第68話 神と天使と人間と


 お祭りの会場は大聖堂の隣が大きな広場となっていて、そこで沢山の人が膝を折り一心に祈りを捧げていた。


 僕が思ってた祭りと違って屋台とかそう言うのは無く、神様にお祈りをみんなでするものみたいだった。僕はガッカリしたが子供達は毎年の事で知っていた様で、きちんとお祈りをしていた。


 他には大聖堂が開け放たれ、前から順番に入って行き中で何かしていた。


 その列にはマーロフとグルスも並んでいて、信徒ではない僕は入れないみたいで外で待っていることにした。


 子供達もアメリーも大聖堂から出てきて最後に教会の鐘が大きく鳴り響くと、みんなが大聖堂の方を向いて膝をつき静かになったので僕も真似をする事にした。


 すると大聖堂の前に設置されていた櫓の様な一際高くなった舞台に全身白の法衣を着た優しそうなお爺さんが登って来た。


「誰あれ?」


 小声でアメリーに聞くと教皇様ですと返事が返って来た。


 それから教皇様のありがたいお話が始まり正直僕は師匠について行けばよかったと思い始めていた。


「アメリーさんこれはいつまで続くの?」


「教皇様のお話が終わるとロイマリア様がお顔をお見せになり、それから食べ物などが振る舞われるのがいつもの流れですね」


「じゃあもう少しか」


「ふふ、そうですねもう少し頑張ってくださいね」


 同じ様な歳のアメリーに子供扱いされ少し恥ずかしい思いをしていると教皇様の話が終わりロイマリアが壇上へ上がって来た。


 その姿はいつもの子供の様なサイズじゃなくそこら中でみる石像と同じ大人の姿だった。


「あいつパーツ変えれるのか」


「パーツですか?」


「いや何でもないよ」


 独り言をアメリーに聞かれてしまったが、あのオートマターは体のパーツが着せ替えできるみたいだ、顔つきも少し違うし。


 そんな事を考えていると壇上に次々と緋色の祭服を着た人たちが上がって来た。


「あの人たちは各地の枢機卿です」


「枢機卿ってそんなにいるの?」


「そうですね他国で言う貴族様の様な形でしょうか、ロイマリア教では広大な国土を幾つかに分けて枢機卿が管理しています」


「へー」


 説明してくれるから聞いていたがあまり興味なく、ぼーっと見ていると枢機卿の一人、バーンスターと呼ばれていた髭のおっさんが突然苦しみ出して倒れたと思うと巨大化し出した。


「あれはやばい、アメリーさん急いで子供達を連れて孤児院に帰っといて、今すぐ!」


「はい、わかりました、シュウさんはどうするんですか?」


「僕は少し因縁があるから対処してくるよ、早く行くんだ!」


「はい!シュウさんお気をつけて!」


 アメリーさん達を見送り壇上に目をやるとキメラ化したバーンスターは兵士を次々と蹴散らし、それを見た群衆は我先にと逃げ出していた。


 人の波を逆にかき分けながら進んでいると、ロイマリアが掌から光線のようなものを出してキメラを攻撃していたが、手足や触手を焼き切ってもすぐ生えて来て致命傷にはなっていなかった。


 やっとキメラの元へ到着し、目に呪印を重ね魔力の流れを確認すると以前見たものより複雑になっていて正直わからなかった。


「マジかぁ、キメラももしかして進化しているのかな」


 もう舞台もバラバラになってみんな地面の上だった。


 キメラに後ろから近づいて行くと、後ろにも目があるのか触手が僕に向かって伸びてきたので爪呪印を少し伸ばして横へ避けながら切り裂いた。


 魔法以外ではダメージが与えられていないのでそれを切り裂ける僕を標的に定めたのか、周りの兵士を蹴散らし大量の触手を僕に伸ばしてきた瞬間、世界に色が失われていった。


 後ろに下がりながら触手を避け、間に合わないものは爪で切り落としたり致命傷を負いそうなものは口呪印で飲み込んで行った。


 その次の瞬間ロイマリアが消えたかと思うとキメラのそばに現れ右手首を左手で持って外すと、右手首の穴から光で出来た剣の刃が飛び出しキメラを叩き切ったその瞬間、世界に色が戻っていった。


 キメラは縦に真っ二つに割れその真中に偽キューブが二つ浮いていたが直ぐに右と左の肉体に光の帯を伸ばして戻ろうとしていたので僕は急いで走っていき爪呪印を長く伸ばして突き刺した。


