人暮らしだから、自分のことは自分でやらなきゃいけない。


「んじゃ一人で行ってくるわ。」


って、何の報告してんだよ俺。


「ねぇねぇ、私も売店行きたいからさ、一緒に行こうよ!」


でた。星乃雫。

俺はこいつを無視するって決めたんだ。

さっさと行こう。


「あ、ねぇ。待ってよー。」


なんで着いてくるんだよ。

そりゃそうか。

行き先は一緒だからな。


それにしてもこいつ、友達いないのか?

前の学校のやつらは、全員違う学校に入学したのかな。

たしかに、高校からはエレベーター式っていうのが無くなって、知ってるやつらのほとんどは別の学校に行った。

だから、まぁ普通なのか。


それにしても、なんで俺に…。


「お前さぁ…。」


駄目だ。無視するって決めてたのに。


「友達とかいねぇーの?」


こいつのことが、気になる。


「私、引っ越してきたから。元々はこっちの人じゃないんだ。」


「…へー、そうなんだ。」


そりゃあ友達なんか居ないわけだ。


「だから、知ってる人がいて良かった。」


「知ってるって、一昨日会ったばっかだぞ。」


そうだ。

俺にとっては、

入学式の日に会ったクラスメイトの中の一人だ。


「私にとっては…佐野くんだけだったから。」


そっか…。

こいつにとっては、

入学式の日に会ったクラスメイトは、

俺だけだったんだ。


知らない場所に急に引っ越してきて、皆んなとスタートラインが少しずれていて…。

こいつにとっては、

俺だけが唯一同じスタートラインに立っていた仲間だったんだ。


決めた…。


やっぱり、無視するのはやめよう。

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