第64話 帯とキューブと人形と


 僕と師匠が南の門に到着すると沢山の兵士が門の上から弓を撃ちゴブリンを迎撃しているようだった。


 外に出ようと思ったら門が閉まっているので通用門のところに行き兵士に声をかけた。


「すいません外に出たいんですが開けてもらえますか?」


「はぁ?!何を言ってるんだ外はモンスターだらけだぞ!死にたいのか?開けられるわけがないだろう!」


「それが子供が森に薬草を取りに行ってまだ帰って来てないんです!」


「何だって!?いや、しかしもう無理だ!この状況では助けに行くこともできない!」


 兵士と押し問答をしていると、そろそろ師匠から兵士を倒してでも通ろうかと言う雰囲気を感じ始めた時後ろから声をかけられた。


「シュウ様じゃないですか、ここで何をしてるんですか?」


 そこには数人の兵士を連れて歩くクローベルさんの姿があった。


「クローベルさん!実は孤児院の子供が南の森にまだいるみたいなんです。それで何とか助けに行きたいんですが兵士さんが門を開けてくれなくて」


 クローベルさんは少しだけ考えて門の兵士に向けて口を開いた。


「この人達を通してあげなさい」


「しかし!」


「構いません責任は私が取ります急いで!」


 クローベルさんの鶴の一声で通用門がゆっくりと開いて行った。


「ありがとうクローベルさん!」


「いえシュウ様ティーレシア様お気をつけて、ロイマリア様の加護があります様に」


「ありがとうございます、行って来ます」


 沢山のゴブリンがいたが師匠がまるで草刈りでもするかの様に倒して行くのでその後を追うと僕の後ろで扉が閉まる音が聞こえた。


 後ろに血溜まりを作りながら僕達は森へたどり着くと少しゴブリン達の数が減った気がするが、茂み等の死角から突然出てきたりするので戦いにくくなった。


 それでも師匠は出てくるゴブリンやコボルトを全て一刀の元に斬り伏せて行った。


「んーこの辺のはずだけどな?」


「この辺に隠れる場所とかがあれば良いんだけど」


 師匠がそう言った時少し遠くから叫び声が聞こえてきた。


「師匠!聞こえた?」


「行くわよ」


 僕と師匠は叫び声がする方へ急いだ。



 森の中を声のする方へと進むとそこには百日紅の様なツルツルとした木の上で助けを叫ぶカルとホップの姿があった。


 その木の足元には沢山のゴブリンとコボルトが集まって木にしがみついて登ろうとしていたがそれぞれが我先に登ろうとしているため邪魔をしあってうまく登れない様子だった。


「カル!ホップ!」


「シュウにいちゃん!助けて!」


 師匠と二人でゴブリンとコボルトを退治しカルとホップを木から下ろし体を確認したが怪我は無かった。ほとんど師匠が倒していたような気もする。


「よし二人とも怪我は無いな!帰ろうか」


「シュウにいちゃんごめんなさい」


 二人が謝ってくるので僕は頭をなでてあげた。


「大丈夫だよ薬草を二人で集めようとしてくれたんだよね。勝手に行ったのはいけないけどその気持ちは大事だよ、さぁアメリー先生が心配してるから帰ろう!」


 師匠が前を進み子供達を挟んで僕が後ろで門まで帰ると城壁の上から歓声が上がった。


 通用門までたどり着くと勝手に扉が開き向こうから兵士が招き入れてくれた。


「おかえりなさいシュウ様ティーレシア様!子供達が無事で良かったです!」


 門の中にはクローベルさんもいて声を掛けてくれた。


「シュウ様少し血が出ています、こちらへ腰をお掛けください」


 そう言うとクローベルさんが知らない間に切れていた腕を神聖魔法で治してくれた。


「ありがとうございます!神聖魔法は使えるんですね」


「元々の結界の機能をそのまま範囲を増幅した様な感じね」


 師匠が答えるとクローベルさんが口を開いた。


「あのティーレシア様はこの遺物の範囲が拡大した原因がわかりますか?!」


「見てみないと分からないわ」


 ぶっきらぼうな感じで師匠が答えるとクローベルが頭を下げた。


「お願いします。一度結界の遺物を見ていただくことはできませんか?何人かの技術者が見たのですが原因が分からなくて」


「別に良いわよ、後で教会に行くわね」


「ありがとうございます!お待ちしております!」


 クローベルと後で行く約束をして僕達は孤児院へと向かった。


「カル!ホップ!勝手に街の外へ出ちゃダメじゃ無い!」


 二人は外で待っていたアメリーに抱きしめられて涙を流していた。


「先生ごめんなさいぃ」


「でも本当に無事で良かった!シュウさんティーレシアさんありがとうございます」


「いえいえ、二人が怪我がなく無事で良かったよ、そういえばモンスターが異常発生してるみたいだからとりあえず中に入ろうか」


「そうですね、さぁみんな中に入って戸締りをしましょう!」


 アメリーがみんなを中に戻る様に促し僕達はそのまま教会へ行く事にした。


