三つ目の桃源郷

文月 いろは

三つ目の桃源郷

 あるところに一つの国があった。

 その国には『おもて』と『うら』二つの世界があった。

 一つは白黒しろくろ質素しっそな世界。

 一つは極彩色ごくさいしきいろどられた派手な世界。

 二つの世界はたがいいに干渉かんしょうせず、その均衡きんこうを保っていた。

 あるとき、一つの命が二つの世界の狭間はざまで生まれた。

 この物語はその命が三つ目の世界を作る話。

 

 一匹のきつねついをなす二つの世界の狭間で生まれた。

 名はないその狐は二つの世界の特徴とくちょう異能いのうと共にその身に宿していた。

 その狐は体の半分を綺麗きれい山吹色やまぶきいろ体毛たいもうおおわれている。

 残った半分はすみえがかれたような綺麗な『線』で彩られていた。

 狐は思った。

 『私は二つの世界のどちら側の生き物なのだろうか』

 その狐には異能があった。

 二つの世界を行き来できるという異能だった。

 自分はどちらの世界の生き物なのかを確かめるために、その狐は異能を使う。

 

 

 最初に狐は白黒の世界に行くことにした。

 やがて狐はその世界を『黒白こくびゃく桃源郷とうげんきょう』と呼んだ。

 とても幻想的げんそうてきな世界だった。

 我々の世界にも似たようなものがある。

 『浮世絵うきよえ』という江戸えどの世に出回った絵によく似ていた。

 狐はその世界で『人間』に出会った。

 白と黒で形取られたまるで『絵』に描いたようなその人間は、狐を見るなり異常いじょうなものとして扱った。

 それもそのはず。

 その世界には『色』という概念がいねんがないからだ。

 狐はその世界を追われることとなった。

 再び次元の狭間に来た狐は後に『極彩色ごくさいしき桃源郷とうげんきょう』と呼ばれる世界に行くことにした。

 

  

 その世界に来たとき狐は驚いた。

 物の形も人間も木々も全て対の世界と同じなのに、見たこともない『色』で彩られていたから。

 黒白の世界には大きく分けて三つの色しかない。

 黒。

 白。

 灰色。

 この三つだけ。

 しかしこの世界はどうだろうか。

 煌々こうこうかがやくく太陽は明るい橙色だいだいいろで、対の世界では白かった雲を茜色あかねいろに染めていた。

 そして狐はその世界でも人間に出会う。

 狐はおびえた。

 あの世界のように追われるのではないだろうか。

 そうすれば自分の居場所は無くなってしまう。

 その心配は裏切られた。

 その狐を見るなり人間たちは

 『半分は山吹でもう半分は白黒の美しい狐が来た』

 と大喜びをして迎えた。

 狐は

 『私はこの世界の生命だったんだ』

 と安堵あんどした。

 自分にも居場所があった。

 狐はその嬉しさで対の世界での出来事を

 『話してしまった・・・』

 その世界の人々は対の存在を全く信じなかった。

 『白黒だけの世界なんてあるわけない』

 『この狐は異常な狐だ』

 またしてもその世界を追われることになってしまった狐。

 世界の狭間でその狐は考えた。

 『二つの世界を一つにすれば皆が楽しく生きられるのではないか』

 狐は異能を使った。

 しかし、移動は叶わなかった。

 狐はまた一人になってしまったと悲しみ、目を閉じた。

 

 

 夢を見た。

 色のある世界で人々が笑う夢。

 二つの世界がつながり、一つの世界になる。

 そんな夢を。

 

 目を覚ました狐は自分の体の変化に驚いていた。

 自身の体は綺麗な桜色さくらいろに染まっており、尾が九つあった。

 狐は異能を使った。

 狐の異能は二つの世界を移動するものでは無かった。

 

 『自身の願いを具現化する』

 

 今までの狐の願いは二つの世界のどちらが自分の生まれた世界か確かめる。

 狐の答えはどちらでもない。だった。

 今の願いは二つの世界を統合とうごうして、新たなる『一つの世界』を作ることだった。

 そして狐は二つの世界を一つにした。

 

 

 そして数年が過ぎた。

 二つの世界の人々は互いの存在を認め、その狐に謝罪した。

 狐はやってしまおうと思えば二つの世界を消すことも可能だった。

 そうしなかった理由はただ一つ。

 『自分の居場所を作りたかったから』

 狐はその能力を使って『神』になることにした。

 人から信頼され。

 人にあがめられ。

 人の願いを聞く。

 そんな『神』になった。

 

 ──やがて時は経ち。

 狐はこの世界を『日出桃源郷ひいずるとうげんきょう』と名付けて姿を消した。

 そして狐は『桜色さくらいろ九尾きゅうびきつね』として、永遠に崇められる存在になった。

 消えた今も狐は一つの社からその世界を見ている。

 気まぐれに人々の願いを叶えながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三つ目の桃源郷 文月 いろは @Iroha_Fumituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