第73話 金とワゴンと心臓と
スラムを出るとマイキーが辻馬車を止めてくれた。僕はマイキーに銅貨を数枚渡し辻馬車に乗った。
「じゃあ兄ちゃん次は猿のおっちゃんの報告でね」
そう言ってスラムに消えていくマイキーはなんかちょっとカッコよかった。
僕は御者にグリーンバーズ家の屋敷へお願いすると問題なく連れて行ってくれた。
馬車が屋敷に到着し、言われるがままにお金を払い降りると、そこはオークションで入った入口とは逆の方向の入口で、こちらが屋敷の正面玄関になっている様だった。
馬車から降りると門の前で警備していた兵士が寄って来てディミオを見て口を開いた。
「坊ちゃん!ご無事だったんですね!」
「フィート、この方が助けてくれたんだ」
フィートと呼ばれた兵士にお礼を言われ、もう一人の兵士が屋敷の中に急いで引っ込んで行ったので、このままだともしかして寄って行かないと行けなくなりそうだったので挨拶をして帰る事にした。
「もうこれで大丈夫だね、僕も待ってる人が心配するから帰るよ」
そう言って帰ろうとするとディミオとフィートに行く手を阻まれた。
「待ってください、このままお客様を返すと旦那様に怒られてしまいます。もう少しお待ちください」
「シュウさん、お茶だけでも飲んで行ってくれませんか?」
やんわりと帰りたい旨を伝えたが中々開放してくれず、そうこうしていると屋敷の扉が開きメイドが飛び出して来た。
「坊ちゃま!よくぞご無事で!」
「マルドナよせ、大丈夫だ」
中から出て来たメイドに抱きかかえられてディミオが恥ずかしそうにしていた。
「よかったねディミオ、じゃあ僕はそろそろ」
そう言って退散しようとしたが今度はメイドさんにも止められ、結局中に入る事になってしまった。
ディミオは健康チェック等があるみたいで屋敷の奥へと連れて行かれ僕だけ広い応接室でソファーに座りお茶を飲んでいた。
「早く帰りたいんだけどなぁ、師匠心配してるんじゃないかなぁ」
広い部屋で一人ブツブツ言いながらお茶とお菓子を頂いているとドアからノックの音が聞こえて来た。
「失礼します」
そう言って入って来たのはマルドナと呼ばれていたメイドだった。
「大変お待たせいたしましたまもなく当主が参ります」
そう言ってメイドが壁に控え、しばらくすると豪華だが品のいい服を着た線の細いディミオによく似た人が良さそうな三十代の男性が入って来た。
一応僕が立ち上がって挨拶しようとしたらそのままと言われフランクな感じで向かいのソファーに腰かけた。
「私はディバルト・グリーンバーズだよ。この度は息子を助けてくれてありがとう。君が助けてくれなければ今頃どうなっていたか」
そう言って握手を求めて来たので握手していると後ろの扉が静かに開きもう一人入って来た。
メイドも特に反応が無かったが入って来たのは子供でディミオより少し大きそうで特に気にしなかったがそのまま部屋の隅の椅子に腰かけてこちらを見ていた。
「シュウ君と言うそうだね、息子から聞いたよ。本当に今日はありがとう。このお礼は如何様にもさせてもらうつもりだ」
「いえ、それには及びません僕らは長い旅の途中です。それに偶々ご子息の助けを呼ぶ声が聞こえただけです」早く帰らしてくれないかな。
「このまま返してしまうと当家の名折れだよ、何か欲しい物やしてほしい事は無いかい?こう見えてもこの町ではそこそこの力を持っているんだ。そう言えばシュウ君はこの町へは何しに来たんだい?」
「この町へは師匠と一緒にオークションへ参加しに来ました」
「そうか何か欲しい物があるならそれを競り落としてあげよう。どうだい?」
それはもしかすると都合が良いかもしれない、エイドルの奥さんと子供は確実に競り落としたいし。
「じゃ、じゃあ一つだけ良いでしょうか?」
「なんでも言ってくれ」
「実は僕は猿の獣人を落札しようと思っていたんです」
「猿の獣人を?また珍しいね」
「はい」
「マルドナ、猿の獣人は今回のオークションに出ているか?」
ディバルトが急に横に控えていたメイドに声を掛けるとメイドが答えた。
「昨日の時点ですが親子の出品が一点ございます」
マルドナさんもしかして出品されているのを全部覚えてるのかな、すごい記憶力だ。
「よし、じゃあその獣人を私が競り落としてシュウ君にプレゼントさせてもらおう。必ず競り落とさせてもらうよ」
「ありがとうございます。助かります」
「欲しい物があってよかった。他に何か無いかい?」
「もうそれで充分です。今の僕の望みはそれだけですので」
「そうか欲が無いんだね」
そう言ってディバルドがマルドナさんの方を向くとマルドナさんがトレーの上に何かを乗せて僕の前へ置いた。
「これは僕からの気持ちだ。どれだけあっても旅の邪魔にはならないからね」
開けなくてもわかる。結構入ってそう。
「これは」
そう言いながらわかってても一応中を確認すると金貨が沢山入っていた。もらい過ぎると逆に怖いんだけど。
