第5話

目が覚めた。

身体の感覚が全くない。

意識はしっかりしている。

周りを見渡すと、白く清潔な広い部屋ようだが、空中に意味不明の文字?や数字?のようなものがびっしり浮かんでいる。


「気がついたかな」


真っ白い服の年齢も性別も良く分からない人から話しかけられた。


「魔物の量を増やし過ぎて、ヒトが減り過ぎてしまったのでね」

「少し巻き戻して、調整する事にした」

「聴力の無いヒトのサンプルとして、君は役に立ってくれた。せっかくだから巻き戻した後は聴力を戻しておくよ」

「2年間の記憶は無くなるがね」


ラナは困惑している。

耳が聞こえる?

言葉がわかる。

そして喋れる。

どうなってるんだろう?

さっきまでゴブリンに食べられていて…


「リア姉ちゃんは!?」


「あの少女なら、君を助けに戻って殺されたよ」

「その後、魔物の大量発生が起きて国そのものが滅んだがね」


「え……!?」


「だから巻き戻しだよ。データも取れたしね」


「なんで…そんな酷い事を平気で…話せるんですか!」


ラナは怒りと悲しさと困惑と恐怖が混ざり合い、よくわからないままに叫んだ。

…意識に空白が生じて、スッと冷静になった。


「サンプルと議論する気はないので、意識を調整した」

「とはいえ、倫理的に問題があったのも事実だ。少し譲歩しよう」


目の前にリアが現れた。


「リア姉ちゃん!」


「ラナ!?」


2人は泣き顔で謝りあって、抱き合った。

暫く、2人は泣いていた。

安心と後悔と懺悔と。


「選ばせてあげよう」

「聴力を戻すか、今の記憶を保持したまま2年前に戻るか」


忘れてしまえば、耳も聴こえる。

魔物の量も調節されるなら、普通に生きていけるのではないだろうか?

でも…今の悔しさを忘れて良いのか?

また、誰も守れないままで終わるんじゃないだろうか。

ラナは目を閉じて。

静かに答えた。


「記憶を」


リアがラナを見つめている。

驚いたように…


「良いだろう」


白い人は答えた。

リアも決心して、声をあげる。


「私も! 私の記憶も残してください!」

「強くなりたいんです!」


「君は五体満足だろう? それとも何か代償を払うのかな?」


リアは俯いた。

しかし…このままで良いはずがない。

ラナに護ってもらった事。

ラナを死なせてしまった事。

父を助けられなかった事。

リアは顔をあげた。


「声を」

「声を渡します。話せなくなっても良い!」

「ラナとは手で話せる」

「耳が聞こえるなら、ラナの代わりに聴くことは出来る!」


「駄目だよ! リア姉ちゃん!」


思わず叫んでしまった。

みんなと違う。

それによって、どれだけ周りが冷たくなるか知っているラナは声を荒らげてしまったが…


「私は決めたの。ラナの代わりに聴く。そしてラナと一緒にみんなを護る」


落ち着いた微笑みでリアは言った。

ラナは思わず見惚れてしまった。


(こんなに…綺麗だったんだ)


リアの覚悟と想いが嬉しいやら、照れくさいやら。

2人なら出来る気がして、ラナは頷いた。


「一緒に」


「うん、一緒にね」


白い人が宙を指す。


「今の君たちのステータスだ」


ラナ

力:6

体力6

知力:14

速さ:7

魔力:0


リア

力:10

体力:12

知力:11

速さ:11

魔力:0


リアに負けてた。


(分かってたけど、実際に見ると凹むなぁ…)


「私の趣味として、少しだけ介入するのも面白いかもしれないな。助言を与えよう」

「魔力を鍛えると良い」


「魔力? どうしたら良いのよ?」


「それは自分達で何とかするんだね」

「最後だ。これがあのゴブリンのステータスだ」

ゴブリン

力:18

体力:15

知力:7

速さ:17

魔力:0


「ステータスは教会で見るとこが出来るが、君達では払えないくらい対価が必要だ」

「よく覚えておくと良い」

「時が戻る関係上、年齢も下がる。知力以外はステータスも下がる」

「もう会う事もないだろうが、興味深い変数となる事を期待する」

「それではな」


ラナとリアは意識を失った。



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