第6話
リアは声を失った。
自分で望んだ事だったし、覚悟もしていた。
しかし、想像以上に厳しかった。
リアの家は流行病で祖父母も母も亡くなっており、父親との2人暮らしだ。
今は11歳に戻っている。
突然、声が出なくなったので、病気と思った父は薬師に相談した。
当然、薬師にも原因は分からず何かの呪いではないかと言われた。
その事で周囲からは気味悪がれて、友達も居なくなってしまった。
父親の言葉は聞こえるが、自分の話が出来ないのは想像よりずっと大変な事だった。
身振り手振りで何とかやり取りしている状況だ。
リアは考えた
口の動きで言いたい事を伝えられないかと。
喋っていた記憶はあるのだ。
言葉の形に口を作れば、簡単な言葉なら伝わる。
父も娘との会話の為に、少しずつではあるが口の動きから意味が分かるようになってきた。
そして。
自分は強くならなければ。
その為の方法をラナと考えている。
ラナは、まず武器を作っている。
リアにも作ってくれたので石のナイフを装備している。
今日も昼前に家事を終わらせて、午後はラナとの秘密会議だ。
ラナはずっと考えている。
自分達はどうすれば強くなれるのか?
(リアが喋れなくなったのは、自分が弱かったせいだ。僕に力が無かったから、リアにまで負担をかけちゃったんだ!)
(だから、リアは必ず僕が護るんだ)
いつの間にか、リア姉ちゃんではなくリアと呼ぶようになっていた。
リアにそうして欲しいと言われたのだ。
ラナの家にある畑が2人の集合場所だ。
端にはリンゴの木があり、その下で2人は会議していた。
『弓を作るのは失敗しちゃった。今は無理そう…』
『代わりに石を投げる練習をしようと思ってるよ』
『白い人に言われた、魔法なんだけどね。やっぱりわからないのよ。お父さんも聞いた事もないみたいだし、村の人は私と話、してくれないし』
『お父さん、何も言わないけど、私の事で村の人から色々と言われてるみたいなの』
『だから、お父さんに聞いてもらうのも出来ない…』
リアは悲しそうな顔をしている。
『僕も聞いてるんだけど、家族は誰も知らないみたい』
『お父さんとお爺ちゃんに、村領主様に聞いてみてってお願いしたんだけどね。貴族は魔法を大事にしているから、そんな事は聞けないって』
『そっか』
ラナとリアは考えたが良い案は思い浮かばなかった。
『とりあえず、魔法は保留』
『今日の練習しよう』
ラナはリアに文字を教える。
畑の土に字を書いて、リアにも書いてもらう。
基本となる言葉をリアが書き終わったら、今度はラナが教わる。
リアが書いた文字の口の形を教わり、ラナは試す。
何度も何度も。
そして、声を出してみる。
「ゔう」
リアが頭を横に振る。
自分では聴こえないので、リアに聞いてもらって何度も練習する。
ひと通り、文字と声を出す練習が終わった後は、身体を鍛える。
目の前にある大きなリンゴの木。
10回上り下りが今日の目標だ。
リアはスルスルっと上って戻ってくる。
次はラナの番だ。
(滑る!?)
『ちゃんと木に掴まって! 足にも力を入れて自分を支えるのよ!』
リアにアドバイスを貰って何とか頑張ってみる。
何回も繰り返して、やっと半分まで登るのが精一杯だった。
『うーん。とりあえず、ここまでにしよっか』
息も絶え絶えのラナは、リアからそう言われてホッとした。
次はリアと鬼ごっこだ。畑の隅を走り回ってリアを捕まえようと頑張るが、体力差が大きく、なかなか追いつけない。
追いつけても、スルリと避けられてしまって捕まらない。
暫く続けた頃に日が傾いてきた。
『今日はここまでね。明日は来れないから、お互い別々に頑張りましょ』
『うん。頑張ろう! またね』
家に帰って、汚れた身体を拭く。
『今日もリアちゃんと練習したんでしょ?成果はどう?』
「うういま」
ただいまと言ったつもりだが、どうだったろうか。
母のアケは笑顔で
「おかえり」
と、ゆっくり口パクしてくれた。
夕飯をみんなで食べている時にマサが思い出したように伝えてくる。
『森にまだら蛇が増えてるから、行く時は気をつけるんだよ。噛まれたら血が止まらなくなるからね』
(怖いから気をつけないと)
ラナは心に刻んだ。
堅いパンを温めた豆のスープに浸して食べる。
(たまには肉も食べたいなぁ。早く狩の配給来ないかな)
基本、肉は狩の獲物を、領主館で順番に分配するようになっている。
狩ヒトは村領主様に認可を貰って、獲物は全て渡さなければならない。
その代わりに給料を貰う。
村では人気の職業で、リアの父やロキがそうだ。
ラナも少し憧れている。
夕飯も食べ終えて、部屋に戻る。
(良し! 今日も筋肉鍛えよう!)
ラナの筋トレメニューは、腕立て、腹筋、スクワットだ。
回数は少ししか出来ないが、続けていけば、きっといっぱい出来る筈だ。
身体はバテバテなので、藁の寝床に横になって考える。
基本的な体力の底上げ。
やっぱり、これが無いと何も出来ない。
鬼ごっこと木登り、朝の水汲みを行なっている。
訓練すら体力が無いと続けられないから重要だ。
魔物の攻撃を躱す速さ。
鬼ごっこでリアを捕まえられないのは速さが足りないからだ。
(前後左右に横跳びを何度も繰り返して練習しよう!)
あとは攻撃。
(魔法を覚えれば何とかなると思ったけど…。なかなか覚えられそうにないしなぁ)
(石を遠くから投げ続けて、近寄って来た所で木の棒で攻撃、かな)
(ゴブリンも棒を持ってたし、力は大人並にあるからなぁ)
(ちゃんと躱せるようにように練習して、ダメージを与えられるくらいに強く振れるようにならなきゃ)
(リアとチャンバラごっこをしようかな。藁で痛くない棒を作って、それでやろう。木の棒での素振りも明日から訓練に入れよっと!)
そんな事を考えながら、ラナは眠りに落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます