第65話 槍と天使とロイマリアと
「貴様ディアス!どう言う事じゃ!」
「ロイマリア様お久しぶりでございます。そしてお別れです」
そう言ってまた光の帯を出して来たので僕はロイマリアの前へ出て右手の口呪印で吸い込んだ。
「あなたの右手はどうなってるんですか?そしてなぜあなた達お二人は私の行く先々で邪魔をされるのですか?」
「それはこっちが聞きたいよ、何でこんなことしてるんだ!」
僕と師匠は剣を抜いて構えたがディアスはおしゃべりに夢中だった。
「そもそもその魔道具の書き換えにどれだけ時間がかかったと思っているんですか?あんな短時間でプロテクトの上から動作を遅らせるし本当になんなんですか貴方達」
「ディアスよ何故こんな事をするのじゃ、あんなに熱心だったお主が、何があったんじゃ!」
「ロイマリア様、私はもう貴方よりも神に近づいてしまったのですよ、そして真理を知ってしまった。貴方みたいに偽の神ではありません、ほらこれが見えますか?」
そう言ってディアスが胸元を開くと魔狼のバイスの父親と同じ様にリエルの力の塊が生えていた。
「そのコアは!天使か?!お主天使に取り込まれおったか!」
「よく分かりましたね、なのでもう貴方は必要ありません、この国と一緒に消えてください」
そう言ってディアスは胸元を正し右手を上げた。
「まぁなんでも良いんだけどさ、それうちの子のだから返してくれないかな?」
僕が剣で斬りつけるとディアスが光の帯を出して防ぐと帯に触れたところから剣が崩れて無くなってしまった。
「ああ!せっかく買ってもらったのに!」
そのまま生き物の様に伸びて来た帯を右手の口呪印で吸い込んだ所でディアスは横から師匠に蹴り飛ばされ地面を壁まで転がった。
「わ、私に物理攻撃は効きませんよ!」
「床を転がってボロボロだけど大丈夫?」
僕がそう言うとディアスは立ち上がり法衣を脱ぎ捨て手を前に出すとそこから光の帯が出てきて全身に巻き付き白い光る鎧になった。
「ここからが私の本気ですよ!魔法が使えない状況で私を傷つける方法はありません!全員殴り殺して上げますよ!」
そこに走り込んでいた僕が爪呪印を伸ばして真正面から切りかかった。
そんな僕の攻撃を一応警戒していたのかディアスは下がって躱そうとしていたが、切りつける瞬間爪の長さを伸ばすと光の鎧を何の感触も無く切り裂きディアスの胸元から血が噴き出した。
さらにもう一度切りつけようとするとディアスが手の先から光の帯を振り回したので後ろに下がり距離をとった。
「ぐうううううぅ!まさかこの光衣が切り裂ける存在がいるとは思いませんでした。貴方は一体何なんですか?悪魔ですか?」
「普通の人間だよ」
そう言ってさらに斬りかかろうとするとディアスは足元に丸い空間を作ってストンと落ちる様に逃げて行った。
「用事を思い出しました!では!」
穴が閉じていき声も聞こえなくなった。
「あいつの見切りをつける速度は半端ないな」
「お主は一体いくつの呪印をその身に宿しとるんじゃ?」
ロイマリアは無表情だが声は驚いた感じで僕に話しかけて来た。
「三つくらいかな?」
「破壊の女神が連れているだけあって規格外じゃな、本当に人間か?」
「多分ね」
そんな話をしていると師匠がロイマリアに寄って来て口を開いた。
「とりあえずディアスも逃げたし、これをなんとかしないといけないわね」
そう言うとロイマリアの手に握りっぱなしだったキューブを取って地球儀の様な魔道具の元で作業を始めた。
暇になったのかロイマリアがまた僕に呪印の事を質問し出したその時、ドアをノックする音が聞こえクローベルの声が聞こえた。
「ロイマリア様お耳に入れたい事がございます」
その声を聞いてロイマリアは服装を正して口を開いた。
「もう用は済んだ、入るが良い」
頭を低くしたまま入室したクローベルが口を開いた。
「先ほど迷宮に調査に向かっていた兵士が戻りました、やはりスタンピードが起こっている様です」
「やはりか、直ちに周辺の町や国にも応援要請を送らせよ、町にも戒厳令を引き食料の備蓄を確認するんじゃ」
「は、食料は幸い豊穣祭前ですのでかなりの備蓄がある様で節約すれば1ヶ月は問題ありません。市場なども食料品を全て適価にて買取を進めさせております」
「よしロード枢機卿を指揮者として城壁の防衛に当てさせるんじゃ、ギルドや傭兵の徴用も急がせよ」
「その件について一件宜しいでしょうか?」
「もうせ」
クローベルさんは言いにくそうに口を開いた。
「バーンスター枢機卿が指揮権を寄越すように騒いでおります」
「またグリーンバーズの枢機卿か、適当にどこかの門を守らせておくが良い」
「はい、そのように伝えておきます。それでは失礼いたします」
クローベルさんが退室したところで作業をしていた師匠が口を開いた。
「大体この感じだと四日はここを動けないわ、シュウは孤児院の方をお願い終わったら私も行くから」
「了解、師匠も無理しないでね!」
