いのちのしずく

志人

第1話 佐野 隼斗

 「俺と付き合ってください!」


深く頭を下げ、右手を伸ばした。


やばい。手も足も震えるぐらい緊張してる。


はやく…なんか喋ってくれ。


「ごめんなさい!」


へ?


思わず顔を上げてしまった。


杉原すぎはらが頭を下げてる。


どうしよう。


自分的には、かなりの確率で行けると思っていた。


汗が止まらない。

恥ずかしい。

何か言わなきゃ。

このままだと、だいぶ気まずい。


「あ、ごめん。こっちこそ。えっとー…。」


「私好きな人がいるの。」


「…え?」


あ…そっか。

終わった。


入学早々、何やってんだよ…俺。

杉原とは同じクラスだし、

高校生活なんてあと三年もあるんだぞ。


「ごめんね。でも、ありがとう。佐野さのの気持ち嬉しかったよ。」


そんな事、そんな顔で言わないでくれ。

笑顔が引きつってるじゃねぇか。


もう…一人にしてくれ。



放課後の教室って、こんなに静かなんだな。




(ガタンゴトン…ガタンゴトン…)


電車が通る。


「はぁ…。」


明日からどうしよう。

杉原の顔、まともに見れないよ。


もう…昔みたいに喋ったり出来ないんだろうな。


遮断機しゃだんきが上がる。


ここの電車って、

行ったと思ったら、

直ぐにまた次の電車がくるよな。


(カンカンカンカン…)


踏切音が鳴る。


やっぱり。

急いで渡るのが馬鹿馬鹿しいや。


遮断機が降りる。


あぁ…もう、なんかどうでもよくなってきた。


(カンカンカンカン…)


うるさ…。


(カンカンカンカン…)


死にたくなってきた。


(カンカンカンカン…)


ちょうど誰もいないし。


いいや。


(カンカンカンカン…)


遮断機って意外と重いんだな。


まぁ、いいや。

めんどくさいし、くぐろう。


「はぁ…」


こんな日でも、星は綺麗だなぁ。


なんか…


あそこに行けるんだったら…


いいか。


(パァアアアア!!)


びっくりした。


電車の音か。

てか、眩しい。


(カンカンカンカン…)


ごめんなぁ…。母ちゃん。


(ガッ)


え?


(ガタンゴトン…ガタンゴトン…)


あれ?なんで俺…踏切の外に…。


誰かが俺を引っ張って…。


「大丈夫?」


…誰?


女の子だ。


てか、うちの制服。


うっわ、最悪。

見られた。


「ほっとけよ。」


関係ないだろ。


でも…ほっとした自分もいる。


内心、怖かった。


「ほっとけないよ。だって君、すごく辛そうにしてるんだもん。」


辛そう?


俺が?


やっぱそう見えるのか。

分かりやすいな。俺って。


「死のうと思ってた。」


けど、君に邪魔された。

名前も知らない、君に。


「だめだよぉ。君が死んだら、きっと悲しむ人がいるよ。」


悲しむ人。

いるのかな。

母ちゃんくらいは、悲しんでくれるかな。

あとは…


「てか、本気で死のうなんて思ってねぇよ。」


くだらねぇ。

やめた。

やっぱ死ぬの怖いわ。


つっても、明日からどうしよう。

杉原には振られるし、

こいつには死のうとしたところ見られたし…

ついてねぇ。

本当に最悪だ。


「ねぇ…」


あれ、こいつまだ居たのかよ。


なに?

なんか、近付いてきた。


「もし私が、君の寿命が見えるって言ったら…どうする?」



は?


こいつ、何言ってんだ?


頭おかしいだろ。


「教えてあげよっか?」


こいつ、本気で言ってんのか?


だったら相当やばいやつだ。


こんなやつは無視だ。


「一年後…君は死ぬよ。」


「え…?」


今…なんて?


俺が…死ぬ?


「びっくりした?」


こいつ、なんで平然とそんな事言えるんだ?

なんでそんなに笑ってるんだ?

おかしいだろ。


あー、そっか。わかった。


「俺をからかってんのか?あ?」


それしか考えられないだろ。

ありえない。


てか、そんな驚いた顔すんなよ。

先に吹っかけてきたのはお前だろ。


「そもそも寿命が見えるんだったら、俺の寿命はさっき電車にかれて終わってたんじゃねぇのか。」


そうだろ。

お前が止めなきゃ死んでたんだ。


「私は君を止めようって思ってたから、君の寿命は終わってなかったよ。」



…なにそれ。

なんか、むかつく。

言い返せねぇ。


「どうせ一年後に死ぬんだったらさ…」


なんでこいつ、話進めてるんだ?

これじゃまるで…


「今日死んじゃうのなんて勿体なくない?」


…ほんとに俺が死ぬみたいじゃんか。


「あれ?…大丈夫?」


なんか、笑えてくる。


「お前、面白いこと言うな。」


「そうかなー?現実的に考えたら面白くは無いと思うんだけど。」


そう言われればそうか。

俺は一年後の今日、死ぬって言われてんだ。

全然面白くない。

けど、なんか…


「お前の言う通り、今日死ぬのは勿体ないってことだよ。俺にはあと一年もあるんだ。」


そう考えれば、前向きになれる。

そう考えれば、この一年は絶対楽しい一年になる。


「ポジティブだね。君の言う通りだね。」


「お前が言ったんだろ。」


何言ってんだ、こいつ。


「あ、そっか。そうだね。」


何笑ってんだよ。

…俺も。


「よし、もういいや。どうせ死ぬんだったら後悔したくねぇからな。好きなこといっぱいして死ぬ。」


「いいねぇ。賛成!」


「賛成って…お前は関係ねぇだろ。」


「関係あるよぉ。私のせいで、君は今日死ぬに死にきれなかったんだから。」


それもそうか。

こいつがいなきゃ、俺は自分の寿命すら知らずに死んでいったのか。


「だから私も手伝うよ。君の一年間。」


「…はぁ?」


またこいつは何言ってんだ。


「私の一年、君にあげるよ。」



この日から、おれ『佐野隼斗さの はやと』と

寿命が見える彼女『星乃ほしの しずく』との

不思議な学校生活が始まった。

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