 次の瞬間偽キューブが粉々に砕け散りキメラが崩れ落ちた。


 ロイマリアのおかげで結構あっさり倒せたと思ってロイマリアの方を見るとそこには首のない体だけが立ち尽くしていた。


「シュウよこっちじゃ、手をかしてくれぬか」


 自分の足元の声をする方へ顔を向けるとロイマリアが首だけでこっちを向いて喋っていた。


 次の瞬間ロイマリアの体があった所にどこからか光の帯が伸びて来ていたので僕は咄嗟に左手の蔓呪印を伸ばしてロイマリアの顔を覆うと、伸びてきた光の帯が呪印にあたり弾き飛ばされ僕もそれに引っ張られて地面を転がった。


「まぁた貴方ですか!どうなってるんですか?やっとロイマリアの隙きを付けたと言うのに!邪魔をしないでください、さっさとその顔をこちらへ渡しなさい!」


 ロイマリアの体のあった場所に立つのは司祭の服を着たディアスだった。


「お前が勝手に僕のいる所に来てるんだよ、さっさとそのリエルの力を返しくれないかな?」


「これは神に私が授かったものです!返すとか返さないとかそういうのではありません!」


 そう言ってディアスが手を上に上げると光の帯がムチのように僕に向かってきたので呪印で包んだロイマリアでガードした。


「シュウ、妾を盾にするでない!」


「だってあれ当たるとやばいんだよ!」


 そう言いながら次々飛んでくる光の帯をロイマリアを包んだ呪印で弾き返していると周りに居た兵士たちが我に返り次々とディアスに切りかかっていった。


 それにあわせディアスが体に帯を巻き付けると光の帯がまるで鎧の様になって、さらにそこからたくさんの光の細い帯が飛び出しそれを振り回すと切りかかった兵士達の体が削り取られ次々と倒されていった。


「くそ、馬鹿の一つ覚えみたいにあればっかりだなあいつ」


 僕はロイマリアを呪印で背中に固定しディアスへ向かっていった。


「シュウさん、よかったらその背中に背負っている物を渡してくれませんか?」


 ディアスが僕に手のひらを上に向けて話しかけてきたのでそれを爪呪印で叩き切ろうとすると手を引っ込め光の帯を伸ばして来た。


「断る、そもそもお前孤児院どうしたんだよ、何でほったらかしにしてるの?」


「孤児院は人間だった時の私の仕事です、今の私に人間としてのしがらみは存在しません」


 そう言いながらディアスが手を広げると背中に透明な水晶の結晶が集まった様な翼が生えて空に浮かび上がった。


「申し訳ありませんが安全地帯からやらせて貰いますよ」


 そう言って空に浮かび上がり光の帯を飛ばしてきた。


「うわっ!汚いぞ、折りてきてちゃんと勝負しろ!」


「貴方の爪は私の光鎧を突き破ってきますからね、同じ土俵では戦いませんよ」


 その瞬間、世界に色が失われていった。


 上に飛んでいるディアスからまるで雨の様に細かくなった光の帯が降り注いで来たので飛び退きながら爪呪印で対応していると左足に激痛が走りその瞬間、世界に色が戻っていった。 


「ぐあぁっ」


 見ると左足の膝から先が地面から生えて来た光の帯に削り取られていた。


 痛い痛い痛い痛い!痛みにおかしくなりそうだったが追撃を避ける為、転がりながら左腕の蔓呪印に力を込めると手首の花が一つ散り痛みが収まり気づくと左足が生えていた。


「貴方はトカゲか何かですか?」


 そう言いながら次々とディアスが居ない所から光の帯を飛ばしてくるので大きく逃げ回ってるとロイマリアが口を開いた。


「シュウ、あやつはゲートを開いてそこから攻撃を飛ばしてきておるぞ、魔力の流れを見るんじゃ」


「そんな急に言われても」


 とりあえず目呪印さんを右目に重ねながら回避行動を取ると時々何もないところに魔力が集まりそこにゲートが開くのが見えた。


 何度か攻撃を避けていると目の前にゲートが開く予兆があったのでゲートが開いた瞬間、爪呪印を全開まで伸ばし腕を突っ込んだ瞬間、世界に色が失われていった。


 ゆっくりと流れる時間の中ゲートから出て来た光の帯が避けれない範囲で飛び出し僕のお腹を突き抜けたが、ディアスの後ろの何も無い所から真っ黒に燃えた僕の爪呪印が出てきてディアスの腹を突き抜けた瞬間、激痛と共に世界に色が戻っていった。


