第78話 夜と獣と エイドルと


 目が覚めるとそこは周りが石で出来た牢屋だった。

 僕が居る牢屋はかなり広いがそれを感じさせないくらいバラバラの死体が十人分くらい積んであった。


 その中に小さな子供の死体も獣人の物も無くてほっとしてしまった自分に少し嫌悪しながら立ち上がってスース―する自分の体を見ると、血だらけのビリビリで車に何台も撥ねられたかのような格好だった。


 「また死んだのか、そしてここは死体置き場かな?」


 ぼそりとつぶやくと何かが動く音が隣の牢屋から聞こえて来た。


「もしかしてその声はシュウか?」


 隣の牢屋から聞こえて来た声はエイドルの物だった。


「もしかしてエイドル?生きてた?」


「ああ、大丈夫だ。シュウはまぁ大丈夫だと思うけどどうだ?」


 相変わらずのエイドルの言い方に懐かしさを感じながら答えた。


「大丈夫だよ、僕は丈夫だからね。それとそっちに人間の子供はいないかな?」


 そう言いながら牢屋のカギを爪呪印で壊しながら通路に出るとエイドルの居る牢屋が目に入った。


「ああ、子供は居るんだが怪我をしているん・だ・・・」


 普通に隣の牢屋から出て来た僕に驚いているエイドルを尻目に僕は爪呪印でエイドルの檻の鍵も壊して中に入った。


 檻の中にはエイドルとその横にはマイキーが居たが意識が無く、背中にはザックリと斬られた傷があり、かなり浅い呼吸をしていた。


「シュウは人間じゃなかったか?なんだその爪、まさかお前も奴らの仲間入りしたのか?」


 僕が爪で鍵を壊した姿を見てエイドルがびっくりしていたので呪印の事を簡単に説明をしながらマイキーを蔓呪印の力で治した。


 そのあと自分に移った傷をまた蔓呪印で治したが使い勝手が悪い。もう花のストックが無くなってしまった。


 呼吸が深くなったマイキーの横でエイドルに現状を説明して僕たちはマイキーを背負い脱出する事にした。


 エイドルは町でライカンスロープになぜか執拗に付け狙われ多勢に無勢で捕まってしまい、ここに連れてこられたらしい。


 因みにエイドルが言うには、この牢屋は地下でほとんど見回りや警備はおらず、あの執事を筆頭に何人かのライカンスロープが時々見に来るだけみたいだった。

 そしてマイキーは昨日ここに血だらけでほおり込まれたのでエイドルが出来る限り止血したが危ない状況だったみたいだ。


「それにしてもシュウはしばらく見ない間に、より人間離れしたな」


「成長したって言って欲しいね」


「そ、そうだな。まぁ、また会えて良かったよ」


 そんな事を言いながら死体置き場にエイドルと僕の荷物が適当に置いてあったので回収し、地下牢を進むと上へとつながる階段があった。

 僕はまた扉の鍵を爪呪印で壊し、音が鳴らない様にゆっくりと扉を開くと木戸がガッチリ閉められていて真っ暗な部屋に出た。


「くらいな全然見えないぞ」


「大丈夫僕は見えてるから服を掴んで付いてきて」


 そう言いながら目呪印で暗闇の中を静かに進み、正面の壁にあった扉に耳を付けると何も音が聞こえ無かったのでゆっくりと扉を開けた。


 ドアを開けると明るい光が差し込んで来たそこは玄関ホールの右隣の部屋だった。もう玄関のドアが見えている。


 ついでにそこには執事のスチュアートが綺麗な姿勢でこちらを向いて立っていた。


「あなたはシュウ様、しっかりと殺したはずですがどうやって?!」


 さすがの執事も驚いた顔をしていた。


「僕は結構丈夫なんだよ、まぁそれだけが取り柄だからね」


「いやいや、丈夫とかそういう次元の話ではないでしょう、首が完全にちぎれかけていましたよ」


 あんまり聞きたくない自分の死んだ話に耳を塞ぎながら口を開いた。


「あーあー、大丈夫、丈夫だから」


「丈夫ってそんなに便利な言葉じゃないだろ」


 仲間のエイドルに突っ込まれながらも、どうせこの執事と戦いになると思ったから僕はまずマイキーを壁際にそっと寝かせた。


「困りましたね、早くしないと主が帰ってきてしまいます。獣人は檻に戻っていただけませんか?もし戻っていただけるなら三人とも殺さないでいてあげましょう」


「殺せるもんなら殺して欲しいね。残念だけど僕らは帰らないといけない所があるんだよ」


 そう言う僕に執事は手袋と上着を脱ぎ階段の手すりに掛けて口を開いた。


「よろしい、今度は生き返らない様にひき肉にしてさしあげましょう」


 そう言ってミチミチと嫌な音を立てながら変身して狼男になった。


「狼は因縁があるからいやなんだよね」


 そう言って僕はショートソードを抜き、肉球呪印に力を注いだ。


