第2話 星乃 雫

 一年後に死ぬ。

だったら残りの一年間、悔いの残らないように楽しまないと。


…とは言ったものの。


学校正門前


結局、杉原とは顔を合わせなくちゃいけないのか。

昨日は「吹っ切れた」とか思ってたけど、いざってなると考えてしまう。


杉原とは小学校から一緒で、俺の初恋の人だ。

とても話しやすくて、笑った顔が可愛くて、そして優しい。


けど、どうやら俺の片想いだったみたいだ。


たぶん、俺だけじゃなくて、皆んなに優しいんだろうな。


「あぁ!おはよう!佐野くん!」


俺の名前…

後ろから聞こえた。


あ、こいつ昨日の…。


そういや、昨日名前…教えたんだった…。



『君、私と同じ学校の制服だよね?名前は何て言うの?』


やっぱり、同じ学校だ。

違うクラスの子かな。


『佐野…佐野隼斗。』


『佐野くんかぁ…。よろしくね!』


『いや、お前は何て言うんだよ。』


『あっ!ごめんごめん。私の名前はね…』




こいつの名前…なんだっけ?


「あー、えっとー…」


「あー、もしかして覚えてないの?」


やばい。忘れた。

人の名前覚えるの苦手なんだよな。

なんだっけ。


「星乃雫!ちゃんと覚えてよね。」


そうだ。しずくだ。

変わった名前だなって思ったんだ。


「あー、星乃。おはよう。」


そう、こいつには俺の寿命が見えている。

来年の四月五日…

その日に俺は死ぬらしい。

信じがたい話だけど…。


「ねぇ、教室行かないの?遅れちゃうよ?」


あぁ、そうだ忘れてた。

どうしよう。

考えたらお腹痛くなってきた。

帰りたい…。


(パシッ)


「はやく行こ?」


「ちょ、ちょっと待って!」


手繋ぐな。

杉原に見られたらどうする。

ってか、杉原じゃなくてもまずい。


やばい、生徒指導の坂口だ。


「先生、おはようございます!」


「おう!おはよう。今年の一年生は元気がいいなぁ。」


やばい。

目が合った。


「あ、…おはよう、ございます。」


「おはよう。朝からラブラブだなぁ。青春ってやつか。」


最悪だ。

絶対に変な印象付いた。

それにしても、こいつは何も気にならないのかよ。


「離せ!自分で歩けるっての。」


「あー、ごめんごめん。佐野くん、ぼーっとしてたから。」


考え事してたんだよ。

本当にむかつく。


しかも下駄箱は一番下だし。入れにくい。

なんでこいつは上の段なんだよ。


「ん?どうかした?」


やべ。

見てたら目が合った。


「何でもねぇよ。」


さっさと行こう。


一年のクラスは二階だったよな。

俺は一組だから楽だ。

階段を登って直ぐに教室がある。

こいつは何組なんだろう。


後ろ、ついてくる。

そりゃそうか。

同じ一年だもんな。


「お前…何組?」


「お前って言わないでよね。ちゃんと名前教えたでしょ。」


むかつく。

もういいや。

どうせこいつとはもう関わらな…


あれ?

なんでこいつも一組に…?


「もしかして佐野くんも一組?やったぁ!知り合いがいて良かったぁ。」


嘘だろ。

入学式に、こいつ居たっけ。

どんだけ影薄いんだよ。


「あれ?隼斗、早速女子と登校?」


「ちげーよ馬鹿!こいつが勝手について来たんだよ!」


克樹かつき、やめろ。

あんまり大声で言うな。

こいつはいっつもデリカシーってものがない。


「佐野くんのお友達?私にも紹介してよ!」


お前も行くな。

頼むから大人しくしていてくれ。


「はじめまして。千葉克樹ちば かつきです。隼斗とは幼馴染みで…」


届けー!俺の心の声ー!


最悪だ。

これじゃあもう、俺の残りの学園生活、この女が付きまとってくるじゃねぇか。


そうだ。

そういえば、杉原は…


めっちゃ見てる。

一番前の席からめっちゃ見てる。

最悪だ。

目合わせられねぇ。


「そういえば昨日の入学式、欠席してたよね?」


「家の事情で出られなかったの。本当はすごく楽しみにしてたんだけど…」


あー、だから見たことなかったのか。

ってか、克樹喋り過ぎだ。

こいつが調子に乗るからやめてくれ。


こうなりゃ強硬手段だ。

無理矢理離してやる。


「克樹、トイレ行こうぜ。」


「えー、連れションかよ。もう朝礼始まるぜ?お前来るの遅いんだよ。」


「いいから来い!」




(キーンコーンカーンコーン…)


チャイムが鳴る。


「星乃雫です。よろしくお願いします。」


(パチパチパチパチ)


拍手が鳴る。


なんでよりによって隣の席なんだよ。


「よろしくね。」


無視無視。

そんな小さい声じゃ聞こえません。


「おい、佐野。」


え?

なに、おれ?


「あ、はい!」


思わず立ってしまった。


「星乃は今日が初めてなんだ。昨日やった事、お前が説明しておいてくれ。」


なんで俺が。

先生なら自分で教えたらいいじゃん。


「わかったか?」


「あ、はい。」


意味わかんねぇ。

なんで俺が。


にこにこしてんじゃねぇよ、こいつ。


もういいや。

寝よ。

何も考えたくねぇ。



そもそも、残り一年しかないんだったら、

わざわざ決められた通り学校行って、

勉強なんかしなくたっていいよな。

毎日好きなことだけして、それで…


それで…


俺の好きなことって、なに?

そういえば、俺の好きなことってなんだろう。

好きなこと、好きな物、好きな…人。


杉原…。


あー、なんで告ったんだよ俺。

告んなきゃ今頃、杉原と普通に喋ったり、

克樹たちと帰ったり、新しい友達だって…


…っていうか、今考えてることって結局、

全部学校でなきゃ出来ない事なんだよな。


…っていうか、今考えてることって結局、

全部今からやれば出来る事なんだよな。


肝心なのは、自分の意思だ。

自分が…俺自身がどうしたいかで、

どう行動するかで物語は変わっていく。


そうだ。

自分の人生は、自分が主人公だ。

俺は…


「佐野くん!」


「うわっ!!」


びっくりした。

って、いつのまにか俺、寝てたのか。

だから起こされたのか。


つーかまたこいつかよ。


「なに?」


「一時間目、移動教室だよ。」


なんだ。

もう昼かと思った。


「はやく行こ!」


それにしても、よく笑うやつだな。

こいつ。


えっと…


名前、なんだっけ。





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