3話 めぐりあい

「おーやっと来たか!」とゴリ先は教壇に転校生を手招きする。


 その一方、私はゲホゲホとむせていた。「うわ大丈夫か?」とサクが背中を叩いてくれる。


「あー飲み物が足りないのか! 文子、水筒持ってる?」とサクは前の席の人に頼む。桜乃ブンコ(さくのぶんこ)という高校からの友達だ。妙にサクのことを慕っている。


「先輩、もちろん持ってるッスよ!」と鞄からぽいっと水筒をだして渡してきた。ブンコは同学年なのになぜかサクの事を先輩やら姉貴やら目上呼びする。


「あ、ありがと……」むせた理由は違うけれど、ちょうど飲み物が欲しかったので受け取り、ごくりする。


 (え……私がぶっ刺した人だよね……? ドス刺さって平気だったの!?)と私は思う。


「とりあえず名前を教えてくれ。俺も知らないから」とゴリ先は促す。


「あ、はい。はじめまして、夕霧 カズマ(ゆうきりかずま)です」


(見る感じ、怪我してる様子はない……ひょっとして他人の空似……ってコト!?)あの時、ヤリ間違えて相当テンパってたから記憶に自信はない。


「それで、事故したときいたが……」


「曲がり角で人とぶつかってしまいまして……そしたら腹に短刀……ドスが刺さってて」


「ぶふぁっ」またも私は吹き出す。「おいおい、ほんとに大丈夫か? ブンコこの水筒何入れてんの?」背中をさすりさすり、サクは聞く。


「ただの麦茶ッスよ〜あ、でも今日は砂糖マシマシカスタムしてるッスよ」どうりで妙に甘いわけだ。


「ドスかぁ……それは痛そうだな……。俺も前一度罪を犯したときにお腹を刺されたが、あれは死ぬほど、いや死ぬまでのたうち回った記憶があるなぁ……。あれ、刺されたにしては怪我がないようだが」ゴリ先は言う。


「ああ、それはちょうど刺さった部分に週間少年ピョンプ入れてたんで」と制服をめくり、分厚い雑誌を見せつける。ちょうど真ん中の部分に穴が空いていた。


「ほう、運が良かったな……。あーでも漫画は校則で禁止なんだ、すまんな」とゴリ先はピョンプを取り上げる。


「えっいや、まだ刺されるかもしんないんで」とカズマは取り返そうと手を伸ばす。


「流石に校内で武器を持ち込んでいるやつはおらんし、そもそもうちの生徒じゃないだろ。帰りのホームルームには返してやるから……」すみませんわたしです。


「さて、カズマの席だが……あれ、どこにもないな……空席を作ったはずなんだけどな」ゴリ先はポリポリと頭を掻きながら教室内を見渡す。


「あ~ここですここです」とサクが勢い良く手を上げる。


「ああサクが陣取ってたのか。そろそろ本当に帰れ。カズマが座れんだろうが」


「うぃっすー。じゃまた」と今度こそ素直にサクは立ち上がり教室を出ていく。


「いやちょっと待て。そのスカジャン、それはだめだ……」ゴリ先は呼び止める。


「やっべバレた」とダッシュでサクは去っていた。


「おい待て! 逃げるな!」とゴリ先も走って追っかけていく。



 しん……。


 取り残されたクラス全体に少し沈黙が流れる。


「え、えっと、よろしくお願いします……?」とカズマが沈黙を破り、恐る恐る言う。



「ようこそッス!」ぱちぱちぱち! とブンコが拍手をしはじめた。それにつられてクラスの皆も拍手をはじめ、あちこちで「ようこそ〜」と声が上がり歓迎ムードになる。


 私、久地アイも釣られて拍手を送る。カズマは少し照れた様子で軽くお辞儀をした。


(なんか、仲良くなれそうな気がする)ふふ、と私は軽くニヤつく。


 すると、カズマがこちらに向かって歩いてきた。私の隣の席だから当然だ。まずい、ボケたこと考えてる場合じゃなかった。顔をしっかり見られたらドスをぶっ刺したことがバレちゃう。あわてて髪を顔の前に降ろし、少しでも見えないようにする。


「よろしくッス! わたしはブンコっス!」とカズマが席についた途端挨拶をしていた。それにつられて周りも挨拶をし始めた。少し迷ったが名前は言うことにした。


「私は………アイ」ただ、カズマの方を見ずに少しぶっきらぼうな口調で、あんまり話しかけてきてほしくなさそうなオーラをかもし出しておく。


「よろしく、アイさん」と明るく彼は返してきた……けれど私はほんの少しだけ頷くだけにとどめ、返事はしない。


(ごめんね……仲良くしたかったんだけれど……)と心の中でカズマに謝っておく。


 きんこーんかんこーん。一限目が始まるチャイムが鳴り、私は少しホッとする。





 〜次回予告〜


 サク「ついにめぐりあったカズマとアイ、けれどその出会いは運命とは言いがたいものだった」


 ゴリ「待てやサクぅ! そのスカジャンおいてけ!!」


 サク「やーなこった。ここから二人はどう転んで結ばれるのか、それとも……私やブンコ、ゴリ先と結ばれていくのか……」


 ゴリ「いや、俺はだめだろ」


 サク「そして私は変態ゴリラの魔の手から逃げ切れるのか……それとも、捕まってめちゃくちゃにされてしまうのか、エロ同人みたいに」


 ゴリ「おいなに勝手なこと言ってんだ! 身体じゃなくて欲しいのはスカジャンだ!」


サク「JKのスカジャン欲しがるのも結構変態すよ〜。次回、『サク、堕ちる』。こうご期待!」



〜注記〜



※1

ゴリ先が犯した罪は生徒を守るために起こした暴行致死罪。淫行ではありません。


※2この世界は罪を自らの死で償うルールがあります。詳細は世界観説明で。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る