第66話 鬼と師匠とバリケードと
飛び起きて城壁で借りて来ていた槍を持って急いで外をのぞくとゴブリンやコボルト、そしてオークが町の中に入ってきていた。
「シュウさん!」
「アメリーさんは子供達とリエルを頼むよ、ドアや窓は絶対開けないでね!」
「はい!シュウさんも気をつけてください!」
孤児院の入り口は広場に面しているため、入り口の前に木箱や土嚢を積んでバリケードを作る事にした。
近所の人たちも頑丈な孤児院に集まっていたので僕が時々来るモンスターを槍で退治しながら急いでバリケードを積み上げて行った。
幸いなのか町の中に広くモンスターが散らばっているため、南門ほどはモンスターが来なかったので近所の男衆と僕だけで対処出来ていたがやはりと言うか広場へオーガがやって来た。
「すいません僕はオーガを相手にしますのでバリケードをお願いします」
それぞれナタやら自作の槍などを持った男衆にバリケードをお願いして僕は身体強化をしながら飛び出した。
飛び出した僕に向かってオーガだけじゃなくゴブリンも寄って来たので急いでゴブリンの方に向かい先に槍を突き刺すとその瞬間、世界に色が失われていった。
ゴブリンを突いた姿勢で左を呪印さんの目で確認するとオーガの口が首元へ迫ってきていた。
僕はその口を無理矢理体を捻り避けながゴブリンから槍を引き抜きながら離れようとすると次は目の前にオーガの爪が迫っていた。
槍を諦め迫ってくる爪を右手の呪印掌底で下から打ち上げるとギャリンと言う金属が削れる様な音と共に爪は避けられたが、そのままオーガの体当たりをくらい五メートルほど後ろへ転がりその瞬間、世界に色が戻っていった。
「いてて、やっぱり体当たりが一番怖いねでかいやつは」
そう言いながら起き上がって前を見るとオーガが爪と一緒に左手の一部を削れたのか流れる血を押さえて牙を剥き出しの恐ろしい形相でこちらを睨んでいた。
「がんばれ!行けるぞシュウさん!」
近所の男衆の野太い応援を聞きながら突進される前に僕は前へと足を踏み出した。
「もうなりふり構ってられないよね」
僕は両手の爪を伸ばしオーガに迫るとオーガも残った右腕の爪で切りかかって来たので、そのオーガの爪に僕も右の爪呪印を合わせると一瞬抵抗があったがそのまま切り裂いた。
体勢を崩したオーガの首元に左手の爪呪印を突き立てると炎が上がりそのままオーガが燃えだし倒れ、しばらくもがいていたがそのまま動かなくなり真っ黒に燃え尽きて行った。
「龍の炎怖い…」
槍を拾ってバリケードに戻るとみんな喜んで迎えてくれた。
「シュウさんすごいな!魔法使いだったの?!」
「ま、まぁそのような感じです」
ここにいるおっさん達は魔法に詳しくないので何が起こったかよくわかって無い様で、とにかく魔法使いすごい!と言う形でごまかす事が出来た。
それからも時々オーガが来たが爪で最初から戦い倒しているとみんなも余裕が出て来たので愚痴り始めた。
「これはいつまで続くんだろうなぁ」
「早く終わってほしいな」
そんな時広場に四メートルはある上半身裸に腰蓑を付けて顔が牛になったモンスターが現れた。
「な、なんだあれミノタウロスか!でけぇ!」
「シュウさん、みんなで逃げたほうが良いんじゃないか?!」
「逃げるってどこに逃げるんだよ?!」
男衆が真っ白い顔でおびえて言い合いしている中、僕は覚悟を決めてバリケードから飛び出した。
「みんなバリケードをお願いします!」
ミノタウロスに近づいて行くと斧がすごい勢いで横から迫って来た。
その瞬間、世界に色が失われていった。
斧の速度が思ったより早く体を反らしたが間に合わないので爪を伸ばして斧を受けようとすると、そのまま爪を押される様な感覚があり弾き飛ばされその瞬間、世界に色が戻っていった。
「ぐっがはっ!」
かなり激しく吹っ飛ばされて壁に叩きつけられ口から血が流れた。
「ぐぅ、ダメだ、背骨折れたかも」
バリケードお願いしますとか言いながら一撃って恥ずかしい、そんな事を考えながらそのまま息が出来なくなり意識を手放した。
次に気が付くとあたりは暗くなっていて、空には穴の空いた月が上っていた。
あたりを見回すとミノタウロスは死んでいてバリケードの方を見るとマーロフとグルスが加わっていた。
「もしかして死んでたのかな」
手足に力が入るようになっていたので起き上がってバリケードの方に歩いて行くとグルスが飛び出して来た。
「シュウ!生きてたのか!もうだめかと思ってたぞ!」
「心配かけてごめん、僕は意外と丈夫なんだ、ミノタウロスは二人が倒してくれたの?」