「僕達は教会に呼ばれているので行ってくるね」


「はい!本当にありがとうございました、お気をつけて」


「シュウにいちゃんありがとう!」


 アメリーと子供達に見送られ僕と師匠は教会へと急いだ。



「お待ちしておりました、シュウ様ティーレシア様!どうぞこちらへ」


 教会に行くと兵士のベンが慇懃な態度で迎え入れてくれた。


「ベンさん生きてたんだね」


「いやいや、勝手に殺さないで頂けますか、いやーその節はご迷惑をおかけいたしました。さぁどうぞこちらでお掛けになってお待ちください」


 応接室の様な部屋に案内されしばらくするとドアが開きクローベルが入ってきた。


「お待たせしました、お忙しい中ありがとうございます。早速ですがどうぞご案内させて頂きます」


 挨拶も早々に遺物がある場所へと案内されると、その部屋の入り口には兵士が二人立っていて厳重に警備されていた。


 中に入るとその部屋はドーム状になっており、壁は黒い大理石の様なツルツルした石で出来ていて、そこに色々な色の宝石やクリスタルを埋め込んであるので天井にあるステンドグラスから太陽の光を取り込み部屋全体がキラキラと輝いていた。


 その部屋の中心に地球儀の様な物を抱いたロイマリアの女神像立っていて、そこはまるで小さな宇宙の様になっていた。


「凄いねまるでこの世界を外から見たみたいだね」


「この部屋はロイマリア様が設計されて当時の最高の職人の手によって作られたと言われています」


 僕とクローベルさんが喋っていると師匠が遺物に手を伸ばし少し触ると遺物から光る文字が空中に浮かび上がった。


 そして師匠が遺物を触るたびに文字が流れてまるでプログラミングでも行っているようだった。


「すごい、こんなの見たことありません」


 そうつぶやくクローベルを尻目に師匠が操作する速度が速くなり文字も飛ぶ様に進んで行った。


 それからどれくらい時間が経ったのか分からないが師匠の指が止まりこちらを振り向いて少し驚いた顔をしたが話し始めた。


「ログを見た限りだけど、これは最近誰かが設定を変えて出力が上がり続ける様になっているわ」


「と言うと?元に戻すことはできるんですか?」


 クローベルさんが質問すると師匠が難しい顔をした。


「設定を変えた何者かによってプロテクトがかけられているわ」


「このまま放っておいたらダメなの?」


 僕が質問すると師匠は首を振った。


「このままだと動力の負担が大きくなり過ぎて遠くない何処かで暴走するわ」


「暴走するとどうなるの?」


「外へ広がっていたエネルギーが逆転してコアが崩壊してこの国が地図から無くなるわね」


「それは困る」


 急に後ろから少女の声が聞こえ振り向くと、そこには白地に豪華な金の刺繍が入った司祭服のフードを深めに被った人物が立っていた。


「ロイマリア様!!」


 クローベルが跪いたのでビックリして固まっているとロイマリアと呼ばれた司祭服が口を開いた。


「クローベル少し込み入った話をするので外してくれるかの」


「はい、御心のままに」


 クローベルさんが出て行くのを見送りロイマリアがフードを脱ぐとその見た目は肌が白くまるで陶磁の様だった。そして顔の作りはそこらにあるロイマリアの石造に似ているが少し縮尺が小さく十歳くらいに見えた。


「お主達ならそれを破壊することはできるか?」


「そうね、それが一番おすすめね。一切に余剰エネルギーを出さずに破壊できるわ、してもいいかしら?」


「それは困る、出来たらそれ以外の方法は何かないかの?」


「相当な時間をかけてプロテクトを解除するしかないわね、でもこの感じだと飲まず食わずで作業しても二年くらい掛かると思うわ。まぁ多分その前にコアが耐え切れないかな」


「ふむ、ではこのキューブを使って外部からアクセスできるか?」


 ロイマリアが突然懐からキューブを取り出してきた。


「理論上は可能ね、でもこれはあなたのキューブじゃないの?大丈夫なの?」


「流石破壊の女神じゃな、妾の魔力の流れが見えているのか、しかしまぁキューブがなくとも妾のコアの残存エネルギーならあと二百年は稼働可能じゃ、その間に国を挙げてキューブを探すわい」


「出来たらその名前はやめて欲しいわね、オートマタのコアの流れが見えていたけどコアの出力がキューブ並みね、オーダーメイドタイプかしら?」


 師匠がわけのわからない話しながらロイマリアからキューブを受け取りに行ったが、急に顔を険しくさせてロイマリアを蹴って後ろへ飛んだ。その瞬間、世界に色が失われていった。


 天井の付近からロイマリアがいた所を光の帯が通り過ぎ僕に伸びてきた。


 僕は咄嗟に右手の口呪印で光の帯を飲み込むとその瞬間、世界に色が戻っていった。


「外してしまいましたか」


 そう言いながらどこからか飛び降りてきたのはディアスだった。



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