「ぐふぁ」


 ゲートが閉じて爪呪印が折れてしまったがそのおかげでディアスの腹に刺さったままになっていた。


「ぐぁぁ、よぐもわだじの体にぃ!」


 口から血を吐き出し、燃えながら僕を睨みつけてきていたが、その隙に僕は蔓呪印に力を込めて花を一つ使いお腹を回復させた。


「どうも貴方とは相性が悪い様なので私はこの辺で一度お暇させていただきます」


 そう言いながら燃えている爪呪印を腹から抜き取り投げ捨てると、お腹を抑え苦しそうに口を開いた。


「シュウさん次は貴方です、先に殺してあげますからね、常に周りに怯えて暮らしてください!私はどこにでも潜んでいますよ、それではさようなら」


 そう言ってディアスはゆっくり降りてきて地面に着地した。


「あれ?おかしいですねゲートが開かない」


 その瞬間ディアスの胸に黒い炎の槍が次々生えてきた。


「今日は逃がさないわよ、周辺に転移阻害をかけさせてもらったわ」


「師匠!」


 少し離れた建物の上に師匠が立っていた。


「ぐあぁああああ!」


 ディアスがガムシャラに光の帯を振り回すがそれを無視するかの様に師匠の黒い炎の槍が次々と体に刺さっていき、やがてディアスがいた場所は光の帯が削り取ったクレーターとその中心に転がるリエルの力の塊だけになった。


 その塊にいつの間にかポシェットから飛び出したリエルがぴょんぴょんと近づいていくと吸収していった。


 次の瞬間リエルがむくむくと膨らんでいき元の姿に戻った。


「やっと元に戻ったよシュウ君!」


 そう言いながら僕に飛びついてきたと思うとシューと言う音を出しながら縮んでいき最後は三歳くらいのリエルが僕の腕の中に残っていた。


「しゅうくんまだたりないよー」


「なんて言うか相変わらずリエルって出鱈目な体の構造してるね」


 そんな事を言っていると周りを兵士と枢機卿に囲まれていた。


 その中から金髪碧眼のロードさんが前へ出て口を開いた。


「ご協力感謝する。そして、その後ろに担いでいるロイマリア様を返していただけないだろうか」


「シュウ、迷惑をかけたな妾をロードへ渡してくれるか?」


 僕はリエルを下へおろし呪印を解除して首だけのロイマリアをロードさんへ手渡した。


「ロイマリア様大丈夫ですか?」


「仔細ない、早くラボへ行くのじゃ、シュウ、ティーレシアまた助けられたの、感謝してもしきれんわ」


「良いから早くいきなよ」


 僕が促すとロードさんは頭を下げて教会へ入っていった。


「やっとあの鬱陶しいディアスを仕留められたわね」


 師匠が横へ来て言った。


「そうだね、でもどうやって転移できなくしたの?」


「ここの魔法結界の応用よ、前に設定した時に遠隔操作をできる様に設定しておいたの」


「勝手にそんなことして良いの?」


「でもまぁ今回役に立ったでしょ?」


 ウインクしながら言う師匠のいつもとのギャップに声が出ないでいると、僕が納得したと思ったのか師匠がまた口を開いた。


「さぁ、孤児院に帰りましょ、もう今日は働かないわ一杯やりたい気分ね」


「師匠は毎日一杯やってるよね」


「今日の一杯は昨日の一杯とまた違ういっぱいなのよ」


 そんな訳の分からない事を言う師匠と一緒に小さい子供位のサイズになったリエルの手を引いて孤児院へと帰った。



 出発の日になり僕達は孤児院の前の広場でロイマリアにもらった馬車に荷物を積み込み出発の準備をしていると向こうから教会の馬車がやってきた。


 そこからクローベルが降りてきた。


「シュウ様、ティーレシア様、もう行ってしまわれるんですね」


「クローベルさんお世話になりました」


「こちらこそ色々ありがとうございました、改めてお礼を申し上げます。あとこちらをロイマリア様から預かっております」


 クローベルさんが懐から手紙を出してきたので開くとお礼の言葉がたくさん並べられていた。


 それを師匠に渡しクローベルさんと別れの挨拶して帰っていったので僕達も出発する事にした。


「シュウさんまた遊びに来てくださいね!子供達も待ってますから!」


「兄ちゃんここで暮らせば良いじゃん!」

「行かないでよー」


 子供達に泣きつかれたがアメリーが引き剥がしてくれた。


「みんな元気でね!また遊びに来るから!」


 馬車はゆっくりと広場を後にした。



 町を出て街道を暫く走っていると師匠が口を開いた。


「シュウ右の丘の上を見て」


 そう言われて丘の上を見て僕は大きく手を振った。


 そこにはマーロフとグルスがこっちに手を振っていた。


 僕は滲む景色の中丘が見えなくなるまで手を振り続けた。

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