「ああ、ちょうどシュウが吹っ飛ばされた所でな、一応見に行ったんだがその時息をしてなかったから、その場にほっておいてすまん」
「こっちこそみんなを守ってくれてありがとう!助かったよ」
「さぁ中でゆっくり休め、後は俺たちが見ておいてやるから」
まだ戦えると言ったがマーロフ達に無理やりでも朝まで休むように言われ孤児院の中に押し込まれた。
中では僕が死んだと思ってたアメリーや子供たちに泣き付かれ大変な騒ぎになった。
子供たちを寝かしつけていると、不死さんが仕事をしたがまだ体は本調子じゃなかったのか気が付くと朝になっていた。
「気のせいかな昨日と空気が違う気がする、不死さんが完全に治してくれたからかな?」
外からモンスターの叫び声が聞こえるので朝ごはんを急いで食べてバリケードへと向かうとマーロフが声を掛けて来た。
「おお!シュウ体はもう大丈夫なのかぁ?」
「おかげさまでもう完全に治ったよ!」
「どうなってるんだお前の体?でもまぁ、無理はすんなよ!」
「心配してくれてありがとう」
不思議がられながらも人手不足でみんな疲れているので歓迎された。
はっきり言ってマーロフとグルスは強かった。基本近場のモンスターはマーロフが次々斧で、グルスは剣で倒していき、オーガなどが出ると近づいて来るまでにかなりの数の矢がグルスによって放たれ、弱った所をマーロフがとどめをさす形だった。
「マーロフとグルスが居てくれてよかったよ、ホントにありがとう」
「シュウ、お礼を言うのはまだ早いぞやばい足音が聞こえる」
グルスがそう言うと僕の耳にもズンズンという音が聞こえて来た。
「え?なんの音これ?でかいやつ?」
「右の奥だシュウ、やばいぞジャイアントだ、しかも二体」
グルスが早速弓を撃ち始めたのでその先を見ると、十メートル近い一つ目の巨人が二匹も公園に入って来た。
「二匹はまずいな、取り合えず右を狙うからマーロフは左を頼む!」
「おう!」
グルスがそう言うとマーロフはバリケードから飛び出していった。
「シュウは右のやつが近づいて来たら出来る限り足止めしてくれるか?」
「了解!」
マーロフが斧で巨人のこん棒と殴りあっていると周りに居るゴブリン達も吹き飛ばされ寄ってこなくなった。
僕は右側の巨人が近づいて来たのでバリケードを飛び出し槍を巨人の膝に向かって突き刺した。
目をグルスの矢からかばっていた巨人は足元の僕に標的を変え蹴りを繰り出して来たが、それを左に跳んで避けもう一度膝に向かって横から突いたその瞬間、世界に色が失われていった。
巨人の長い腕が横から振り払われるように僕に向かってきていた。
腕を迎え撃つために爪を伸ばそうと前に出した時、後ろから炎の槍が飛んできてジャイアントの腕を吹き飛ばし世界に色が戻っていった。
そのまま炎の槍が次々飛んできてあっという間にジャイアントと広場のモンスターは倒されてしまった。
「師匠!」
炎が飛んできた方を見ると少し疲れた顔の師匠が立っていた。
「シュウお待たせ、遺物のプロテクトを解除してきたわよ」
「お疲れ様!早かったね!」
「大急ぎで終わらせて来たわ」
ジャイアントをあっさり師匠が倒し、外はマーロフ達が見ていてくれると言うので師匠と一度孤児院に入る事にした。
師匠はアメリー達に迎えられスープ を食べながら口を開いた。
「とりあえず結界の方は何とかなったけど、迷宮のスタンピードが収まらないから迷宮のコアも書き換えられている可能性があるわ」
「また迷宮が暴走してるのかな?」
「その可能性があるわね、まぁでもこれを食べ終わったらコアを破壊してくるわ」
「そんな散歩へ行くみたいに、僕も付いて行くよ」
蜂蜜酒を飲み干して師匠が口を開いた。
「シュウはここで孤児院を守ってあげて、あのくらいの迷宮ならすぐコアを破壊してくるわ」
「わかった、子供達は僕が守ってるよ、師匠も怪我しないようにね!」
僕がついて行っても足手まといになりそうだしね。
「じゃあいってくるわシュウも死なないでね」
そう言うと師匠は体に黒い蔓を這わせ呪印の力で迷宮に飛んでいった。
「えー!ティーレシアさんが消えた!」
ちょうど見ていたアメリーさんびっくりして腰を抜かしていた。
その後、町の中に入っていたモンスター達は魔法が使えるようになった教会の魔術師達により殲滅されていき、一部崩れた塀もバリケードで補強し何とか押し返す事に成功した。
「それにしてもこれはいつまで続くのかねぇ」
あれから二日経って今孤児院にグルスが来ていた。