「こんなに頂けません」
「良いんだ、これは僕の気持ちだから受け取っておくれ」
「わかりました。ありがたく頂戴します」少し渋ったが早く帰りたいからもう受け取ってしまおう。
その後少し旅の話などをして、そろそろ帰りたいオーラを出していると急に後ろ座っていた子供がこちらに歩いてきてディバルドの横に座った。
座った子供はディバルドとあまり似ていない容姿で、クリクリの金髪に青眼の容姿の整ったかわいらしい女の子だった
「もう終わったよね?次は私の番だ」
ディバルドは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに何事もなかったよう元のニコニコとした顔で座っていた。
「私はホーリッシュ、よろしくねシュウ」
「よ、よろしく」
なんだろこの子供はと思っていると。
「ねぇ君ってさ幻獣の力もってるよね?」
突然そんな驚くことを言い出した。
「え?」
僕が突然の質問に固まっていると、またホーリッシュが喋り出した。
「なぜわかるんだって顔してるね?それは私も同じように幻獣の力を持っているからだよ」
そう言った途端、ホーリッシュの金色の頭にかわいらしい白い兎の耳が生えてきた。
「ほら、わかった?あと、さっきディミオから話を聞いたけどヴァンパイアが出たみたいだね。なぜ灰になったかも教えてあげるよ。シュウは呪印も持ってるでしょ?しかも一つじゃない」
そう言いながら僕を見る目はさっきの青ではなく血の様に赤くなっていた。
僕は何でも言い当てて来るホーリッシュに驚いて何も言葉が発せないでした。
「ふむふむ、シュウは複数の呪印を持ってるんだね。普通はそんなの魂が耐えられないはずなんだけどね、すごいよ」
赤い瞳は何処に焦点が合っているか分からないけど、まるで全てを見通すかの様に僕を見ていた。
「ヴァンパイアの吸血は血を吸うんだけど吸ってるのは血だけじゃないんだよ。対象者の魔力も一緒に吸収するんだよ。だからその際、シュウの血に流れている呪印の力も吸収してしまったみたいだね。そしてその呪印の負荷に耐え切れずに自壊してしまったみたい。右の内ポケットに入ってるそれ見せてくれる?」
「こ、これ?」
言われるがままに僕は右の内ポケットに入れたヴァンパイアの灰の中にあったクリスタルみたいな物を子供に手渡した。
「これはねヴァンパイアの心臓と呼ばれる物だよ、普通灰になってもこんな風に結晶化する事は無いんだけど、呪印の力がうまく干渉したのかな?本来は何百年も生きたヴァンパイアが自死した時に出来ると言われてるよ。まぁわかって無いだけで他にも方法があるかもしれないけど、もしいらなかったらこの心臓私にくれないかな?もちろんそれなりにお礼はさせてもらうよ」
そうかやっぱり呪印さんの力で体の中から壊した感じなんだね。後このクリスタルは別に要らないかな?でも一応師匠に聞いてからの方がいいかなぁ。
「とりあえず多分僕は要らないと思うけど、一応連れの確認してからでいいかな?」
「ありがとう期待しているよ!お礼は何にしようかな?さっきも色々迷ってたよね」
確かにお礼とか言われてもな、そう言えばここの地下が古代遺跡なんだったらキューブとか使われてないかな?
「実は、僕と師匠は古代遺跡を研究していて、もしよかったらこの施設のシステムとか見せてもらう事は出来ないかな?」
「ふむ、結構重要な施設だけどシュウならいいよ」
ホーリッシュがさらに何かを言いかけた時、窓が割れる音がしてそこから何かが飛び込んでホーリッシュが座っているソファーの後ろへと転がっていった。
「当主様お下がりください!」
そう言ってメイドが横にあったワゴンの引き出しからショートソードを出して僕達と窓の間に割って入った。そんなのも入ってるんだねそのワゴン。
僕たちは立ち上がってメイド以外の二人と窓から離れてドアの方へ移動すると、さっきはソファーの陰になっていて見えなかったが、飛び込んで来た物は入口で警備していた兵士と同じ防具を付けた生首だった。
「え?!」
ぼくが驚いて間抜けな声を上げていると、さらに大きく窓が吹き飛んで何かが飛び込んで来た。
「グルルルル」
低いうなり声をあげて手を前について飛びかかって来る姿勢でそこに居たのは狼の獣人だった。
「魔狼?!」
僕がぽつりと口に出すと、それが聞こえたのかホーリッシュがドアの方へジリジリと下がりながら口を開いた。
「あれはライカンスロープだよ。多分ヴァンパイアの手先だと思うけど。マルドナ、そいつを足止めしろ。シュウはこちらへ一緒にドアから逃げよう」
ライカンスロープって言うと人間が変身する奴の事かな?魔狼もそうだけど何が違うんだ。
僕が違いを考えていると、狼男がメイドのマルドナに飛びかかってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます