第7話

季節がひとつ変わった。

日々の訓練で少しずつ体力も付いている。

今なら、平均的な10歳の子供と同程度までは動ける筈だ。


(やっと体力は人並みかぁ。でも、出来る事は増えたよね)


ラナはかなり難しい文章もスラスラと読め、そして書けるまでになっていた。

リアに教える過程で、分かり易い説明の仕方を考えていたら文字についての理解が深まった。


そして剣術の真似事。

リアとのチャンバラごっこは始めた頃より、確実にレベルアップしている。

全く躱せなかった藁の棒を最近は避け、防御して攻撃を返せるようになってきた。

木の棒の素振りも続けている。

昔、兵士をしていたというお爺さんが、気まぐれで剣の振り方を見てくれた事があった。

型も一つ教えてくれたので、それを何度も繰り返している。


そして鬼ごっこ。

体力の底上げと捕まえようとする手を避ける為の避けて逃げる練習。

サイド、バック、フロントステップが自然に身に付いてきた。

リアは屈みながら避けて、ラナの背後に周りこむような動きが出来るようになった。


河原での石投げ練習。

リアと二人で目印の棒を立てて、毎日投げ込んだ。

的にも八割程度当たるようになってきた。

速さもそれなりに上がってきている。

しかし、所詮は子供の力。

当たれば痛いだろうけど、それ程ダメージは期待出来なそう…。


ある日、祖父のシンが


「ラナは河原で石投げに凝っているらしいな」

「懐かしい。やっぱり男の子だな」

「俺らが子供の頃は、狩も自由だったからな。スリングを作って鳥を狩っていたもんだよ」


とゆっくり話してくれた。

ラナはゆっくり話して貰えば、口の動きで言いたい事がかなりの精度でわかるようになってきた。

リアと母と祖母との練習で着実に身に付いている。


「ろーあっれ、うるるの?」

どうやって作るの?


発音はまだまだ、難しい。

リアが根気強く教えてくれる。

少しは形になってきたかな?


シンに子供時代の武勇伝と共に、スリング(投石器)について詳しく聞いた。

練習次第では、投げるより速く威力がある石礫を飛ばせるらしい。

これは是非ともやってみよう!


ラナが訓練しているスキルを纏めると。


剣術(真似事)

回避術(そこそこ)

読唇術(初心者)

文章読解(中程度)

文章作成(中程度)

投石(威力微)


スキルは四段階で評価されるらしい。

Dランク(初心者)からAランク(達人)だそうだが、ステータスが見れないのでラナの自己評価だ。

そもそも、読唇術とかそんなスキルがあるのかも知らないが。


午前中に家の手伝いを済ませて、リアと畑で会議をする。


「おりいひゃんはらきいた、ふいんうをふくろうとほほうんら」

『お爺ちゃんから聞いたスリングを作ろうと思うだ。』


ちょっとまだ伝わらなかったので、手で伝えた。


『面白そう。やってみよう』


リアが口パクで話す。

持ってきた材料はもう使わない古い布袋と麦藁だ。

藁を縒っていき二本縄を作る。

布袋の両端に縛り付けて完成だ。

早速、河原に向かい石を探す。

布袋に石をセットして振り回す。

すっぽ抜けて、あらぬ方向に飛んでいった。


「むうかひい」

難しい


『今度は私の番ね』


リアが投げてみる。

的には当たらなかったが、前に飛んでいる。


(やっぱり運動神経の差ってあるんだなぁ)


ちょっとラナは落ち込んだ。

が、いつもの事なので直ぐに立直り練習を始める。

投げるよりスピードも出ないし的にも当たらない。


(練習すれば速くなるのかな?)


とりあえず、練習を続ける。

練習あるのみだ。

スリングは紐を振り回す分、開けた場所が必要だ。

森で戦う場合、周囲が狭い事も考えられるので、継続して投石も練習する事にした。

動かない的には当たるようになってきた。


『そうだ。夕飯も兼ねて兼ねてお魚を捕ろう!』


リアが手を合わせて笑顔で提案する。

よーく狙いをつけて、石を投げる。

当たらない。

動いているものは、難易度が跳ね上がる。

動きを先読みして、なるべくじっとしている時に投げるがちっとも当たらない。

その日は、リアが一匹取れただけで終わった。


(お魚、食べたかったな)


ラナは残念だったが、明日は必ず捕ろうと誓ってうちに帰った。

夕飯の麦パンは今日も硬かった。


季節がひとつ変わった。


昨日の夜は腕立て伏せと腹筋を30回、スクワット50回を合わせて2ターン行って寝ている。

心地の良い筋肉痛とともに目が覚めた。

朝の水汲みに向かう。

小川まで、木桶を二つ持って走る。

水を汲んで、桶を両方に持ち零さないように走って帰る。

三往復した頃に朝ご飯だ。


「ラナも逞しくなってきたな」


父が言うのを、家族が優しく笑顔で肯定する。

腕も少し太くなってきた気がする。


「あいがと」


発声も何とか会話をこなせるようになった。

朝ご飯が終わり、畑に行く。

最近は祖母に代わって、ラナが畑を耕す。

母のアケと二人で畑を切り盛りしている。

午前中に仕事を終わらせて、リアと会う。


「りな、おまはせ」


『大丈夫。待ってないわよ』


リアがふんわりと笑う。

読唇術も慣れてきた。


挨拶代わりにチャンバラごっこを始める。

リアが構える。

リアは短い藁の棒を二本、両手に逆手で持っている。

右から左に跳んで、フェイントを混ぜてリアが近寄ってくる。

右手の攻撃を棒で合わせる。

ラナの棒を支点にして、リアが回転し左手の攻撃がラナを襲う。

ギリギリのタイミングで後ろに下がる。

空振りして、体制が崩れたリアの持ち手を狙う。

素早く手を引いて躱すと、リアは体当たりをしてきた。

ラナは支えきれずに転んでしまう。

首にはリアの短棒が当てられていた。


「まけまひた」


ラナは降参した。

負けはしたものの、内容は悪くないと思った。

ラナも成長しているが、リアも成長している。

どうやら、差は縮まらないらしい。


(強くなってリアを護りたいんだけど…。まだまだ先は長いな)


河原に移動する。

スリングで的を狙う。

始めた頃とは比較にならないスピードで的に当たる。

スリングを使えば、少し重い石も投げられる。

これなら、充分ダメージを与えられる。


投石で魚を狙う。

ラナは五匹、リアは二匹と家族分を捕まえて家に帰る。

最近は夕飯には焼き魚が付いた。

ラナの身体も成長していく。






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