そう言って僕はロイマリアに色々聞かれるのがめんどくさいのでさっさと教会を後にした。
孤児院に帰るとアメリー達が迎えてくれた。
「シュウさんどうでしたか?ティーレシアさんは?」
「ティーはもう少し教会でやる事があるから残ったよ。僕はここが心配だったんで先に帰ってきたんだ」
「ありがとうございます」
中に入り色々確認すると孤児院は昔城壁だっただけあり、壁も厚く木窓を閉めると暗いが要塞の様だった。
「これなら城壁が抜けても少しくらい大丈夫そうだね。僕は一度城壁の方の様子を見てくるよ、リエルを預かってて」
僕は腰のリエルをポーチごと渡した。
「分かりました、お気をつけて!ロイマリア様の加護があります様に」
ロイマリアに祈られたが、さっきまで会っていたので有り難みは無いなとくだらない事を考えながら、とりあえず一番近い南の城壁へと向かった。
「シュウじゃないか!」
そこにはマーベスが城壁の防衛に当たっていた。
「うちのギルドは人数多いからさ、東西南北の各門に割り振られたんだよ」
「僕も手伝いに来たんだけど何か手伝えることある?」
マーベスが少し考えてから口を開いた。
「槍は使えるかい?」
「多分剣より得意かも」
「よし決まりだね、門の防衛に混ざっておくれ」
そう言って鉄でできた丈夫な重い槍を手渡された。
今僕は南門の前に半円形に作られた槍衾の一人として並んでいた。
「お前達!とにかく敵が来たら突いて!突いて!突きまくれ!疲れたり怪我をしたらすぐ後ろの奴と変わるんだ!」
リーダー的な人の鼓舞のその後、僕は会話もなく突いて突いて突きまくった。
モンスターの押し寄せる勢いも波があり、引いた時に入れ替わり押して来る時はひたすらに突きまくった。
途中ゴブリンが投擲して来て世界が遅くなる事もあったが何とか無傷で夜を迎えた。
「疲れたものは自己申告で交代しろ!無理はするなよ!」
呪印のせいかこの体のせいか、食べなくても寝なくてもそこまで問題ないので穴の空いた月の下突きまくっていると夜が明けて来た頃に問題が起きた。
「オーガだー!」
壁の上から兵士の声が聞こえ押し寄せるゴブリンやコボルト、オーク等を突いていると次の瞬間、世界に色が失われていった。
半円に並んでいる僕の右側の人間が吹き飛び、そのまま僕にも棍棒が迫って来たので槍で跳ね上げ何とか回避に成功した。
棍棒を振り終わり体制が崩れているオーガの膝に槍を突き立てた瞬間、世界に色が戻っていった。
その膝をついたオーガに向かって周りにいた槍部隊が次々と槍を突き立てていったが硬い皮に弾かれ少し血を流す程度にしかならなかった。
その間城壁の上の弓部隊は休んでいた人たちも出てきて集中して僕たちの周りのゴブリンやコボルト、オークを撃ち続けてくれたので槍部隊はオーガだけと対峙する事が出来た。
「ダメだオーガが硬すぎて槍が深く入らない!」
「もうダメだ!みんな死んじまう!」
みんなが口々に諦めの言葉を吐き逃げ腰になっていたので僕は大きな声を出した。
「諦めるな!少しずつでも血が流れればいつか死ぬ!刺し続けろ!」
身体強化を限界まで使い槍をオーガに突き立てると左肩を貫通した。
「行ける!行けるぞ!突け!突いて突いて突き続けろ!」
誰かが叫ぶと僕たちはとにかく手数で応戦し時々僕が深い傷を負わせる形で、やがてオーガはゆっくりと倒れて行った。
「うおーーー!やったぞー!」
僕たちは雄叫びをあげる塀の上からも歓声が上がった。
「良くやった!お前達交代しろ!」
いつの間にか一度閉められた通用門が開いて交代の槍部隊が出てきて僕たちは引っ込み休憩する事になった。
「お疲れ様!見てたよシュウやれるんだね!」
そこに居たのはマーベスだった。
「いやいや、たまたま関節の柔らかい所に通っただけだよ」
「そんなに謙遜しなくて良いよ、そうだ一度孤児院に戻ってあげたらどうだい?何もなければ一眠りしてまた帰ってきてくれたら良いからさ」
僕は孤児院も気になったのでお言葉に甘えて一度帰ることにした。
孤児院に戻ると周辺の家に人たちも丈夫な孤児院に来ており、窓や勝手口に木を打ちつけたりして要塞化が進んでいた。
「シュウさんおかえりなさい!無事でよかった!」
「シュウにいちゃんだ!」
アメリーと子供たちが僕を見つけ寄ってきた。
「モンスターはどうでしたか?」
「なんとか今の所耐えられてる感じだね、いつまで続くのか分からない状況だよ」
「そうですか、でもシュウさんが帰ってきて良かったです!そういえばお腹減ってませんか?温かいスープがありますよ!」
「ありがとうお腹ぺこぺこなんだ是非いただきます!」
子供達の手前なるべく明るく振る舞い食堂へ向かった。
ご飯をみんなと食べた後仮眠していると外が騒がしくて目を覚ました。
「モンスターが来るぞー!城壁が抜けられた!!」
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