マーロフは北門の守りに昨日の夜から行ってるのでグルスが交代に行く途中に寄ってくれたみたいだ。
「多分もうすぐ師匠が迷宮を止めてくれると思うよ」
「シュウの師匠はどうなってるんだ。いったいどこの国の宮廷魔法使いだって話だよ、あの炎の魔法なんか赤のバルドスよりすげぇかもしれないな、シュウも弟子って事は魔法使えるのか?」
「僕は全然だよ、使えるけど剣の方がまだマシなくらいかな」
「そうか、シュウもあれくらい魔法が使えたら俺も楽できるんだけどな」
「それは残念でした。まぁいつかはあれくらい出来るようになるから待っといてよ」
「その力今欲しいんだけどな、さてそろそろ行くか、崩れた北門へ行くけどシュウも行くか?」
「そうだね僕もできる事をしようかな」
僕はグルスと一緒に今北門の守りに向かう事にした。
北門に向かうと遠くからでも聞こえるほど怒号が飛び交いモンスターの咆哮が響いて来ていた。
「グルス、僕すごい嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな俺もだ」
大きな建物を曲がると崩れかけた城壁とボロボロの門が見えてくるはずなのに何も見えず。その代わり首がいくつも有るドラゴンが暴れ、周りから魔法が飛んだり、人が吹き飛ばされたりしていた。
「おい嘘だろ、あれはヒュドラだ」
「ヒュドラってそんなにやばいの?」
「そうだな、たくさんの首を持つドラゴンだ。再生能力が高く首の一本や二本飛ばした所で全く弱らない。しかも毒のブレスまで吐いてくる、迷宮で出会ったら逃げたい相手だ」
「うわぁ今僕も逃げたくなったよ」
「俺は屋根の上から矢を撃つ、シュウは逃げても良いと思うぜ結構十分な数の兵士もいるしな」
「とりあえず僕も様子を見ながら行けそうならこれで突いていくよ」
そう言って槍を持ち上げてみせた。
「わかった、気をつけてな、無理するなよ」
そう言いグルスがひょいひょいと屋根に上りゴーグルをつけて弓をガンガン撃ち始めた。
それに紛れて僕は近くへ寄って行くと沢山の兵士とそれに交じってマーロフがいくつもあるヒュドラの首と戦っていた。
僕も横から邪魔にならない様に時折攻撃を入れていたが、さすがに兵士の数も多くやがてヒュドラの首が全部無くなり崩れ落ちた。
その場で歓声が上がりみんなで喜び合ったが残った城壁の上の弓部隊から叫び声が上がった。
「追加だ!ヒュドラ二匹にジャイアント五匹、ミノタウロスが五匹、レッサードラゴンまでいるぞ!!!」
「に、逃げるしかない、もうこの町は終わりだ」
そう言ってその辺の傭兵のおっさんが武器を落とし逃げ出すと、正規兵以外が続々と戦線を離脱していった。
「シュウ、おめぇは逃げなくていいのか?」
「マーロフ、僕が逃げても後ろには孤児院の子供たちがいるしね、ここで食い止めないと師匠に怒られるからね!」
「わはは、シュウの師匠は怖そうだからなぁ!」
それからどれだけの時間が経過しただろうか、空には穴の空いた月が上り兵士たちは満身創痍で、マーロフもグルスも血だらけだった。
僕たちは槍や弓でけん制し、時に魔法使いが魔法を使い、ジャイアントに紐を掛けて転ばして、ひたすらに消耗戦をしていた。
「癒し手が多いのが救いだな、シュウ大丈夫か?」
「何とかね、折れた腕も治してくれたよ」
ロイマリア教の総本山だけあって回復魔法を使える人間が多く、兵士が怪我をしても即死じゃなければ何とかなるので、とにかく僕たちは終わらない戦いを続けていた。
軽い会話をしているがマーロフの斧も半分欠けているし僕の槍も先が無くなっていた。
「また来たぞー!!」
そう叫ぶ声が聞こえ指を指している方を見ると向こうからレッサードラゴンが7匹くらい咆哮を上げながら近づいて来るのが見えた。
「おいおいおい、ここに来てどんだけレッサードラゴンが来るんだよ」
「これは死んだかもしれんな」
マーロフとグルスがあきれた感じで声を上げていた。
もうダメなんだろうか、もっと僕が魔法を練習しておけば師匠みたいに倒せたかもしれないのに、このままじゃマーロフもグルスも子供たちも死んでしまう。
どうにかする方法は無いかな、身体強化も全開にしてるし、爪呪印はもう使っていくとしてあとは肉球呪印か、もう耳や尻尾が出ても誰も気にしないかな?
少しずつ試す様に僕は呪印に力を込めていくとそこで僕は意識を手放してしまった。
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