第4話
あれから、何度も薪拾いに森に入った。
1人だったり、リアと一緒の時もあったが、随分と慣れてきた。
スライムが出た事もあったが、見つけた瞬間に逃げるので問題ない。
母と祖母も時間を作って拾いにいくので集まるのも早い。
家族で冬を越せる程度の薪は集まった。
夜は少し寒くなってきた。
部屋で寝る準備をしていると、窓をコツコツと叩く音がする。
そっと木の窓をずらしてみると。
リアが泣きながら立っていた。
『何かあったの?』
びっくりしながらも、リアの様子からただ事では無いと察して緊張する。
『お父さんがゴブリンに襲われて…』
『…逃げれたんだけど、ゴブリンの武器が掠ったみたいなの…』
『今は薬が無くて、必要なニレの葉は森の崖にあるらしいの』
『夜は危険だから、明日取りに行ってくれるんだけど…お父さん、苦しそうで…』
「もしかしたら、死んじゃうかもしれない』
『だからね。私、1人で取りに行こうと思ったんだけど…。やっぱり怖くて』
『お願い、ラナ! 一緒に行って!』
リアは不安そうに泣いている。
僕は弱虫だけどリア姉ちゃんを護りたいという思いしか頭の中には浮かんでこなかった。
『行こう!』
『おじさんを助けなきゃ』
家族に言えばきっと心配して止められる。
ロキもきっと止めるだろう。
なら、2人で行くしかない。
きっと大丈夫。
今まで平気だったし、おじさんが襲われたのは森の奧で狩の最中だったらしい。
ニレの葉が生えてる場所とは方角が違う。
大丈夫な筈だ。
窓から出て、そっと外に干してある草鞋と木の棒を掴んだ。
リアと顔を見合わせて、そっと森に向かう。
満月ではあるが、森は暗い。
リアはここで怖くなって引き返したらしい。
『2人なら大丈夫』
膝を震わせながら、なんとか笑顔を作ってリアを安心させる努力をしてみた。
リアがそっと手を繋いでくる。
2人は並んで暗い森を進む。
「はぁっ、はぁっ」
2人とも、緊張からか息が荒い。
陰から魔物が出てくるのではないかと、怖くて仕方がない。
でも、リアの手の手が震えている。
自分が何とかしなくてはと、ラナは逃げたい気持ちを押し殺す。
いつもの薪拾いよりは深い場所だけど、道はリアが知っている。
それに魔物の棲家と言われる場所よりは森の浅い場所だ。
『大丈夫』
リアに伝えたのか自分に言い聞かせたのか。
30分くらい歩いただろうか?
その場所に着いた。
『ラナ、着いたよ!』
月明かりの下、必死で探す。
ニレの葉は刺々の葉っぱで花は黄色と分かりやすい。
『有った!!』
リアが葉をもぎりながら、見せてきた。
嬉しそうな泣き顔を見せて
『これでお父さん、助かるね』
と伝えてきた。
僕は見つめた。
凝視した。
リアの後ろを。
音もなく近寄ってきた、醜悪な生き物を。
ゴブリンを。
ゴブリンは背が低い。
だが、子供のラナより大きい。
ずる賢く、残忍で何でも食べる。
ヒトの子なども。
きっと、ご馳走を見つけたのだろう。
醜悪な顔がニヤニヤと笑っている。
棍棒のような太い枝を振りかぶっている。
ラナは勝手に体が動いた。
「ううううぅぅああ」
意味を成さない叫び声を上げてリアを突き飛ばす。
そのままの勢いでゴブリンに体当たりをする。
ゴブリンも驚いたのか、体勢を崩して、ラナと共に転がった。
ラナは素早く立ち上がり、リアを連れて逃げようとリアを見た。
突き飛ばしたリアも立ち上がって、震えながらゴブリンを見ている。
「ラナ、ありがとう」
「ごめんね」
聞こえない事も忘れて、リアは声をだした。
手を引いてリアと逃げようとした所に…
目の前にさらに2匹のゴブリンが居た。
笑ってる。
音は聞こえなくても、顔を見ればわかる。
後ろの倒れたゴブリンも起きあがってきた。
挟み撃ちの上に、3匹だ。
リアが葉をそっとラナの手に握らせる。
『ラナ、逃げて』
『薬、お願いね』
「さようなら。大好きだったよ』
ラナは分かった。
分かってしまった。
リアが犠牲になり、ラナを逃がそうとしていると。
ラナに強い怒りが沸いた。
守られてばかりの自分に。
今、2人を護る力のない自分に。
歯軋りしながら、ゴブリンを睨みつける。
ニレの葉をリアに返す。
リアを連れて囲まれていない横に走る。
直ぐに追いつかれるだろう。
でも構わない。
ゴブリンが後ろに一直線になれば、それで良い。
『別れて逃げよう』
『リア姉ちゃんはこのまま、真っ直ぐ』
精一杯の強がりで笑顔を作った。
リアが頷く。
(リア姉ちゃん、今までありがとう)
リアを前に押し出したラナは振り返り、ゴブリンに突っ込む。
先頭のゴブリンが倒れて、後続の2匹も巻き込まれた。
リアが振り返り、驚いて見ている。
大きく頷いて
『僕も逃げるから早く走って』
と伝える。
リアが頷いて走り始める。
ラナは倒れ込んだ。
足にゴブリンが噛み付いて、激痛で立っていられないのだ。
「うぐっ」
ラナの口から悲鳴が漏れる。
大きな声を出したら、リアが戻ってきてしまうかもしれない。
何とか我慢した。
ガリッ
ふくらはぎが食いちぎられた。
「んんんんんんんんん」
ラナは悲鳴を押し殺した。
3匹がラナを囲んでいる。
大きく棒を振りかぶっている。
ラナは何度となく殴られ、蹴られ。
何も考えられなくなった。
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