「俺も狼は嫌いだ」


 そう言いながらエイドルもかまえて、ジリジリと執事を挟むべく右へと移動していった。


 初めに動いたのは僕だった。ファイアーアローを口呪印から射出して牽制をするが鉛筆くらいのサイズなので執事は避けようともしなかったけど。


「チマチマとうっとおしい!そんな魔法、私の体にはききませんよ」


 そう言いながら向こうからも毛を何本か飛ばして来たが、距離があったので剣で弾きつつエイドルと逆の方へ回り込んだ。


 エイドルは素手だが獣人の身体能力は高いので多分大丈夫だろう、って言うかよく考えたら僕には爪呪印があるからショートソードをエイドルに渡せばよかった。まぁ始まってしまったものは仕方ないよね。


 僕がペシペシと簡単に弾かれてしまうペンシルアローを撃ちつつ距離を取っているとエイドルが距離を詰めたので僕も反対から切りかかって行った。


執事の獲物はナイフなのでエイドルは少し距離を置いて蹴りを主体にナイフを躱しながら戦っているので僕も距離を詰めて後ろからショートソードで切り付けると、執事はエイドルの蹴りを足でさばきながら半身になり、左のナイフでエイドルを牽制しながら右のナイフでショートソードを弾いたので、僕はそのまま剣をエイドルの方へ投げ捨て爪呪印を伸ばして切りつけた。


 執事が僕の爪を右のナイフで受けた隙にエイドルがショートソードをキャッチして切りつけると、左のナイフで防ごうとしたが獣人の力は人間よりかなり強いのでナイフを弾き浅くだがダメージを負わせた。


「ぐぅ、力任せの獣人ふぜいがぁ!」


 そう言って切られて距離を取った執事が傷口を押さえながらグルルルと狼の威嚇するような音を出した。


「地が出てるよ執事さん」


 そう言いながら僕は横のエイドルに近づき、この後の作戦を軽く説明をしてまたペンシルアローを放ちながら執事に向かっていった。


「こんなゴミみたいな魔法無駄だ!!」


 そう言って執事は僕が撃ったペンシルアローを無視してこちらへと走り出し、魔法が当たった瞬間世界が真っ白になった。


「ぐぁぁ」


「残念!ファイアーアローばかり撃ってたけど今回は当たると目つぶしになる魔法だったんだ」


 左手で目を押さえながらも右手を振り回したり毛をいろんな方向に飛ばす執事に僕は遠目からまたペンシルアローを撃ち、こちらへ注意を惹いた所でエイドルが後ろから胸をショートソードで突き刺した。


「レオファ、ル、ド、さ、ま」


 主の名前か何かをつぶやきながら狼執事は血だまりの中で普通の人間の姿へともどっていった。


「ふぅ、危なかったな、もうあとはシュウを囮にするしかないかと思ったぜ」


「そう言うのホントに辞めてほしいんだけど」


 そんなひどい事を言いながら血を拭きとったショートソードを僕に返して来るエイドルにまだそのまま持っておいてもらう事にして鞘も渡した。


 その後エイドルは執事からナイフを二本回収し、僕はまたマイキーを背負って館から脱出した。




 館から外に出ると空には穴の空いた月がくっきりと見えていた。


「もう結構な時間みたいだね、オークションは無事終わってるかな?」


「今日なのか!?オークション!」


 そう言えばエイドルに説明してなかったので、僕が来た理由と妻子は大丈夫だと言う話をするとエイドルは安心したのか地面に腰を下ろしてしまった。


「すまんシュウ、面倒を掛けたな。ありがとう」


「まだお礼を言うのが早いよ、さっさと帰って感動のご対面をしようよ」


 そう言ってエイドルに手を差し伸べて起き上がらせていると町へと続く道から馬車が現れ、その横を歩いていた正装をした男が口を開いた。


「なぜそこの獣人が外へ出ている!スチュアートはどうした!?」


 しまったゆっくりしすぎたみたいで館の主人とかのことを忘れていた。


「多分中で寝てるんじゃないかな?もう夜だし」


 僕の返事に怒ったのか男が声を上げた。


「そいつを殺せ!獣人は痛めつけて牢屋に戻せ、殺すなよ!」


 そう言うと馬車の後ろを歩いていたのかもう二人現れ、見る見る間に虎と熊に変身した。


「執事一人でもしんどかったのに二人も来たけどどうする?」


 エイドルに言うとエイドルはショートソードを抜いて右手に構え、左手にはナイフを持った。


「早く帰ってネイヤとネリアに会いたいからさっさと終わらせるぞ」


「了解」


 そう言って僕は先制のファイアーアローを放った。



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