第3話

『おーう!ラナ、待たせたか?』

にへらっとした人懐こそうな笑顔で、ロキが姿を現す。

『ロキちゃん、こんにちは。待ってないよ』

と笑顔で伝える。

『準備は出来てるみたいだな』

ロキはそう手振りで伝えながら、ラナの装備を確認しているようだ。

『リアも一緒に行くから、もう少し待ってね』

と伝えながら、ロキの姿を眺める。

ロキは14歳になり、狩にも参加している。

もう村の働き手としての儀式を終えているので、薪拾いとはいえ、装備も女子供とは少し違う。

布の貫頭衣は同じだが、左胸を隠すように革の胸当てを着けている。

腰にはナイフが括り付けられ、背中には竹で作った短弓と矢筒。

石の鏃が付いた矢が5本入っている。

(ロキちゃん、格好良いな)

(僕も弓矢を作ってみようかな)

視線に気付いたロキは

『へへ。羨ましそうに見てるな』

『で、も、ラナには、まだちょーっと早いな、もう少し力が付いたら、作り方教えてやるよ』

と笑顔で言われてしまった。

苦笑いしながら

(僕も少しは体力つけなきゃなぁ)

と思っていると、リアが走ってきた。

『おまたせ〜』

息を弾ませ2人の前で仁王立ちしている。

「遅えよ、リア。待ちくたびれちまったぜ」

ニヤリと笑いながらロキが偉そうに言っているが、ラナには聴こえていないので、仲良さそうに話しているなぁとニコニコしながら眺めている。

『ラナ、一緒に行こっ!』

リアが手を繋いでくれて歩き始める。

やれやれ、といった感じのロキが2人を微笑ましく見守っている。


3人が並んで道を歩いていると、村の子供達が少し離れた所からラナを指差して笑っているのが見えた。

瞬間、ラナは俯く。

(またバカにされてる。うぅ。早く森に入っちゃいたい)

リアが握った手に力が入り、少し痛い。

何か言い返してくれているようだ。

ロキが、ラナに笑顔を見せた後、目を細めてひと睨みすると、子供達は退散していった。

『ラナ、堂々としてろって。お前は何も悪いことしてないんだぜ』

ニヤっと笑いながら、頭を撫でてくる。

『ラナの良い所は、私が知っているから大丈夫よ』

リアが優しく手を握ってくれる。

僕は2人の優しさに感謝しながら、気持ちを落ち着けていった。

『2人ともありがとう』

『…ちゃんと前を向いて歩けるように頑張るね』

自分もちゃんと2人を守ってあげられるようになりたい。

今は無理でも大人になったら。

今日から、外に出ても、俯かずに歩こうと心に刻んで目標を立てた。

そんなラナを2人は笑顔で応えてくれた。


暫く歩いていると森が見えてきた。

『着いたね!2人とも、準備は出来てる?』

リアが嬉しそうに聞いてくる。

リアの装備を見ると、男より長い布の貫頭衣、布のマント、革の靴、竹籠とラナと同じだったが、腰に小さな布の袋が付けられていた。

視線に気づいたリアが

『オヤツに炒豆を持ってきたから、オヤツが取れなかったら食べよ?』

と、中身を見せてくれた。

(さすが、リア姉ちゃん。準備良いなぁ。)

『良し。じゃあ、固まって行く!』

『ヤバい獣が出たら、慌てずに少しずつ後退して逃げる事!魔物が出たら全力で走って逃げるぞ』

ラナとリアはしっかり頷いてロキに付いていく。


薪になりそうな枝をどんどん拾っていく。

竹籠が半分くらい埋まった所で、野苺を見つけた。

『やったー! オヤツにしましょ』

『ちょうど喉も渇いてきたし、小川の辺に移動しようよ』

ラナは疲れてきていたので、休憩と聞いて嬉しくなった。

『野苺を食べる分摘んだら、コップ代わりになる蕗の葉を見つけとけよ』

ロキの指示通りにして、3人は小川の辺りで休憩した。

『ラナはもっと体力つけなきゃな』

ロキが足を投げ出して休んでいるラナに伝えた。

『そうね。ラナがもっと元気いっぱいに外で遊べたら、私も嬉しいな』

(やっぱり、周りの子と比べて体力無いんだろうな。2人ともさり気なく教えてくれている事だし。ちょっとずつ頑張ろう)

『うん。頑張ってみるね』

自信無く答える。

(出来るかなぁ)


『良し、遅くなっちまうから、休憩終わりな』

『うん、あと少し頑張って帰りましょ』

大きく頷いて立ち上がる。

疲れも癒えてきたし、もうひと頑張り出来そうだ。

薪を拾いながら歩いていると、リアが葉を摘んでいる。

ラナを手招きして、教えてくれる。

『この葉っぱを乾燥させて飲むと、良い香りのお茶になるんだよ』

『そうなんだ、僕もちょっと摘んでいこうかな』

今度はロキに呼ばれる。

『これは薬草になるんだぜ。ラナ、知らないだろ。ちゃんと覚えておけよ』

ラナはあまり森に入らないし、1人だとなるべく人に会わないようにこそこそと周って薪を集めて帰ってしまう。

森の知識が薄いのだ。

ラナにとっては、2人と一緒に森に入っている今は勉強の時間であった。


『薪も集まってきたし、そろそろ帰るか』

ラナも良い汗をかいて程良い疲れと達成感が体を満たしている。

村に向かって進んでいくと横の茂みでガサっと音がした。

ロキが手で後ろの2人を留める。

『何かしら…』

『音からして大きく無さそうだから、そんなに危険なもんじゃないとは思うけどな。ちょっと様子を見よう』

ラナは音がしたら、いつも一目散に走って逃げていたので、冷静な2人の対応に感心していた。

実は今もドキドキだ。

ガサガサと音がして、それは現れた。

泥まみれの茶色いゼリーがカタツムリのようなスピードで這っている。

大きさは50センチくらいの平均的なスライムだ。

中の核は白い色をしているので場所は分かり易い。

スライムは魔物に分類されるが、弱くて村人でも大人なら倒せてしまう。

後から来た子供達の為にも倒せそうなら倒しておく、というのが暗黙のルールだ。

動きは遅いが、近づくと体当たりをしてくる。

弱いとは言え、もし当たれば大人が吹っ飛ぶくらいの勢いだ。

ただし、飛ぶ方向は直線で、一度飛ぶ体制に入ると方向転換出来ない。

飛ぶ体制に入らせてから、回り込めば動きをキャンセルされるので、あとは核を叩き潰せば良い。

しかも飛ぶ体制に入った時にはヴゥゥゥと鳴くので分かり易い。

『ラナ、木の棒貸して』

ロキが木の棒を手に近づいていく。

「ヴゥゥゥ」

ラナには聴こえないが、ロキはしっかり鳴いたのを確認して回り込む。

「おらっ!」

ロキが木の棒を上から叩きつける。

ゼリーが飛び散り核も凹んでスライムは動きを止める。

「ふぅっ」

ロキが木の棒を返してきた。

『終わったぜ、もう大丈夫』

ロキがちょっとドヤ顔だ。

『凄いよ、ロキちゃん』

ラナは初めてみる、スライムの討伐に感動していた。

リアも少し緊張していたようで、大きく息を吐いている。

(僕もロキちゃんみたいになりたい!)

ラナは少しずつ成長していく。



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