4話 サク、堕つ
一限後の休み時間。
俺、夕霧カズマは戸惑っていた。転校初日、少しトラブルはあったものの、なんとかクラスは歓迎してくれた。ここから華の学園生活が始まる、と思ったんだけれど。
「なーにいちゃん、なまえなんてーの?」と小麦色の肌で目つきが悪い女子に絡まれてる。スカジャンを着ていて、見た目からしてヤンキーとか、黒ギャルとかそっち系だ。八重歯がギラリと覗いている。やや長い金髪の髪の毛はポニーテールにまとめられている。
俺的にはあんまり絡みたくないけれど、机の横にしゃがみこんで両腕を机の上に乗せられてるから無視するとそれはそれでキレそうだし……。
「カズマ。夕霧カズマです」と目線は合わせずに答える。こういう人種は今まで関わって来なかったこともあっても苦手だ。
「おーい、アイ。転校生くん、夕霧カズマって名前だってよ」と黒ギャルは右隣の席に話しかける。
「しってるわよ……てかサクあんたも朝聞いてたでしょ」とアイさんは一切こちらを見ずに答える。何故か知らないけれど、アイさんからは嫌われてるみたいだ。ほとんど喋ってないんだけれど……。
「なんだよそっけないなぁ。あ、なるほど今日はクールに行く感じ?」
「そんなんじゃないわよ。普段通りよ」
「んなわけ。いつもはもっと愛想いいじゃん〜。な、ブンコ」とサクは前の席の子に話しかける。HRの時、拍手で歓迎してきてくれた人だ。
「そうすねサク先輩〜。もしかして……惚れてるとかじゃないッスか……?」ブンコはそう返す。
「ふむ、照れ隠しに愛想悪くしてる的な? ツンデレってやつ?」
「ばっ……ばか! そういうのじゃなくて」慌てたアイはこっちを向く。
……目が、合う。俺の心はトゥンク、と音を立てる。一目惚れ……なのか?
顔立ちがとても整っていて、目が二重で大きい。髪が少し顔の前にかかっていて見えないけれどそれでも美人とわかる。心なしかアイも顔を赤らめてるように見える。「やばっ」と慌てて顔をそらす。
俺の心臓がバクバクと音を立てている……これ、恋の鼓動なのか……? 生命の危機に陥ってるとか、そういうまずい鼓動な気がする……。
「ん? えっ図星なのか……ふーん」それを見たサクは僕の耳に口を近づけて囁き始める。ち、近い……。
「いやー兄ちゃん、幸運だねぇ。学年で一、二位を争う美人のちゃんねーと隣になって、しかも惚れられるとは……」サクの息が耳にかかってそれもそれでドキドキしてしまう。
「そ、そうなんですか……?」何故か敬語で答えてしまう。
「親友の私が言うから間違いねーって。あ、時にカズマくん、君はデーティかね?」ニヤニヤとしながら
「DT……? 宇宙人と指をくっつける映画……?」
「それはイーティ。じゃなくて、童貞かってこと」
「どっ、どうて………」それを聞いた俺は言葉に詰まる。
「その反応は……ふぅ〜ん、なるほどねぇ」と更にニヤついたサクは俺から体を離し、アイの席の後ろに行く。
「じゃほら、アイで卒業しちゃいな」そう言いながら、アイの背中から手を伸ばし、むにゅう、とおっぱいを鷲掴みにした。
「んにゃあ!? 何すんのよ!」揉まれたアイは顔を真っ赤にして驚きながら後ろに勢い良く頭突きをかます。
「うおっと!」至近距離で頭突きされたのにもかかわらず、サクはギリギリで動いて躱していた。
「じゃなきゃ、私で卒業する?」ニマリ、と笑いながらサクは俺の目を見つめてくる。その上目遣いは……色っぽい、というよりはガンを飛ばされてるようで正直怖い。なぜ眉をひそめるんだろう。
「卒業……って、なんの話してんのよ……」アイは揉まれた胸を抑えながらサクにたずねる。
「え、せっくす。カズマどーてーなんだって」サクはさらっと言う。デリカシーの欠片もない。
「どッ、どうて……」アイも俺と同じつまり方をする。ちらりと俺の方を見て顔を赤らめる。やっぱり美人だなぁ。
「ま、アイも私も、ついでにブンコも処女だし仲間よ仲間。全員、未経験。
「なんで私の処女も言う必要あるんすか……。あ、そういやスカジャン取り上げられてないッスね」とブンコがサクに話しかける。
「捕まってないかんね。ゴリ先から逃げ切るのなんてちょろいもんよ」サクは胸を張ってドヤる。「さすが先輩!」とブンコは軽く拍手する。
「なるほど、ちょろいか……」サクの背後から声が聞こえる。そちらを見るとゴリ先が仁王立ちしている。
「……え」サクは首をゆっくりと振り向かせ、ゴリ先を確認し、ゆっくりと首を戻す。「そう、ちょろい。こんな絶体絶命の状況でも逃げ切れぐわぁぃにゃ!!」話しながら駆け出そうとして襟首を思い切り捕まれキテレツな悲鳴をあげる。
「転校生のカズマに興味持ってそうだったから見に来たらこれだ」はあ、とゴリ先はため息をつく。
「ブンコ、アイ、カズマ。今まで慕ってくれてありがとうな……。私はここで終わりだ……先に処女を散らしてくるよ……」
ズルズルと無抵抗に引きずられながらサキはココアシガレットをくわえ、最期の一服をキメていた。
「え、いや慕ってないけど」アイは冷静に返す。「サク姉貴、おつとめ頑張ってください!」ビシリとブンコは敬礼をしていた。
「誤解するようなこと言うな。スカジャンを取り上げるだけだ……まったく」ゴリ先はサクを引きずりながら教室から出ていこうとする。「ああ、そういやカズマ」とその途中で振り向いて俺に話しかける。「クラスに溶け込む溶け込まないは自由にしていいが、もしいじめられたらすぐ俺に言え。立派な犯罪だからな」
「そーだぞ! いじめたら最悪、死刑になるんだかんな!」とサクも同調する。引きずられながら。
「見た目的にはサクが一番やりそうだけどね」とアイはツッコむ。
「外見で決めつけんなぁ〜! あとアイ! ちゃんとカズマと仲良くして卒業するん……」サクはわめきながら教室の外に消えていった。
そして、二限が始まるチャイムが鳴り響く。
〜註釈〜
※1
この世界でのいじめは犯罪です。死刑になる場合もあります。過去の判決では「ニ殺」となりました(被害者の生命と精神を死にいたらしめたため)。
ドス★恋!〜転校初日、美少女と曲がり角でぶつかり、恋に落ちる?〜 金魚屋萌萌(紫音 萌) @tixyoroyamoe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ドス★恋!〜転校初日、美少女と曲がり角でぶつかり、恋に落ちる?〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます