第9話

緊張しながら森を見る。

薄暗く、薬草を摘みに行く細い道は頼りない。

枝や背の高い雑草が覆い被さっている場所もある。

道を逸れなければ、危険は殆どない。


リアと繋いだ手をそっと離して、お互いに周囲を警戒する。


少し入った所で薬草を見つけた。

摘んで、竹籠に入れる。

そのまま進んでいく。

草むらがガサっと鳴る。

リアと目配せして、ゆっくりと近づいていく。

スライムだ!


スライムはまだ此方に気が付いていない。

スリングを構えようとしたが、周りの枝が邪魔で使えなそうだ。


「とうせきしよ」


僕の声でスライムが此方に向きを変える。

二人で同時に石を投げた。

僕の石スライムの体を少し削っただけだが、リアの投げた石が核に当たった。

スライムは形を保てずに溶けていった。


「やっら、やっらね!」


『うん! 私達がやったんだよね!』


初勝利だ。

最弱の魔物とは言え、十歳と十一歳の女の子で倒したんだ。

二人で抱き合って喜んでいると、リアが恥ずかしそうに離れていった。

ちょっと顔が紅い。

気を取り直したようにリアが


『でも、連携の練習にはならなかったね』


「うん。もうひっかひたたかおう」


少し道から逸れて探してみる。

居た。

僕が前に出て、リアを護る。

リアは投石を準備する。

ジリジリと近寄って、リアが石を投げる。

スライムの体を削ったが、核には当たらない。

スライムが此方に向き、モゾモゾしている。


リアが肩を叩いた。

僕は右に跳ぶ。

体当たりの準備をしていたスライムは動きを止める。

回り込み、左右から僕とリアが棒を振り下ろす!

核を砕いた。

今度こそ、練習通りだ。


道を外れると、そこそこ居るらしい。

その後、三匹倒して道に戻った。

道なりに進み、偶に道端の薬草を摘みながら群生地の丘に到着する。

少し開けた場所なので、座って休憩をとる。


小川で水を飲み、二人並んで座る。


『はい。オヤツよ』


リアが炒豆をくれた。

疲れてお腹が空いている今なら、何でも美味しい。


「あいかと」


二人で今日の戦果やたわいない話をしながら休憩した。


そろそろ休憩を終えて帰ろうとなった時に、少し奥に角兎が見えた。

こいつも立派な魔物で兎の姿で額に角が生えている。

スライムより強いがこれも最弱の部類で、狩人達の標的にされる魔物だ。

普段なら一目散に逃げる。

考える。

角兎も体当たりが攻撃手段だ。

ただし、スライムみたいに鳴き声で知らせてくれないし、何より素早い。

角で刺されたら酷い怪我をするだろう。

でも、僕はやろうと思った。

やれると思った。

早く強くなりたいんだ。


「りあ、やろう」


リアも同じ事を考えていたらしい。

凛々しい横顔で頷いた。


『スライムと同じように、体当たりを避けて左右に跳ぶ。で、横に回って攻撃ね』


僕が前に出る。

避けきれなかった時を考えて盾を前に出す。

角兎も標的と定めたようだ。

可愛らしい姿だが肉食だ。

もしかしたら僕たち、ご馳走に見えてるのかもしれない。


ジグザグに走ってくる。

ん、素早い!

どっちから来る?

右? 左?

落ち着いて、観察する。

リアより遅い。

落ち着け!


右から僕のお腹目掛けて跳んできた。

僕もリアもしっかりと避ける。

横に回り込む。

挟み打ちで棒を叩きつける。

二人とも当てた。

ダメージはあった筈だけど、まだ倒せない。

足を引き摺りながら、距離を取ろうとする。


また向かってきた。

遅い!

跳ねた。

避けながら、角兎のお腹に向かって棒を振るう。


「グギッ」


リアは角兎の悲鳴を聞き、走り出す。

ひっくり返っている角兎を二本の棒で叩きつけトドメを刺した。


『今の! 避けながら攻撃なんて凄いよ! ラナ』


リアは驚いていた。

最近のラナはちょっとカッコ良い。

森に入る時も手を繋いでくれたし、昔よりずっと何事に対しても前向きだ。

今も冷静に角兎の攻撃に対処していた。

なんだかラナを見るとドキドキする。

弟みたいで、護らなきゃいけない存在だと思ってた。

でも、最近は護られてる気がちょっとする。


(私、どうしたんだろ)


ラナは倒した余韻に浸っているのか、ボォっとしている。


とりあえず、帰ろう。

今日は二人とも頑張った。





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